第5話「魔力強制覚醒と全力フルパワー魔法」
「こう?」
サキは、俺が差し出した両手をしっかりと握った。
……なんか柔らかくて温かくて調子が狂うが(そもそも女子の手を握ったのは初めてだ)――そのまま魔力を高めていく。
「わわわっ……!? なにこれっ? すごい熱くなってきたっ!」
「手を離すなよ? そのまま俺の魔力を循環させて、潜在能力を解放するから」
俺は言葉通り魔力を循環させて、サキの中に眠っていた能力を強制的に覚醒させていく。
「あぁっ! は、入ってくるっ、ナサトが入ってくるよぉっ……!」
なんだ、その変な言い方は。正確には、俺の魔力が入ってくるという状態だ。
やましいことはなにもしてない。
「きゃあああああっ! 飛んじゃうぅうう!」
強制的に覚醒させられつつあるサキは悲鳴を上げて全身をガクガクと震わせる。
だが、ここで手を離したら意味がない。
「耐えろ! ギリギリまで我慢するんだ!」
「う、うんっ……が、がんばるっ……! んっ、ぐっ、ふぁぁ……あぅうっ!」
俺とサキから虹色の魔力が迸り、渦を巻いていく。
「な、なんですのっ!? こんな魔法見たことありませんわっ!」
そりゃ、そうだろう。
俺の使う魔法は、ほとんどがオリジナルだ。
やれることをやるんじゃなくて、やってみたいことを実現する。
そうじゃないと、人生楽しくない。
マニュアル通りの魔法なんて、つまらない。
「はぁ、あぁ……ナサトぉ、もう、ダメっ……あたし、おかしくなっちゃうっ」
「がんばれ! あともう少しだ!」
サキの奥底で固く閉じられていた最後の覚醒スポットを、一気にこじあける。
「あっあぁああぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
サキは激しく全身を痙攣させながら叫んだ。
それでも、握った両手は離さなかった。
「ふぁっ……はぁっ……あぁ…………はぁ……はぁあ……」
「……よし。よく耐えたな。覚醒完了だぞ!」
頬を上気させて肩で息をするサキに呼びかける。
膨大な魔力を強制的に注がれて心身の奥底にある門をこじ開けられたのだ。
心身にかかる負担は、かなりのものだったろう。
「…………ふえっ? ……あっ……も、もう……終わったの?」
「ああ、これでお前も一人前の魔法使いだ。これだけ覚醒できたら、あとは鍛練すればすぐに最強の魔法使いになれる」
俺の言葉を理解して、サキは安堵したような笑みを浮かべた。
「…………あ、はっ……! よかった! これで、あたしもナサトみたいに強くなれるんだね! ナサトの魔力すごく激しくって、びっくりしちゃったよっ……!」
「だが、おまえの魔力だって、すごかったぞ? 気を抜いたら俺の魔力も暴走させられちまうところだった」
魔力量が大きいことはわかっていたが、奥底にはさらに膨大な魔力が眠っていた。
これは、想定外だ。もしかすると、俺と肩を並べるほどかもしれない。
「あとは鍛練あるのみだな。自分の使いたい魔法をイメージして片っ端から使ってみればいい。バンバン使っているうちに威力も精度も上がっていくからな」
習うより慣れろ。
学ぶより、使ってみろ。
それが俺の教育方針だ。
「うん、じゃ、これから毎日、色々な魔法をバンバン使ってみるね!」
「おう、俺も昔は毎日ぶっ倒れるまで魔法を使ったもんだったからな。それが上達の近道だ」
だが、そこで異議を唱える者がいた。
「そんなっ! 魔導理論も学ばずにひたすら魔法を使うだなんて! それはこれまで魔法を築き上げてきた先人に対する冒涜ですわ!」
ミナミだ。若いのに、ずいぶんと頭が固い。まるで学者みたいなことを言う。
やはり魔術師の家系ということで変にプライドがあるのだろう。
「ま、なんとでも言うがいいさ。実際に戦場で役に立つかどうかが俺にとっては全てだからな。実際、昨日の戦場で、あまり魔法を行使できなかったんじゃないか?」
古典魔法の弊害は、発動に時間がかかりすぎることだ。
しかも、威力もあまり高くない。
魔物の大群を相手にする場合には、特に不利になる。
実戦では、あまりにも早さが足らない。
「くっ……そ、それは……!」
図星だったのか、ミナミは口ごもった。
昨日俺が相手した魔物たちはあまり傷ついている者がいなかった。魔法発動に手間がかかって、満足に攻撃をできなかったのだろう。
そうなると、ただでさえ防御力が低い魔法使いはダメージを一方的に受け続けてピンチになってしまう。
「後衛の魔法使いは前衛の盾役に守ってもらえばいいっていう考え方は俺のいた時代にもあった。だが、いつも誰かと組めるとは限らない」
そもそも、俺は学園から追放されたので一人だった。
なので、一人でも戦えるように速さを優先するしかなかった。
「魔法使いにスピードが加われば鬼に金棒ってやつだ。早めに魔法を使えればバリアを張ったり肉体強化の魔法も使えるからな」
誰かに守ってもらっているようじゃ二流だ。
自分の身は自分で守る。それこそが、基本中の基本だ。
だから俺は魔法だけでなく剣も鍛えた。
万が一魔法が使えなくなったら、剣で戦うのが一番だったからだ。
「うん! ひとりでも戦える立派な魔法使いになってみせるよ!」
「よしよし、その意気だ。……で、ほかに俺に教わりたい奴いるかー?」
念のため、ほかの生徒たちにも呼び掛けてみる。
「ならん! ならんぞ! そんな邪道の魔法は身の破滅を招くことになるのだ!」
そこで校長が抗議の声を上げてきた。
やはり、おっさんは、頭が固い。あれだけ俺に踊らされたのに。
タコのような顔をしてるのに、とんだ石頭だ。柔軟性に欠けている。
生徒たちも校長のせいで迷っている。そりゃ、校長に逆らったら学園の成績に響くかもしれない。だが、そんなことを言っている場合か。
「おいおい、身の破滅どころか世界が滅亡しかかってるんだぞ? そんな悠長なこと言ってる場合か?」
「うぐっ……! し、しかしっ……! 教育とは、そう簡単に捻じ曲げていいものではないのだ!」
これだから権威主義とか精神論とか唱える学校教育は嫌なんだ。
やっぱり俺の思想とは相いれない。
「ま、いいや。とにかくまずはサキを最強にしてやる。論より証拠って奴だな。それを見てから、ほかの連中も俺に教わるか考えればいい」
「うんっ、あたし最強になれるようにがんばるよ! それで、ナサトの指導が正しいって証明してみせる!」
いい心がけだ。
ここまで言われたら絶対に最強にしてやろうって気にもなる。
「おーし! それじゃ、俺に向かって好きなだけ魔法を撃ってこい! 遠慮なく全力フルパワーでいいからな! ぜんぶ打ち消してやる!」
「うん、わかった! それじゃ、えっと……あ、詠唱しなくてもいいんだよねっ! えっと、それじゃあ………………どりゃあーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
サキは俺に向けて、気合いもろとも魔法を放ってきた。
雷撃系の魔法だ。
「はは、いきなり強力なのぶっ放して来やがったな!」
制御がまったくなってないが、逆にものすごい威力だ。
完全に軍事(アサルト)レベルの超攻撃的広範囲魔法。
「でも、俺にかかれば楽勝だ」
これまでの戦いで、四天王だの魔王だのの魔法を受けてきた。
これぐらい簡単に相殺できないで救世主は務まらない。
「よっと」
両手を使うまでもない。左手で広範囲防御魔法を展開する。
強烈な雷系魔法は、俺のバリアに触れるや否や一瞬で弾け飛んだ。
「ひゃあ、すごいっ、すごーい! こんな威力の魔法初めて撃ったよ! それなのに簡単に消し飛ばしちゃうナサトすごすぎぃ!」
サキは無邪気にはしゃいでいた。
一方で、生徒たちは驚きの表情を浮かべている。
「な、なんなんですのっ、今の雷撃魔法は…………。確かにサキは暴発しなければ強力な魔法を使えるのは知ってましたが……これまでとは比べ物にならない威力ですわ……!」
やはり、論より証拠だ。実際にサキが強烈な魔法を使うのを目の当たりにして、俺たちを見る目が変わっていく。
……まぁ、いきなりこんな魔法をぶっぱなすサキは別格だが。
ちょっと左手がビリビリしてる。
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