第90話 ようやく出会えたから

「本当にいいの? 一回しかできないから、元に戻りたいとか言われてもこまるんだけどー?」


 りゅんりゅんは、遠慮がちにミミーの体に巻きついてゆく。そうは言っても、りゅんりゅんももう後に引く気持ちはないのだろう。いわば、最終確認といったところか。


「いいの。これは、あたしが決めたことよ。後悔なんてしない。カレン、これまでどうもありがとう。あなたの気持ちにこたえてあげられなくて、本当にごめんなさい」

「いいえ、ミミー様のしあわせが、ぼくのしあわせです」


 ミミーとカレンは握手を交わす。それから、ミミーはたよりなげにおれの手を握ってきた。


「あたしがおばちゃんの姿になっても、好きって言ってくれる?」

「ああ。おれは、ミミーが猫でも猫耳でも、どんなミミーでも受け入れる。愛してる、ミミー。ずっと言えなくてごめんな」

「マローン。あたしも。あたしも、ずっと大好きっ!!」


 やけにキザな言葉を吐いて照れたおれは、ミミーの手を握りつぶさない程度の力で握った。その手を握り返される。


「それじゃあ、覚悟はいいね?」


 おれたちはうなずいた。


「それじゃあいっくよぉー!! りゅんりゅんイリュージョーン!!」


 りゅんりゅんが叫ぶと、りゅんりゅんごと、ミミーの体が光に包まれる。やがて、ミミーが二人になり、それから本物のミミーが少しだけ大人になった。三十代の姿だ。


「上手にできた? りゅんりゅん天才?」

「マローン?」


 不安そうにおれの顔をのぞきこむミミーを、遠慮なく抱きしめた。おまえ、本当に三十代になっちまったんだな。その覚悟が、おれを後押しした。


「おれと、おれと結婚してくださいっ!!」

「はいっ!!」


 可能性は、無限にある。あきらめなければ、きっと、奇跡に包まれることもある。絶望の方が多いかもしれないけれど、笑いあえるだれかといられたら、それだけで強くなれるんだ。


「えっへへっ。りゅんりゅん本当は男の子だったんだぁー」

「えっ!?」


 ミミーの姿に化けたりゅんりゅんが天真爛漫な笑顔で笑う。ああ、こうしてよく見ると、ミミーだなぁ。


「じゃあ、あの昔話ってのはなんだったんだい?」

「一部を省略したかなー? どういうわけか、その頃、村ではなかなか子供が生まれなくて、隣町からさらわれてきた赤ん坊がりゅんりゅんだったの。でも、男の子だったことがわかって、とりあえず女の子として育てたんだけど、りゅんりゅんが女の子じゃなかったから、古代竜が怒ってりゅんりゅんを丸のみしたのー」


 壮絶な過去を持つりゅんりゅん。まったく、りゅんりゅんには負けるな。だけど、おかげでしあわせになれそうだぜ。


 ふわふわした高揚感に満たされるおれの顔をミミーがやさしく挟み込む。そして、彼女の柔らかな唇が触れて、その瞬間、ああずっと彼女に会いたかったんだという感情がせり上がってくる。


 愛おしい。愛してる。どんな言葉でも追いつかない。おれは、みんなの視線を無視してミミーを強く抱きしめた。


 つづく





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