第88話 アクセサリー職人、マローンの場合 〈二〉
ヒロユキが去った後、細くて白いヒモが足を伝ってきた。
「う、うわぁああああああっ!!」
おどろいて足を振り払っても、ヒモはどんどんはいあがってくる。え? もしかして、ヘビ?
ヒロユキは、ヒルに食いつかれたとか言っていたのに。
「こんばんはぁー。ひっさしぶりだねぇ、マローン」
ヘビは、どんどん大きくなって、テーブルの上に飛び移った。
「ひょっとして、りゅんりゅん?」
「そ。ずーっと、だれかが思い出して、会いに来てくれないかなぁーって期待していたのにぃー、だぁーれも来てくれないんだもん。そこにあのヒロユキが札束持ってのこのこあらわれてさぁ。もうさ、りゅんりゅんヒルの大きさまで縮んでいたわけよ、栄養不足で」
「それで、ヒロユキに食いついたのか」
「そ。ついでにここまで運んできてもらったってわけ。だからお礼に、あの男の煩悩を無料で取り除いてあげたから、またどこかで適当に生きて行くでしょうよ」
それはいいけど、おれの晩飯を食うなっての。まぁ、空腹がまぎれるのならちょうどいいかな?
「もう全部思い出したんでしょ? でも、きみのことだから、ミミーを連れ出したりしないんじゃないかと思ってここまで来ちゃった。みんなが思い出してくれたら、りゅんりゅん消滅するんじゃないかと思ってたんだけど、しなかったんだよ。だからりゅんりゅん、みんなのお役に立ちたいと思ってさぁ」
「そうそう御都合主義じゃないさ。おれにだって、立場ってものがあるんだし。だいたいミミーは本物のお姫様なんだぜ?」
「だからぁー、そこをりゅんりゅんが解決してあげようかと思ってー!!」
「はあっ!?」
まったく、なにが言いたいのかわからないけど、りゅんりゅんがどんどん大きくなって、今じゃ結構な大蛇だぞ。見つかったら大変だぞ、これ。
冷や汗をかいているところへ、ドアが乱暴に開かれた。そこには、おれを城からつまみ出した城の警備員たちがいた。
「貴様、ミミー様を誘拐してはいないだろうなっ!?」
「え? なんですか、いきなり。タキシードなら洗濯して返しますから、今日はもうお引き取りください」
だが、警備員はりゅんりゅんを見てぎょっとしながらも、遠慮なく土足で店の中を隅々まで見て回る。
「あのー、なにがあったんですか?」
「ふんっ。お姫様が行方不明なんだ。本当になにも知らないのか?」
「嫌ですよぉ。おれなんかがお姫様を誘拐するわけないじゃないですか」
「そうだな。こんな薄汚い店に、ミミー様がいるわけないよな。せいぜいヘビでもかわいがってな」
皮肉を言った警備員に、口を開けて威嚇するりゅんりゅん。さすがに警備員でもおどろくわな。
「ひぃっ。も、もし見かけたらすぐ連絡するようにっ!!」
りゅんりゅんにびびりながら店を出る警備員たち。なんだったんだよ、もう。
「やったぁー!! りゅんりゅん、役に立ったでしょ?」
「や、まぁ。追い払ってくれたんだし。ありがとうよ」
「りゅんりゅん、優勝ー!!」
おれの肩に乗っかって、うれしそうにぐるぐる回るりゅんりゅん。あれ? なんだか四十肩の痛みが消えていくぞ?
「りゅんりゅんにだって、これくらいの力はあるんだもんねぇーだ。ねぇ? りゅんりゅんの昔話聞きたくない? むしろ聞け」
「押し付けかよ。どんな話?」
「りゅんりゅんね、昔、人間だったのよー。そりゃあかわいくて有名でさぁ。でもさあ、天災がつづいたのを機に、村人たちに古代竜の生け贄にされちゃったの。で、その古代竜ってのが野蛮でさぁ。もうぱっくりと。丸のみされちゃった」
そいつはひでぇや。
「それでね、りゅんりゅん、古代竜に完全に消化されちゃう前に、古代竜を呪ったわけよ。意識だけでも奪ってやるからなーって。そうしたら、本当に意識だけりゅんりゅんになっちゃってた。あはっ。やればできるもんだよね」
あはって。やりゃあできるって、そんなわけあるかーっ。
「それでね、古代竜と同化しちゃったら、死なない体になっちゃったわけよ。もうそれがすごく、こわいのこわいのってー」
前もそんな話してたけど、あっけらかんと言うことじゃないんだけどな。
「だから、マローンは過去の記憶、ちゃんと全部思い出してね。それで、ミミーとしあわせに暮らしましたとさ、めでたし、めでたしでおわってほしいの」
「あの、さ。気持ちはわかるんだが、何度でも言うが、相手はお姫様なんだぜ? 将来は王位継承するお立場なわけだし、おれみたいな汚いおっさん、本人たちがどう思おうと、普通は認められないもんだろ?」
「だから!! りゅんりゅん考えたー!! りゅんりゅん超天才ー!!」
え? なにを考えたって? その話を聞く前に、もう一度ドアが開いた。そこには、変装をしたミミーと、カレンが入り込んできた。
「お願い、かくまって!!」
おいおい、いったいどうなっちまうんだ?
つづく
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