呪いを解く方法!! 編

第60話 それからお城は

 とりあえず魔族はこの世界から去ったように見えた。まだいたら、その時は報奨金を出しても仕留めて見せるとイヌワシの姿のままで、いさましく国王陛下は言った。


「これで、シシリーがねじ曲げてきた時空の歪みのループから抜け出すことはできたな」


 ワッシャンの言葉から察するに、魔王との戦いの先に時間が進んだことにより、シシリー様が命をかけて繰り返してきた時空の歪みが改善されたのだということで。時間が先に進めたのはいいが、結果的にシシリー様に全部任せてしまったようで、気が重い。


 それから、地下通路からカレンやとらわれていた少女たちを助け出した。


 マリンとジョージも、かなりのダメージを受けてはいたが、なんとか無事でいてくれた。


 そう、ひょっこりあのにくらしい顔が混ざっていないだろうかと目を凝らしたのはここだけの話だ。


 ヒロユキ、おまえ、おれのことをゴキブリ並みの生存力と例えてくれたけれども、おまえはそうじゃなかったんだな。


 前世でおれの妻を寝取って、栗山ちゃんとあざけり、そして会社をクビにした、あのにくらしい顔が恋しくなる日が来るなんて思ってもみなかったぜ。


 くっそ。


「マローン? 泣いているの?」


 おれはとっさに涙をぬぐった。今、泣きたいのはミミーの方だろう? なにしろ両親とおそらく永遠の別れをしてしまったのだから。


「なんのことだ? あー、灰が目に入って痛いや」

「そう言えば、四十肩は?」

「ああ!! なんか、治っちまったみたいだぜっ!!」


 カラ元気を出して力こぶを見せると、ミミーがさみしそうにうつむいた。


「そっかぁ。じゃあもう、あたしのこと、必要ないんだね」

「そんなことあるかっ!! おれはまだ、おまえさんと国王陛下の呪いを解いてないじゃないか」

「その件に関しては、対策委員が話を進めてくれておる。もう、そなたらの力を借りることはないであろう」


 そうだった。あまりに普通に過ごしすぎていて忘れていたが、おれとミミーは元々、住む世界が違いすぎていたんだ。


 ミミーはこの城のお姫様で、ワッシャンは国王陛下。カレンやマリンたちの実力があれば、衛兵に雇ってもらえるかもしれないが、おれにはその強さも若ささえもない。この城にとどまる理由は、これでなくなってしまった。


「そう、ですよね」


 ははっとかわいた笑いが口からもれた。どこか、人ごとみたいな気がしていた。おれの肩から力が抜けてゆく。


 また、旅にでも出るかな。今度はどこへ行こう? どんなうまい飯が食えるかな?


「ようし、今夜は祝杯だっ!!」


 ワッシャンの声を背に、おれはこれからの身の振り方をしみじみと考えていた。


 つづく


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