第47話 作戦
「それで、ここから先は、宿屋がないんだってさ」
「そっちを先に言えっ!!」
宿屋がないとなると、野宿するか、徹夜して先に進むしか方法がない。どっちにしても、この情報を女性陣にも伝えて、対策を取らなければならない。おれは泥酔したヒロユキを引きずって、女性陣の部屋のドアをノックした。しばらくして扉が開く。
「マローン。どうしたのだ? こんな時間に」
さすがはカレンだ。この状況にありながらも、片手には短剣が握られていた。
「実は、この先は宿屋がないらしいんだ。それと、魔族におそわれる確率が高いらしい。どうする?」
カレンは形の整った顎に指をはわせ、考え込んだ。
「それなら、万全の調子で一気に向かうしかない。しばらくここに滞在して、必要な武具や食料などをそろえよう。マローンはアクセサリーをできるだけ作って資金にしてくれるか?」
「わかった。女神様への貢ぎ物もできたしな」
そう言っておれは、女神様用の貢ぎ物である真珠を贅沢にあしらったネックレスとピアス、それにミミーには作らなかったティアラなどを見せつけた。
おれの力作に眉をしかめたカレンだけど、すぐにいつもの凛々しい表情にもどる。
「すごいな。きみには才能がある。だから、死ぬなよ?」
突然カレンの口から死という言葉が滑り出て、昼間のことかと思い出す。
「ああ。もう二度とおとりになるようなことはしない。約束するよ」
「そうしてくれ。そうじゃないと、ミミーが悲しむ」
ミミー、元気にしているだろうか? だからと言って、女子部屋をのぞくような無粋な真似はしない。
「みんなは? 元気にしてる?」
「ああ」
そう言うと、カレンはさみしそうにうつむいて、それから振り返り、ミミーを呼んだ。
「ミミー。マローンが心配しているぞ?」
「え? あたし? ちょっと待って――、はい。なぁに? マローン」
「くつろいでいたところにごめんな。今日は本当に悪かった」
「うん」
ミミーはかわいらしく口をとがらせて、甘えて見せる。
「もう二度と、おとりになろうとはしない」
「そうだよ。マローンはみんなのマローンだもん。なんだか急に、ヒロユキのものになっちゃったみたいでさみしかったけど、やっと気付いてくれたの?」
「お? ああ」
どこでどうしておれがヒロユキのものにならなければいけないのかはわからなかったが、えへへっとくだけた笑顔でミミーが笑うから、これでいいんだと思った。
「ミミー、あしたはきっと作戦会議になると思う」
「じゃあ、納屋で会議しようよ? ワッシャンの意見も取り入れないと。ワッシャンってすごいのよ。なんでもわかっているんだから」
そのかわいらしい猫耳ごと、頭をなでてやりたい衝動をおさえながら、そうだな、なんてあいづちを打つ。
「そうだな。女神様へのプレゼントもあるし」
「できたのねっ。見せて、見せてっ!!」
おれは袋の中からティアラを見せた。とたんにわぁっというため息とともに、目を輝かせるミミーがいる。
「素敵なティアラ。ねぇ、ちょっとだけあたしにも載せてくれない?」
「いや、まぁ、だってこれは」
「うん。ごめん。そうだよね。これは女神様への贈り物だものね。ごめんなさい」
「いいんだ。そのうち、ミミーにもティアラを作ってやるからなっ」
「うん。待ってるね」
そうして、この時のおれたちはまだ知らなかった。のんきにティアラについて語っている場合じゃなかったことに。
つづく
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