第22話 まぁ、いつものやつよ

 いろんなことがあったけど、翌朝。例の四十肩の激痛で目がさめる。うげ。目ざめ最低。


 うだっている場合ではなく、ジョージに手伝ってもらいながら身支度を整え、さっそくミミーにヒールをかけてもらって痛みは消えた。


「毎朝ありがとうな、ミミー。本当に助かっているよ」

「いいのー。あたし、これくらいのことしか役に立たないし、それに」


 そう言うと、ミミーは耳まで真っ赤になった。


「マローンが痛くなければ、それであたしもうれしいのっ。だからっ」

「またミミーをからかっているのか?」


 そこにカレンのご登場だい。朝から麗しいなぁ、おい。


「用がすんだのなら、ミミーを解放してやりたまえよ。朝食がまだだからな」

「こりゃすまんな。なぁ、マリン。悪いんだが、ゆうべのドリーとこれから会うんだが、食いながらでいいから、ご指導してくれませんかねぇ?」


 なにしろ、守銭奴の宝石商だ。エルフの美女にその値段では売れないと突っぱねられれば、アクセサリーの値段も跳ね上がることうけあいっ!! どーよ、こっちも守備上々だぜ。


「かまわないわよ。少しでも高く売れれば、それだけあたしたちも贅沢できるもの。それで? 夜の間にアクセサリーを作ったの?」

「ああ。なんだかゆうべは寝付けなくてな。おかげで十品ほどできたぜ」

「次は、その倍くらい作れるようになりなさい」

「はい、すみませんです」


 エルフたちにはなぜかいつも怒られてばっかりだな。


 食堂に着くと、すでにドリーが札束を持って待っていた。


「ドリー、とおっしゃったかしら? 今日からはあたしが仲介役よ。よろしくて?」

「あっは。かまわんさ。おたくのアクセサリー、あれ、すぐ買い手がついてね。もっと仕入れてこいってさ」


 なら、話は早いとばかりにマリンがどかりとイスに腰かける。


「昨日はマローンが三倍で売ると言ったけど、あたしが仲介するからには、もっと高値で売りたいの」

「こいつはまた、ずいぶんと直球だな。いいぜ? いくらほしいんだい?」


 マリンは札束にざっと目を通して、冷たく言い放つ。


「持ち金をあるだけ、かしらね?」

「なっ。おい!? おれだって生活してるんだぜ?」

「それがなに? マローンのアクセサリーは、繊細でとても価値のあるものじゃなかったのかしら? そのくらい払えないのなら、ほかの人に売るわ」

「わかった。わかったから。とりあえず今日の分を見せてくれないか?」


 あきらめたように札束をマリンに手渡すと、あいた手でアクセサリーを要求する。


「待って。あたしが確認するわ」


 おいおい、そこまで、とも思ったが、まぁしかたない。おれはおとなしくマリンにアクセサリーの入った皮袋を手渡した。


 袋の中から一つずつ丁寧にアクセサリーを取り出すマリンは、どこか恍惚とした表情を浮かべている。本当にアクセサリーが好きなんだな。


「これは、そうね。本当ならあたしが欲しいところだけれど、しょうがないから売ってあげるわ。これも素敵。あら、こっちも。ねぇ、マローン。あとであたしにもおなじようなのを作ってちょうだい」

「承知いたしました。じゃあ、仲介料ってことで」


 おれはうやうやしくお辞儀をした。正直に告白すると、自分の作ったアクセサリーにそこまでの価値があるとは夢にも思っていなかったからだ。これに関してはマリンに本気で感謝だな。


「ねぇ、あなた。ドリー。本当に買うの?」


 こらこら。自分が欲しいからってそういうことを言うんじゃない。でも待てよ。これは彼女なりのかけひきなのか?


 マリンを見れば、涼しい顔してすましてやがる。ドリーはでっぷりと太った腹を二回叩いた。


「かまわん。言い値で買い取ろう」

「やったわぁ!!」


 やっぱりかけひきはマリンにまかせて正解だったぜ。


 つづく

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