第6話 ミミーの前世

「ところでミミーは、前世でしあわせだったのか?」


 おれが命をかけて助けることができた唯一の希望。歩きながらあたりさわりのない話を振ると、ミミーはおれの声を聞くなり、力強くはいっと頷いたのだった。


「最初のダンナはろくでなしで、すぐに追い出してしまったけれど、三番目のダンナはやさしくて」


 おいおい。三人もダンナがいたのか。まぁ猫だったからな。そこら辺は複雑だったんだろうな。


「大往生を迎えるまでに、八人の子宝に恵まれたの。あ、八匹って言うべきかな?」

「いいよ、八人で。お子さん、かわいかったんだろうなぁ」


 猫の赤ちゃんは、実際に見たことがないけれど、触ったら壊れちまうんじゃないかってぐらい小さいと聞いたことがある。その命を八人も育てたってんだから、ミミーはすごいな。


「母は偉大だな」

「そんな。偉大だなんて。……でも、決めたんです。あたし、こっちの世界ではやさしい人と結婚したいなぁって」

「うんうん。おれもそう願うよ。なんだかミミーの親父さんのような気持ちになっちまってさ。今、すでに泣きそうだ」


 おれの言葉のどこかが悪かったんだろう。ミミーは何も言わずにふいっと背を向けた。三つ編みに編んだハーフアップの髪が雑に揺れている。……地雷踏んだか? だとしたら、どれがいけなかったんだ?


「マローンよ、言葉遣いには気をつけるがよい」


 すかさずワッシャンに叱られてしまった。


「あー、やっぱり。ごめんなさい」


 口ではあやまったものの、言葉の全部が悪かったんだと頭を抱えるおれに、少しすねたような顔でミミーが微笑む。


「しょうがないなぁ。今回だけ、特別にゆるしてあげるっ!!」


 その笑顔がまぶしくて、おれは草葉のこすれる音に気がつくのが遅れてしまった。


 まずい。そう思った時には、さっきの盗賊に囲まれていることに気がついた。


 魔剣はあるものの、体は自由に動かない。絶体絶命だ。


 つづく

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