第74話 竹取物語、否、竹略奪物語。爆発せよ竹取り姫

 次にすべき行動はと、わたしはアブラ取り紙のメモ書きを確認した。


 自分で言うのも恥ずかしいが男みたいな右上がりの角ばった字で、昨日の竹林へ再度採取に向かう、出入り口の強化をすべしと書き込まれていた。


 シャベルとナタを手に、昨日採取した竹林へ行く。

 両方の獲物に、わたしは簡易魔力付与をし、作業にとりかかる。


「しかしお前の魔術は優秀だな」


 竹をシャベルのノコギリ部でズバズバ切り倒すわたしに、咲子は感心していた。


「この付与魔術は焔神会えんじんかいの魔導書写本翻訳に挟まれたメモ書きの中にあったんだ」

「本来なら指定された条件のもと、時間をかけた儀式を行なうのだろう?」


「数時間程度の使用にわざわざ永続性の付与なんていらないっしょ。これ、原理的には魔力を波動と粒子に変換し、チェーンソーみたいに超高速循環させてるだけだよ」


 魔力付与されたシャベルの刃は毒々しいほど黒に近い紫色に染まっている。

 イヌガミ筋の魔力は、貴色でもある紫が基本である。と同時に、個々の魔力密度が濃いほど色濃くなり、一見すると地獄のように禍々しくなるのだった。


「わたしだと色合いの薄い安物のアメジストみたいになるだろうからな……」

「いいんじゃないの? 代わり姉ちゃんには、姉ちゃんにしかできない特技がある」


 それは血の適性が高すぎる者への守護者としての才能。

 一族の血筋をもって知識と魔力を有し、負の適性――言い換えればティンダロスの呼び声に強い抵抗力を持つのだから。


 ぶっちゃけてしまうと、自己管理を人に丸投げできるところが素晴らしい。


「うふふ。要約すると、わたしはサキ姉ちゃんのこと大好きなんだよ」

「お、おう。その辺は手加減してくれると嬉しい。わたしもお前のことは好きだが」


「わ、わたしだってタマちゃんのこと大好きだから……っ」

「うん、わたしもミコトのこと大好きだよ。愛してる、ケッコンしよう」


「本当にっ? わたし、本気にしちゃうよっ?」

「タマキよ、後先考えずに一族に波乱をもたらす発言をするのはどうかと思うぞ」


 姦しく作業をし、美琴によって空間を捻じ曲げて輸送、イヌガミの使役による反動を処置し、今度は蔓を採取に行く。

 蔓は木々のそこかしこに巻きついているので採取は簡単である。

 ちなみに、しつこく繰り返すがわたしたちは未だノーパンでノーブラだった。木に登れば当然、中身は見放題で見られ放題。わたしは咲子の尻を眺めていた。


「いやはや、いい仕事してますなぁ。サキ姉ちゃんのぷりっとしたお尻、絶景かな」

「黙れタマキ。拝観料を取るぞ。いいから手を動かせ。ほれ、蔓を下に落とすぞ」


「竹取物語のさー」

「なんだ、唐突だな。お前は脈絡なく話を変える悪癖がある」


「あいつら月の民とか天の民とか鼻高々でいるじゃん。六分の一しかない重力のせいで骨がスカスカで、強化外骨格でも装着しなきゃ地球へ来られないってのに」


「科学的に考えれば、言わんとすることはわからんでもない」

「竹の中に月の民の姫をネグレクトして、そのせいで性格が曲がった姫は、現代ならドブスの、いわゆる平安美人っしょ? 男を騙して、最後は月へ送還エンドするし」


「色々と間違ってるが、まあ気にしないでおく」

「ヤリマンの竹取り姫は爆発しろ。股間にチンコ生えてしまえ」


「う、うむ?」


「とりあえず竹の中にいる時点で魔力付与シャベルで真っ二つにしてくれる」

「何なのだその八つ当たりは」


「だってさー、竹ってやっぱり重いし、蔓で固めるのは手が痛いしー」

「が、がんばって、タマちゃん……」


「わたしが竹取りの翁だったら見世物小屋に売るか下女として酷使してやるのに」

「また恐ろしい発言を」


「大体、月で天を見上げれば地球が天上の星になるよね。ならば下民は月の民さね」

「う、うむ」


「それだけなんだけどね」

「それだけ?」


「うん、それだけ」


「オチとかは、ないの……?」

「え、ないよ? 女の子は話すのが目的で、内容に目的はないって言うし」


「う、うむ。そう来たか。予想外の魔球をキャッチした気持ちだが」

「タマちゃんって、目的に沿った内容をはっきり言うタイプだから……」


 何か間違ったことを言っただろうか。二人とも意外そうにしている。

 仮に小説などを書くとして、大仰な章区分のタイトルをつけたはいいが内容は全然関係ないという『詐欺タイトル』など、わりと手法としてアリだと思うけれども。


 まして女子高生のアホ会話である。そもそも女の子のたわいない話にいつも必要性を含めるなど、死人を生き返らせるレベルで不可能だろうに。


「アレだよ。ただの愚痴だから。お昼ごはんが楽しみだなぁー」

「すまぬ。よくよく考えればミコトはお前頼りだし、わたしは基本的に監督役として見守る性質を持つ。自然、お前が主導する立場になる。うむ、ガス抜きするといい」


「いやー、別にそういう意味じゃないんだけどね。わたしはミコトを絶対に守りたいし、サキ姉ちゃんがいるからハメを外しても軌道修正してくれるし」


「タマちゃんがいてくれるから、わたしは安心だよ。だって、大好きだもん……」


「うん。わたしもミコトのこと大好きだよ」


 お互いの気持ちを確かめ合う。しかしあまりイチャついている場合でもない。


「……さあて、戻って出入口を強化して、水を汲んで、それから鮎の塩焼きと洒落込もう。午後は、ちょっとだけ探索って感じかなー」


「では竹取り姫は爆発すべしと結論づけて、とっとと作業を片すとしよう」


 わたしたちは持ち帰った蔓で竹を縛り、出入り口を強化、水飲み休憩を挟んで、その後は鍋を手に魚籠状の罠にかかった鮎の回収に向かった。





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