第462話 久しぶりのあれやこれや
ライトにとって重大イベントだった、3月14日のホワイトデーから三日後の土曜日。
チョコレートをくれた女の子達へのお返しも無事済み、ようやくライトにも日常生活が戻ってきてから初めての土日週末である。
「はぁー……先週はずーっと木彫りの小鳥作りにかかりっきりだったから、イベントとか素材集めとか何もできんかった……先々週はラウルが下水道で大変な目に遭ってたし」
「もうすぐ春休みになるし、そしたらもっといろんなことができるけど。今日明日はできなかった分を取り戻すぞ!」
いつもなら、土日はイベントを進めるための素材集めに出かけたり、あるいは職業の習熟度上げや生産職スキルを鍛えたり、何らかの修行や作業などをしているのだが。
先週は神樹の枝を用いた小鳥の置き物作りに必死で、出かけるどころの話ではなかったのだ。
その前の週はラウルがポイズンスライム変異体と遭遇して大怪我を負い、マキシとともに病み上がりのラウルの世話をしたり。
とにかくここ最近のライトは、様々な不可抗力の出来事により各種修行もイベント推進も滞りまくっていた。
とはいえ、そんな厳しい状況の中でも朗報はある。
ラウルがネツァクの砂漠蟹殻処理依頼をこなせるようになり、ライトが頼んでいた『砂漠蟹の大鋏』と『砂漠蟹の甲羅』を大量に譲ってもらえたのだ。
「ほれ、ライトが前に欲しいって言ってた砂漠蟹の鋏と甲羅の殻。ネツァクで手に入れてきたぞー」
「ホント!? やったぁ!ありがとう、ラウル!」
ラウルがネツァクで仕入れてきた砂漠蟹の殻、その数何と三十匹分。
その全ての鋏と甲羅を全部ライトに譲るラウル。実に気前良く太っ腹である。
そのおかげでライトは砂漠蟹関連の素材のうち、六十個の大鋏と三十個の甲羅をゲット!である。
入手難易度が高かった『砂漠蟹の大鋏』を手に入れたことで、クエストイベントが一歩前進した。
最新の8ページ目で残すところはあと一つ。『グランドポーションのレシピ作成』である。
今現在、グランドポーションの材料で足りないのは『荒原鷹の斬爪』のみ。
もう一つの魔物系素材『巨大蜈蚣の硬皮』は、カタポレンの森にいる大蜈蚣を狩ることで入手できている。
今日のライトの課題は『荒原鷹の斬爪』のもとであるディソレトホークを狩ることである。
「さ、久しぶりにクレアさんのところへ行こうっと!」
出かける準備を万端整えたライトは、カタポレンの森の家から冒険者ギルドディーノ村出張所に移動した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「クレアさん、こんにちは!」
「んまぁぁぁぁ、ライト君じゃないですかぁ!お久しぶりですぅ」
ここは冒険者ギルドディーノ村出張所。
今日も人っ子一人いない閑古鳥の一大生産地で、受付嬢クレアは窓口にて仕事をしている。
三週間ぶりに会うライトの姿を見たクレア、花が綻ぶような笑顔になる。
クレアの心からの歓迎に、ライトもまた笑顔になる。
「ホントは先週来るはずだったんですけど、ホワイトデーのお返しの用意で忙しくて……」
「いいえー、ライト君にだっていろいろと予定がおありでしょうし。必ず二週間毎にここに来なければならない訳ではないので、気にしないでくださいね」
先週ディーノ村の訪問に来れなかったことを謝るライト。
そんなライトを気遣うクレアは、まるで聖女のようだ。
聖女と化したクレアが、目を細めながらにこにことライトに話しかけた。
「しかし、バレンタインデーにホワイトデーですかぁ……いいですねぇ、『青春のひとコマ』という感じで♪」
「うぐッ……ク、クレアさんだって、バレンタインデーにはチョコレートを配ったんですよね?」
「ン? このディーノ村出張所にいて、チョコレートを配る相手がいるとライト君はお思いで?」
「そ、それは……えーと、ほら、上司の所長さん、とか?」
「ここの所長は万年出張所です」
ライトの青春のひとコマ話に、クレアがうっとりとしながら青春真っ只中のライトを羨む。
そんな風に羨ましがられて、思わず言葉に詰まるライト。
気恥ずかしさを逸らすためか、クレアにもバレンタインデー話を振ってみるもどれも敢えなく撃沈する。
というか、万年出張所の所長とは一体何だろう。果たしてそれは実在する人物なのだろうか?
「そしたら来年のバレンタインデーには、仕事帰りにライト君にチョコレートを差し上げに行きますね」
「えッ、ホントですか? クレアさんからもチョコレートをもらえるなんて、ぼく嬉しいな!」
「ええ、本当ですとも。楽しみにしててくださいね」
「はい!」
BCOの看板娘であるクレアからのチョコレート。
ライトにとってそれは栄誉とか光栄どころの話ではない、まさに夢のような天にも昇る心地だ。
ライトのみならず、BCOユーザーならば誰もが有頂天になること間違いなしである。
「じゃ、ぼく出かけてきますね!」
「いってらっしゃーい、お気をつけてー」
クレアに見送られながら、ライトはルンルンのウキウキステップで冒険者ギルドディーノ村出張所を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ディーノ村から南西に数十km離れた、とある荒野。
ここは『北レンドルー地方』と呼ばれる荒野の最北端。荒涼とした岩だらけの殺風景な景色、そのところどころに木々が生い茂る土地。
ここには今日のライトの目的であるディソレトホークが棲息しているのだ。
目を凝らしてよく見ると、生い茂る木々の枝に留まったディソレトホークがライトを睨みつけている。
その木に近づいていけば、特に何をせずともディソレトホークの方からライトを襲ってくるだろう。
お目当ての他にも、ビッグワームと同種のロックワームや樹木型の魔物ストーンツリーなどがいるはずだ。
「さて、ここからは狩りの時間といきますか」
幼子の見た目をした捕食者の目がギラリと光る。
クエストイベントの遅れを取り戻すべく、ライトは怒涛の勢いで魔物達を狩っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「大漁大漁ー♪」
北レンドルー最北端で、お目当てのディソレトホーク他多数の魔物を狩ってホクホク笑顔のライト。
SP回復剤のエネルギードリンクを片手に、物理系必中スキルの手裏剣をバンバン繰り出しては一撃で倒していくライト。
なかなかにえげつない絵面であるが、いくらでもリポップする通常魔物を相手に遠慮しても仕方がない。ここは遠わ慮なく狩りまくるところである。
さらには今日の魔物狩りで、ライトの現在の職業である求道者系三次職【水神楽師】の習熟度がMAXに達したため、キリの良いところで引き上げて転職神殿に向かうことにする。
狩場から走ること小一時間、ディーノ村の父母の家に到着したライト。
立ち寄りついでに休憩も兼ねて、のんびりと草むしりなどをしていく。
ここも敷地が広いというかほぼ無人だし、ラウルじゃないけど畑にして何か栽培してもいいかもなー、と草むしりしながら考えるライト。
もっとも、自宅ではないので毎日の水やりなどできないし、何かを植えて栽培するなら多少放置しても問題ないような作物にせねばならないが。
父母の家の手入れを一通り終えたライトは、改めて転職神殿に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんにちはー、ライトでーす。ミーアさん、いますかー?」
『ようこそいらっしゃいました、勇者様―――じゃなくて、ライトさん』
ライトの挨拶に、ミーアが現れてにこやかな笑顔で出迎える。
相変わらずミーアにとってライトは勇者候補生のようで、未だにライトのことを『勇者様』と呼ぶ癖が抜けない。
だが以前ライトの「名前で呼んでください」という要望を思い出し、慌てた様子で名前で呼び直す。
ちょっと慌てふためくエルフ風巫女さん、可愛いー♪と、ライトが内心和んでいるのはナイショだ。
『今朝いらした時に『そろそろ三次職がMAXになりそうだ』と仰っていましたが、今日再びここに来られたということは三次職が満了になったのですか?』
「はい!おかげ様で【水神楽師】が完了しました!」
『では、四次職【神霊術師】に転職なさいますか?』
「もちろんです!」
ミーアの問いに、元気よく答えるライト。
そう、実は今日の朝イチにこの転職神殿に行きレベルを1にリセットしていたのだ。
魔物狩りすることが確定していたので、レベルアップによるSP回復を図るためである。
子供の身、しかもレベル1という正真正銘の最弱状態になっても魔物狩りができるのは、ひとえに各種称号と物理系必中スキルのおかげだ。
BCOというゲームシステムの威力や便利さに、改めて心から感謝するライト。
『転職すると、レベルが1にリセットされます。所持金、装備品、アイテム、スキル、職業習熟度はそのまま持ち越されますので、ご安心ください』
『どの職業に転職なさいますか?』
「【神霊術師】でお願いします!」
お決まりの転職時注意事項をミーアが述べ、ライトは承諾する。
職業システムの最高峰である四次職になるのは、これが二度目。転職時に己の身の内に流れる大きな力のうねりを、感慨の思いで体感するライト。
二つ目の四次職【神霊術師】、これをマスターすればまたヴァレリアに逢う機会が来る。
その時はどんな質問をしようかな、今から考えておかないと……
ライトはそんなことを心の中で思い浮かべながら、求道者光系三次職【水神楽師】から同四次職【神霊術師】へとステップアップしたのだった。
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久しぶりの主役ライトオンリーの回です。
最近ラウルがピンチになったりホワイトデーだったり、目覚めの湖やツィちゃんへの御礼など皆でお出かけすることも多かったですからねー。たまには主役らしいところを見せねば! ←たまには……?
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