第401話 厳しい現実と季節イベント
砂漠蟹の予約も無事入れて、ネツァクからラグナロッツァに戻ったライトとラウル。
屋敷に戻ると、魔術師ギルドに出かけていたレオニスが既に帰宅していた。
「あっ、レオ兄ちゃん。ただいまー。もう帰ってきてたの?」
「お、おかえりー。何だ二人とも、いっしょにどこか出かけてたのか?」
「うん、砂漠蟹が欲しくてラウルとネツァクの街まで行ってきたんだー」
「砂漠蟹? なーんでまたそんな珍しいもんを?」
「ぃゃー、今日のお昼にラウルに氷蟹のパスタやビスクを出してもらったんだけど。その時にラウルと氷蟹の食べ方の話をしてたら、他の蟹も食べれるのかな?ってなってさ」
砂漠蟹を買いにネツァクまで出かけたというライトに、レオニスが不思議そうな顔をして聞き返す。
砂漠蟹の入手に関して、ライトの真の目的は別のところにあるのだが『美味しい蟹を食べたい!』というのもまた本当のことなので、ここはそれを前面に出す。
「あー、まぁなぁ……確かにネツァク名物砂漠蟹は癖になる味だってのは聞いたことあるなぁ」
「そうなんだー。レオ兄ちゃんは砂漠蟹を食べたことはあるの?」
「いや、あっち方面はあまり用事もなくて行かないから……砂漠蟹のことは話に聞くだけで、実際に食ったことは一度もないなぁ。ま、今度近いうちにグライフといっしょにネツァク経由でノーヴェ砂漠に行く予定ではあるが」
「えっ、そうなの!?」
レオニスの言葉に、思わずライトが大きく反応する。
ネツァクに行く予定があるの!?そしたらそれに連れてってもらえば、砂漠蟹の大鋏もゲットできるかもしれないってこと!?何だー、そうならそうと早く言ってくれればいいのにー!
ライトは内心そう思ったものの、レオニスの次の一言で撃沈する。
「……言っておくが、ノーヴェ砂漠にはお前はまだ連れていけんからな?」
「えー、何でー?」
「そりゃお前、ノーヴェ砂漠はお前が思う以上に危険な場所だからだよ」
よほどライトの顔に『ノーヴェ砂漠行きたい!』『いっしょに連れてって!』とでも書かれていたのだろうか、先んじてレオニスに断られてしまったライト。
レオニスもライトのことをよく分かっているので、こんな時にライトが何を考えるかはすぐに想像がつくのだ。
不満気なライトに、レオニスが滾々と説明する。
「視界を遮るものが一切ない、灼熱の砂の大地。そこを通り歩いていくってのは、予想以上に厳しく強靭な体力が要る」
「そりゃまぁライト、お前だって日々カタポレンの森で走り込んだり修行して体力作りに励んではいるが、それでもノーヴェ砂漠に行くにはまだまだ足りん。そもそも森の中を走るのと砂漠を走るのとは全く訳が違う」
「砂漠の暑さに関しては、装備はこないだカイ姉に作ってもらったリバーシブルのマントがあれば大丈夫だ。だが、砂漠はとにかく足場が不安定だ。足腰が強くなきゃ長時間歩くことすらままならん」
「そんな場所で、魔物と出くわして戦える自信がお前にはあるのか?」
レオニスに問われたライトは、思わず言葉に詰まる。
確かにレオニスの言うことは全てが正しい。いくらライトが日々カタポレンの森を駆け回り修行しているといっても、所詮それは森の中のことで普通の地面を相手にしてのことだ。
だが、場所が砂漠となると話は変わる。土の地面ではない砂の地面は、歩く者の足をしっかりと支えてはくれない。
そんな厳しい場所で、魔物達に囲まれたら―――さすがのレオニスでもライトを庇いながら戦うのは厳しいだろう。
ライトとしても、レオニスの身をより危険に晒してまで同行を求める気はなかった。
「ううん……ぼくみたいな子供じゃ、今はまだノーヴェ砂漠に行くのは無理だってのは分かった……」
「……分かってくれたなら何よりだ」
「だから、ぼくがもっと大きくなって今よりずっと強くなったら、ノーヴェ砂漠にもいっしょに行こうね!」
しょんぼりとするライトに、レオニスはため息をつきながらもライトが理解してくれたことに安堵する。
いくらライトが可愛くても、時には厳しい現実を突きつけなければならない。何でも願いを叶えてやるだけが保護者の務めではない。
甘やかしてばかりで正しい認識を持てなければ、将来苦労したり危険な目に遭うのはライトだ。危険な目に遭うことも往々にしてある冒険者という世界に飛び込むならば、今の己の実力というものをちゃんと把握するのも、冒険者たる者の務めのうちなのだ。
だが、ライトがしょんぼりしたのはほんの一瞬だけで、次の瞬間にはもう明るく前を向いて将来の夢として語る。
その切り替えの早さ、未来を夢見て嬉々とするライトの前向きさにレオニスは呆気にとられる。
だが、呆気にとられるのはレオニスもほんの一瞬だけで、次の瞬間にはもうライトのその頼もしさに感銘する。
この二人の切り替えの早さ、もはや血の繋がりを超えて魂レベルでのそっくりさである。
「おう、そうだな。俺達二人で行きたい場所がまた増えたな」
「うん!そのために、これからも修行頑張るね!」
「その意気だ」
レオニスがライトの頭をくしゃくしゃと撫で、ライトもまた嬉しそうな顔で微笑む。
ライトとレオニス、二人で旅をしたい場所がまた一つ増えた瞬間だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後特に何か起こることもなく、平和な日常が過ぎゆく。
世の中は何やらバレンタインデー一色に染まりつつあり、ラグーン学園なんかでもライトの周りの女の子達は「誰にチョコレートあげるー?」「私は○○君!」などという会話があちこちで飛び交っている。
女の子はキャイキャイ、男の子はそわそわ。何とも微笑ましい光景である。
ま、ここ、現代日本企業サイサクスが作った世界だからね、バレンタインデーとかも普通にあるんだよね。季節的な行事関連も全部現代日本準拠だし。
一応バレンタインデーイベントなんかもあったけど、今はまだクエストイベントの最中だからバレンタインデーイベントは手が回らないから後回しでいいかなー。後回しっつーか、これ季節限定のイベントだから、2月14日が過ぎたらイベント欄に出ててもまた『???』に戻って来年まで封印されちゃうだろうけど。
でも今は炎の洞窟調査もしてて忙しいし、バレンタインデーイベントは来年チャレンジね!
ライトがそんなことを考えつつ、バレンタインデー色に染まるラグナロッツァの街並みを歩く。
ちなみにリリィの実家が営む定食屋『向日葵亭』でも、バレンタインデー用のメニューを出しているらしい。リリィから聞くところによると、とんかつにやオムレツにかけるソースをチョコレートソースに変更することができるのだとか。
向日葵亭はスイーツ店ではないので、大掛かりなバレンタインデーメニューは出せないが、そういうちょっとした工夫でバレンタインデーに絡めるあたりなかなかに商売上手だ。
そしてリリィが言うに「バレンタインデー限定のチョコレートソースを目当てに来るお客さんも結構いるのよ!」とのこと。
これは是非ともラウルを連れて食べに行かねば!と密かに考えるライト。やはりライトもなかなかに食いしん坊である。
そして冒険者ギルドのラグナロッツァ総本部では何と、売店で『濃茶色のぬるぬるドリンク・チョコレート味』を期間限定販売しているという。
もちろんバレンタインデー限定メニューで、販売期間は2月1日から2月14日までの二週間のみ。毎年かなりの人気を誇る逸品メニューらしい。
そのお味が非常に気になるライト、今度炎の洞窟調査の帰りに売店に寄って買おうかなー、と考えている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうこうしているうちに、再び土曜日がやってきた。
もちろん今週もプロステスの炎の洞窟調査に向かうライトとレオニス。
早めの朝食を摂り終え、それぞれに支度を済ませる。
「ライト。これ、ピースにこないだ頼んでおいた魔物除けの呪符な。お前に二十枚分渡しとくから、今日の魔物除け管理はお前に任せる。しっかり頼んだぞ」
「うん、任せといて!」
「おう、その調子だ」
レオニスが新しく仕入れたピース製の魔物除けの呪符を受け取ったライト。十枚数えて取り分けた分をマントの内ポケットに入れ、残りはアイテムリュックに仕舞い込む。
MP回復用の飴もポケットにたくさん詰め込んだし、準備万全整った二人はプロステスに向かうべく屋敷を出ていった。
====================
リアルでももうすぐバレンタインデーですが、作中時間も二月上旬でバレンタインデー真近です。
作中でもライトの回想で記述してますが、もとが現代日本のゲームを舞台にしているのでシーズンイベントも全てサイサクス世界に存在します。現にクリスマスや大晦日、お正月なども経てきましたしね。
そういやハロウィンやお年玉ネタはやらなんだなぁ。次回の該当時期になったら捩じ込もうかしら?その時期に重大事件とか起きていなければ、の話ですが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます