第349話 稀代の天才大魔導師の一番弟子

 その後竜騎士団に続き、鷲獅子騎士団の飛行ショーが開催された。

 鷲獅子はその飛行高度こそ竜に比べて低いが、それでも翼竜並みの立派な体格や見事な翼を持つ鷲獅子の天駆ける姿はとても雄々しく、観る者を魅了してやまない。

 ライトとマキシもまた、竜騎士団の飛行ショーを観た時と同じくらいにワクテカ顔でずっと食い入るように観ている。


 やがて鷲獅子騎士団の演舞も無事終了し、ライト達も外の屋上から室内に下りていった。

 大通りの屋台や出店はもう既に開店しているはずだ。ラグナ宮殿の参賀に集まっていた人々が出店のある方に押し寄せないうちに、そのまま四人で祭りに出かける。


「ねぇ、レオ兄ちゃん。竜騎士団も鷲獅子騎士団も庭園の反対側?から出てきたけど、普段からラグナ宮殿の中で竜や鷲獅子を飼っているの?」

「いや、さすがにそれはないっつーか無理。ラグナロッツァ近郊にそれぞれ専用飼育場がある。関係者以外立入禁止区域だから、どんなもんかはよく知らんが」

「へー、そうなんだー。でもまぁそうだよねぇ、いくらラグナ宮殿が広くてもあんな大きな竜や鷲獅子を全部飼育しきれないよねぇ」

「そゆこと。とはいえラグナ宮殿からあまり遠い場所に置いといても、いざという時に駆けつけられなきゃ話にならんからな。普段は近場で飼育しつつ、鍛錬や演習に励んでいるのさ」


 祭りに向かう道すがら、先程まで夢中になりながら観ていた竜騎士団や鷲獅子騎士団の質問をレオニスに聞くライト。

 翼竜牧場でナディアから聞いた話では、飛竜は翼竜より一回りも二回りも大きいと言っていた。その話に偽りはなく、遠目から見ても飛竜は明らかに翼竜よりはるかに大きかった。


 あの大きさの飛竜や鷲獅子を飼い慣らすって、すごいことだよなー。餌は何食べてんだろ?翼竜牧場の翼竜達は主にビッグワームが主食のようだけど。飛竜もビッグワーム食べてんのかしら?

 ぃゃぃゃ公国直属の騎士団だし、もうちょいいいもん食べさせてもらってるのかも?


 そんな他愛もないことをつらつらと考えていたライトだったが、ふとあることを思いつきレオニスに尋ねてみる。


「そしたらさ、あの飛行ショーで竜や鷲獅子に乗っていた人達って、竜騎士や鷲獅子騎士ってことなんだよね?」

「もちろんだ」

「それってやっぱり、そういうジョブがあるの?」

「ああ。【竜騎士】に【鷲獅子騎士】という、竜や鷲獅子に乗る資格の中でも最も適したジョブがある。それが出てくるのは万に一つあるかないか、と言われるくらいには珍しくて貴重なジョブだ」


 ライトの予想通りの答えがレオニスの口から返ってきた。

 あまりにも予想通り過ぎて、ライトは少し萎れてしまった。


「そうなんだー……やっぱそれを持ってないと竜や鷲獅子には乗れないの?」

「いや、そんなことはないぞ?最も適しているのがそれってだけの話で、他にも竜や鷲獅子に乗ることのできるジョブはあるぞ?」

「そうなの??」

「ああ、例えば【魔物使い】なら竜や鷲獅子と従属関係になれれば当然乗れるようになるし、【騎獣騎手】でも大抵の大型魔獣を乗りこなせる。あとは【竜騎兵】とか―――……」


 レオニスの解説する声が、ライトの意識から少しづつ遠ざかっていく。


 できるものなら、自分も竜や鷲獅子に乗ってみたい。それは実に少年らしい夢だ。

 だがこのサイサクス世界でその夢を叶えるには、やはり特殊なジョブを要するらしいことをライトは知る。そしてそれは、ジョブシステムに信を置かないライトにとっては到底願いを叶えられそうになかった。



『将来どんなジョブが出てくるかは分からんが……まぁおそらくは無理だろうな、どれもかなり貴重なジョブらしいし』

『つか、そもそもジョブシステムを一切信頼してない俺に、そんないいもん来るとは到底思えんしな……』

『あー、何で職業の中に【魔物使い】とかないんだ、チクショー!竜とか鷲獅子なんて、BCOでは敵側の討伐モンスターかクレア嬢のペット、それか使い魔にしかいなかったし…………ン?』



 頭の中でジョブシステムや自分の知るBCOの職業システムについて、ずっとあれこれと考えていたライト。

 その流れでライトは、BCOコンテンツの一つ『使い魔システム』のことをふと思い出した。


 使い魔システムとは、使い魔の卵を孵化させて様々な使い魔を入手して使役することができるようになる。使役といっても、BCOの中ではお使いに出してアイテムを拾わせてくるくらいしかできなかったが。

 だが、使い魔システムというコンテンツの楽しみ方、遊び方はアイテム拾いだけではない。餌の与え方によって生まれる種族や性別も変わるのだ。


 その種族は多岐に渡り、天使や精霊、神獣や幻獣、夢魔や悪霊、悪魔なんて物騒なものまであった。

 使い魔達のビジュアルも豊富で、可愛らしいものや格好良いもの、見目麗しい美麗系など様々だ。進化に失敗したプチグロ系まである。

 種族の多さに加えて雄雌オスメスの違いや進化するタイプもあったので、使い魔の種類の総数は優に百を超える。

 そしてその数多の使い魔の中に、西洋風の『ドラゴン』と東洋風の『龍』、『グリフォン』などもあったのだ。



『もしかして、使い魔の卵からドラゴンや龍を孵化させれば―――それに乗ることもできる、かも?』

『現にこのサイサクス世界で孵化させた、幻獣カーバンクルや水の精霊ウィカチャ。あの子達だって、本来のシステムのお使い以外でもコミュニケーション取れてるし、俺に懐いてくれている』

『ドラゴンか龍、グリフォンを孵化させて乗りこなせるようになれば、黄大河の原水なんかも人に頼らず自分で採取しに行けるようになるかも!』

『……よし!今度の休みは使い魔の卵を孵化させてみるか!』



「……おい、ライト?どうした?おーい?」


 レオニスの呼ぶ声が聞こえたライト、ハッ!と我に返る。

 BCOシステムの活用方法を考えることに没頭するあまり、レオニスの話し声が全く耳に入ってきていなかった。


「……あっ、ごめん!ちょっと考え事してて……」

「考え事もいいが、もうすぐラグナ宮殿に集まってた群衆がこっち来て大混雑になるからな。あんまりボーッとしてると、人の波に飲まれてあっという間にはぐれちまうぞ?」

「うん、もう大丈夫。皆とはぐれたら困るから、ちゃんとする!マキシ君、また手を繋いでくれる?」

「もちろんです!」


 BCOのシステムのことを考えだしたら、それこそキリがない。

 祭りの混雑の中で皆とはぐれたら大変だ。ゲームの考察は後でまたゆっくり考えればいい。

 今は目の前に広がる生誕祭を存分に楽しもう―――ライトは気分を切り替えて、祭りを楽しむことに専念することを決めたのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「はいはーい!皆注ぅー目ー!」

「さぁさぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!魔術師ギルドの凄腕呪符師が一筆一筆真心込めて描いた、スペシャル呪符達のお目見えだよーッ♪」


 ライト達が目指した、魔術師ギルドの出店場所。

 そこには既にたくさんの人達が呪符を求めてやってきていた。

 露天の左右には若い魔術師と老練さを感じさせる魔術師が立っており、主に若い魔術師の方が明るく元気な声で行き交う人々に出店のアピールをしている。


「机の上の呪符は見本なので、欲しい呪符が決まった人は机の奥にいる魔術人形ゴーレム1号ちゃんに声をかけてねー♪在庫があれば机の下から出してくれるよー」

「お会計は左側の小卓にいる魔術人形ゴーレム2号ちゃんと3号ちゃんのところでよろしくねッ!二列あるから、並んで順番にお会計してくれれば早く進むよー♪」


 若い魔術師がその出店のほとんどを切り盛りしているようだ。

 ライト達も先客が捌けるのを待ち、しばらくして呪符の見本が並べられている机の前にいくことができた。

 卓上に所狭しと並べられている数多の呪符。そのラインナップは、ライト達も使ったことのある『魔物避けの呪符』を始めとして『風の呪符』や『火の呪符』といった基本の六属性の初期魔法に相当する呪符、中には『悪霊退散』『集中力持続』『金運上昇』『恋愛運向上』なんて思いっきり俗世的なものまである。

 一口に呪符と言っても、それはもう様々なバリエーションに富んでいるのだ。


 それらのあまりの種類の豊富さに、ライトは興奮気味に呪符を見ている。もともとライトはサイサクス世界における呪符の類いをほとんど見たことがないので、兎にも角にも物珍しさで目移りするばかりだ。

 そんな中、レオニスは元気な売り子をしている若い魔術師に声をかけた。


「よう、ピース。久しぶりだな」

「あにゃ?レオちんでないのー!おッひさ久々ぁー!」

「お前、生誕祭で売り子なんてしてたんだな?初めて知ったぞ」

「うん!小生はねぇ、生誕祭の出店における売り子担当歴ウン十年の、ベテラン熟練ツワモノ売り子なのよー!」

「そうだったんか……」


 何とも気安い雰囲気の会話だ。その様子からして『ピース』と呼ばれたこの若い魔術師とレオニスは知己の間柄らしい。

 それにしても、天下の金剛級冒険者であるレオニスを『レオちん』と呼ぶこの魔術師は、一体何者であろうか?

 一人称も『小生』などという、これまた珍しいものを使うあたりまるでどこぞの某稀代の天才大魔導師のようである。


「そりゃレオちんは知らないよねー、今まで生誕祭中にうちの店来てくれたこと一度もないっしょ?全く以てしどいよね!」

「んなこと言われても……今までずっと冒険者ギルド総本部待機組だったからな。生誕祭を祭りとしてまともに楽しむのなんて、ぶっちゃけ冒険者になって以来今年が初めてなんだ」

「そなの?そこはパレンちゃんに苦情入れてもいいんじゃなぁい?今度会った時に小生からも文句言っとこうか?」

「ぃゃ、それは俺が進んでやってたことでマスターパレンは悪くないんで、いじめないでやってくれ……」


 若干頬を膨らませながら、レオニスに向かって文句を言う若い魔術師。その独特な言動や仕草は、ますます某稀代の天才大魔導師を彷彿とさせる。

 途中から二人の会話する様子を眺めていたライトは、思いきってレオニスに声をかけた。


「……あのー、レオ兄ちゃん。この人は、レオ兄ちゃんのお友達?」


 おずおずと声をかけてきたライトに、レオニスと若い魔術師の視線がライトに向けられる。

 二人はライトの方に改めて身体を向き直し、ニコニコ笑顔で立っているピースをレオニスが紹介した。


「ああ、こいつはピースと言ってな。フェネセンの一番弟子で、魔術師ギルドの総本部マスターだ」





====================


 フェネセンの一番弟子なる人物が出てきました。

 つか、拙作の魔術師ってどうしてこんな濃いぃ子ばかりなんだろう…(=ω=)… まぁフェネセンの一番弟子って時点で、存在感薄いだとか普通の人物な訳がないんですけども><


 ちなみにこの弟子の一人称をどうするか、結構悩みまして。

 師匠の一人称が『吾輩』なので、それと同程度の存在感を表すとしたら何がいいかすぃら?とあれこれ考えたのですが。

 余輩?乃公だいこう?何ソレ絶対通じねぇヤツじゃん><

 散々考えた挙句『小生』とすることに。


 小生という一人称は『男性がへりくだって言う語』とされながらも、同時に『自分と同等か目下の人に対して使うもの』で、使い方を間違えると横柄とか尊大に受け取られかねないという、なかなかに難しい一人称なのですね。

 でもまぁ魔術師ギルドの総本部マスターで実質トップなら問題ナッシング!

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