第219話 三種会談
三種族会談は概ね順調に進んでいった。
議題の内容は主に『オーガの里の防衛強化』である。
まずは対空策。
素手での殴り合い、いわゆる近接戦闘が最も得意なオーガ族に弓矢を持たせること。これをオーガの女衆に任せることにした。これは
「自尊心の問題で男にはできないってんなら、女に弓矢を任せるのはどうだ」
というレオニスからの提案で成立したものだ。
「女だってオーガ族の一員だ、立派な女戦士だろ」
「それにもともと弓矢ってのは膂力も求められる。引く力が強ければ強いほど、弓矢の威力も上がるからな」
「そしてそれはオーガ族の特性、怪力が活かせる場面でもある」
「男は前線で近接戦闘、女は中距離や後衛で援護射撃。バランスもちょうど取れていいじゃねぇか」
「里を守るのに男も女もねぇだろ。一族全員が一丸となって戦えるぜ?」
ニカッと笑いながら提案するレオニス。
その言にこれ以上ないくらいに得心したラキとニルは、早速その策を取り入れることにしたのだ。
ちなみにその後レオニスがボソリと言った「何なら年寄りジジイどもには後方で弩でも撃たせろ」という追加助言も、目出度く取り入れられることになった。頑張れ年寄りジジイオーガ達。
だが、対空策として考えるとやはり弓矢や弩だけではどうしても足りない。
昨日の単眼蝙蝠襲撃事件を見れば、大群の飛行種族相手に手数が限られる弓矢だけでは対処しきれないことは明らかだ。
そうなると、魔法攻撃を用いるか防衛のための結界を張るか、二択のうちのどちらかを選択することになるのだが―――
「「「「「……うーーーん……」」」」」
ここで五人全員がしかめっ面で呻る。
そう、オーガ族に魔法攻撃の会得を求めてはいけない。弓矢以上に不得手な分野なのだ。
何をどう逆立ちしても、出来んもんは出来ん!のである。
そこで出番となるのがナヌス族だ。
ナヌス族の結界はなかなかに強力だ。その威力は金剛級冒険者たるレオニスをも弾き飛ばす。
魔法が不得手なオーガ族に代わり、ナヌスに結界を張ってもらえばいい。
そう考えたのだが、実はそう簡単なことではないらしい。
ヴィヒトの話によると、
「我等は自前の結界だから、同族に対して結界が反応せずに通過できるように作れる」
「だが、ナヌスの者がオーガの里に結界を作っても、オーガ族に対する反応を消してそのまま通過させることは難しい」
とのこと。
要は、ナヌス族の作る結界は同族のナヌス族にのみ最適に働くものなので、オーガの里に結界を作ってもナヌスのようにフリーパスで出入りさせることができない、ということらしい。
だが、それを補う策がない訳ではない。
オーガの里の者に【加護の勾玉】を持たせればよいのだ。
先日ライトがナヌス族からもらった【加護の勾玉】、これを身の内に取り込んだおかげでライトは異種族ながらもナヌスの里への出入りがフリーパスになっている。
オーガの里にナヌスの結界を作って、オーガ族に【加護の勾玉】を持たせれば実質的に出入り自由になる、という訳だ。
オーガ族に持たせる【加護の勾玉】も、何も里の住人全員分を用意しなくてもいい。狩りや行商で里の外に出る者達、それに族長ラキや長老ニルなどの最高幹部達の分と若干の予備があればいいのだ。
そうして話し合った結果、【加護の勾玉】は三十個もあれば十分足りる、ということになった。
だが、ここでライトはふとあることを思い出す。
それは、ナヌスのヴィヒトがレオニス用の【加護の勾玉】を作る!と宣言した時に言っていた言葉。
その製作期間に
ライトはヴィヒトの方に向き直して問うた。
「ヴィヒトさん、三十個分の【加護の勾玉】を作るのは相当時間かかります、よね?」
ライトの突然の質問に、ヴィヒトは若干慌てながら答える。
「あ、ああ。【加護の勾玉】を作るには、特定の素材とそれなりの魔力が要るのだ」
「特定の素材とは何だ?俺達でも用意できるものなら掻き集めるぞ」
「うむ。我等もしてもらうばかりではいられんな。素材探しなど協力できることは一族総出で何でもしよう、遠慮なく言ってくれ」
ヴィヒトの答えに、すかさずレオニスが質問する。
そしてラキも素材探しの尽力を惜しまない旨を伝える。
二人の言葉を受けて、ヴィヒトは小さく頷いて意を決したように話し始めた。
「まず『
「『大珠奇魂』を作るには、いくつかの素材が要る。それは―――」
ヴィヒトが語る『大珠奇魂』を作るための素材は、以下の通りである。
====================
狗狼の呪爪 1個
高原小鬼の牙 1個
毒茨の花粉 1個
蒼原蜂の前翅 1個
サファイア 2個
====================
「これらの素材に魔力を注ぎ込み、10日以上かけて完全融合させることで『大珠奇魂』ができるのだ」
「ふむ……該当する魔物はだいたい分かるが、生息地はバラバラで一ヶ所ではないな」
「これは手分けして採取に当たった方が良さそうだな」
他の大人四人がああだこうだと話し合う最中、ライトだけは別のことを考えていた。
それはヴィヒトの『大珠奇魂』という言葉を聞いた瞬間から始まった。
目を閉じ眉を顰め、うんうんと唸りながら懸命に脳内サルベージに勤しむライト。
『大珠奇魂……はて、どっかで聞いた覚えがあるぞ……?』
『んんんん、何だったっけか……つか、この複数素材を必要とする形式は交換所アイテムっぽいが……』
『…………!!そうだ、思い出した!』
『これ、武器防具の強化素材だ!!』
ようやく思い出せたことで、喉に刺さった魚の小骨が取れたかのようにスッキリした顔のライト。
ライトの知識ではこの『大珠奇魂』というアイテム、武器や防具を鍛冶強化するために必要な強化素材だった。
まず冒険フィールドで強化素材のもととなる基材を集める。その種類はだいたい五種類。
必要な量の基材を交換所に持ち込み、基材と引き換えに強化素材を入手する。
そしてその強化素材を鍛冶屋に持ち込み、強化したい武器や防具を強化してもらう、という流れだ。
この世界に、交換所のような存在があるかどうかは定かではない。
だが、交換所で入手できる強化素材のひとつ『大珠奇魂』が実在することが先程判明した。ならば、交換所もどこかに存在しているのかもしれない。
そして『大珠奇魂』を入手する方法は、もしかしたら交換所だけではないかもしれない。その鍵は、これを強化素材として使用しているであろう鍛冶屋だ。
鍛冶屋に聞けば、何か手がかりが掴めるかもしれない。運が良ければ『大珠奇魂』が直接入手できるかもしれないし、入手はできなくてもそれを得る別の方法なり交換所の手がかりが掴める可能性は大いにある。
そう思い至ったライトは、あれこれ話し合っている四人に声をかけた。
「ねぇ、レオ兄ちゃん。ぼく、その『大珠奇魂』ってのに心当たりあるかもしれない」
「「「「何ッ!?!?」」」」
ライトの言葉に、レオニスだけでなく他の三人もギュルンッ!と首を回し一斉にライトの方に向いた。
四人の形相に、うっかりビビりかけるライト。だが、ここで物怖じする訳にはいかない。
皆の圧に若干気圧されつつ、ライトは話を続ける。
「あ、えっとね?ちょっと前に学園の図書室で、鍛冶に関する本を読んだばかりなんだけど」
「鍛冶屋さんで使う武器や防具の強化?に使うアイテムの一覧に、たしかそんな名前の品があったと思うんだ」
「だから図書室で確認して、それから鍛冶屋さんに一度聞いてみてもいいかもしれないなって思ったんだけど……どうかな?」
ライトはとっさにその知識をラグーン学園図書室由来にして話を進める。
もちろんここでも断定的なことは言わない。さらなる追求を避けるべく、なるべくふんわりとした形でぼかすことも忘れない。
「うーん、ラグーン学園の図書室ってのはそんな秘伝的知識も収録されてるのか……すげーなラグーン学園」
「何と……我がナヌス秘伝の霊薬が人族の世界にもあるとは……やはり人族は愚物などと侮れぬ」
「人族の叡智とは、我等が思うよりはるか高きところにあるようだな……」
「そ、そうなんですよねー……アハハハ……」
大人達が驚愕とともに感嘆している。ライトのせいで、何やらラグーン学園や人族の叡智がうなぎのぼりでとんでもない激高評価になっているようだ。
内心居た堪れなくなるライトだが、こればかりはどうしようもないので薄笑いを浮かべながらやり過ごす他ない。
「そうだな、そしたらライトは学園で本を確認して、もし大珠奇魂があったら鍛冶屋で話を聞いてきてくれ」
「手がかりがあればよし、なくてもそれはダメ元で調査することだから気にするな」
「俺達は俺達で、素材採取を並行して行おう。皆もそれでいいか?」
レオニスの言葉に、他の四人は力強く頷く。
三種族がこれからすることが決まった瞬間だった。
====================
ラグーン学園の図書室、いいようにライトの言い訳その他各種工作に使われております。
ですがまぁ場所柄的に探せば本当に鍛冶に関する書籍はいくつか置いてあるでしょうから、あながち嘘ばかりついている訳ではないのです。
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