第201話 ナヌスの小人達との交流

 クエストイベント1ページ目が全て満了状態になったことを確認したライト。内心でガッツポーズ&狂喜乱舞する。

 とりあえず、クエストを進めていく方法がだんだんと分かってきた。やはりスマホでポチポチ操作するだけのゲームとはだいぶ勝手が違うが、それでも何とか前世で得たゲーム知識はそこそこ活かせそうだ。


 そしてこれから先、お題にぬるぬる類が出てきても同色のぬるぬるドリンクを用いることでスライム狩りせずに済みそうなのも何気に嬉しい。

 ポーション類やエーテル類についても、クエストが進むにつれてクリアするための要求個数も100個等大幅に増えていくだろう。だが、それも小人族達と交流を深めていけばいずれは達成できるはずだ。


 イベントの報酬は家に帰ってからゆっくりと確認することにして、今日はもうイベントのことは一切考えずに小人族の人達との交流を目一杯楽しもう!とライトは思う。

 この先もクエストイベントは継続していくことだし、イベントが完了しても小人族の人達との縁は大事にしていきたい。

 小人族の歓迎の宴を受けて、ライトは心からそう思っていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その後もライトは絶え間なく自分のもとにやってくる小人族の人達と、たくさんの会話を交わした。

 小人族の種族名は『ナヌス』といい、この里のことは皆『ナヌスの里』と呼ぶのが常であること。ナヌス族の人口は約200人くらいいること。

 ナヌスは大地の神や地の精霊を信仰する民で、地属性が強い種族であること。それ故に飛べはしないが、大地や草木などの植物に関することならとても詳しいことなどを語って聞かせてくれた。


 また、小人達が次々と自分の愛称を教えてくれるが、さすがに一度に何十人何百人の名前は覚えきれない。

 だんだんと覚えていくから、これからもちょくちょく遊びに来てもいい?とライトが問うと、皆一様に明るい笑顔で大歓迎だ!と言ってくれた。

 改めて歓迎の意を示されて、ライトは喜びの笑みを浮かべる。


 とりあえず今回名前と顔が一致するレベルで覚えられたのは、族長のヴィヒトとヴィヒトの姪のリル、族長の義妹でリルの母親のティナ、歳若い衛士のエディくらいだ。

 他の小人達とも、交流していくうちに覚えられるだろう。

 ちなみに族長から見れば実弟にあたるリルの父親は、数日前から行商に出かけていて生憎不在だという。しばらくすれば戻ってくるから、その時にまた改めて紹介するとのことだった。


 確かに食料の自給自足だけでは足りないものも多いだろうから、外の世界で行商を行う必要があるだろう。行き先は主に同じ小人族や妖精族の里を中心に回るのだという。

 また、そうした交流を経ることで品物の買い付けだけでなく里の外の情報収集にも繋がる。

 だが、小人族にこの危険な魔の森を歩き渡れるような高い戦闘能力があるとも思えない。そこら辺を不思議に思ったライトは、思いきって聞いてみた。


「小人族の人達だけで行商に出るのは、危険じゃないんですか?」

「確かに我等非力な小人族だけでは、外の世界で行商するなど到底不可能だ。だが、我等には心強い盟友ともがいるのだ」

「心強い盟友、ですか?」


 不思議そうに聞き返すライトに、長はにこやかな笑顔で答える。


「ああ。このナヌスの里から程近いところにオーガの里があってな」

「オーガの里と我等は昔から友好的な交流があるのだ」


 オーガとは、強靭な体躯を誇る鬼人族だ。鬼人族にも様々な種族がありその性質や姿形は千差万別だというが、ナヌス族と親交の深いオーガ族は比較的温厚で争い事は好まないという。

 小人族のナヌスから見たら巨躯を誇るオーガは脅威であり、鬼人族のオーガから見たらナヌスは取るに足らぬ瑣末な存在であろう。

 その両者の手を友誼で結ぶ秘訣は『ナヌス族の魔法技術』だという。


「これはオーガという種族の特性なのだろうな。腕っ節は文句なく強いし、その腕っ節を活かした物理的な力仕事や荒事関連なら右に出る者はいない程に優秀なのだが」

「その反動なのかは分からぬが、オーガ族は魔法に関しては何しろからっきしでな。殆どの者がほぼ魔法を使えないのだ」

「そこで我等の出番という訳だ。彼らが必要とする魔法を我等が提供し、その見返りとして我等は安全を得るという、両得の関係が成り立つのだ」


 ここでいう『安全』というのは、ナヌスの里への不可侵以外に先程の話で出てきた行商にも関係する。

 ナヌス族の行商の護衛として、オーガ族にも行商の旅についてきてもらうのだという。


「争い事は好まないといっても襲われれば返り討ちにする程度には反撃するし、そもそもオーガ族に戦いを挑むような愚か者もこの近隣ではおらぬからな」

「我等はオーガ族の護衛や不可侵の礼に、十日は燃え尽きぬ火種を定期的に渡したり飲み水の浄化をしたり、彼らの持ち物に付与魔法を施したりしている」


 付与魔法は主に指輪に何らかの補助魔法を付けるという。指輪といっても、体格の大きいオーガの指輪は小人族にとっては浮き輪かフラフープ並みのデカさになるだろう。

 だが、身につける小物としては指輪が最小サイズなので致し方ない。


 ナヌス族はその信仰により、地属性が最も強い。それ故に魔法も地属性系が最も秀でているが、風属性以外のものならば大抵の魔法は一通り扱えるという。

 長持ちする火種や飲み水の浄化をオーガ族に提供できるのは、ナヌス族が魔法に長けた種族だからこそ可能なのだ。


「ナヌス族の皆さんって、すごいんですねぇ。ぼくもいつかオーガ族の人達にも会ってみたいなぁ」

「おお、それは是非。【加護の勾玉】を取り込みしライト殿ならば、我等一族が認めし友としてオーガ族にも胸を張って紹介できよう」

「ありがとうございます!いつかオーガ族の人達と会う機会がくることを楽しみにしてますね!」


 今回のクエストイベントにオーガ族は何の関係もないが、ライトとしては仲良くなれるものならば是非とも仲良くなりたい。

 何故ならば、彼らもまた小人族同様、ファンタジーの象徴であるからだ。

 鬼人族やオーガ族なんて前世ではリアルでお目にかかることなど絶対になかった。そんな者達と交流することができたら、どれほど楽しいだろう。

 ナヌス族の盟友とも言える程に親密な間柄ならば、人族であるライトにも友好的に接してくれるかもしれない。

 まだ見ぬファンタジー世界の住人との新たな出会いに、ライトは胸を躍らせた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「日もだいぶ傾いてきましたし、ぼくはもうそろそろ家に帰りますね」


 空を見上げながらライトが別れの言葉を切り出した。

 昼もとうに過ぎて、そろそろ空が赤く染まり始めるかという頃合いだ。


「おお、もうそんな時間か」

「えー、おっきなお兄ちゃん達、もう帰っちゃうのー?」

「うん、空が明るいうちにおうち帰らないとね。ぼくにもおうちで待ってくれてる家族がいるから」

「そっかー、じゃあ仕方がないねー」


 それまでライトを取り囲んでいた小人達、特にフォルやウィカと戯れていた子供達が残念そうな声を上げる。

 だが、ライトにも家で待つ家族がいることを知ると、それ以上駄々をこねることはなかった。


「また遊びに来るからね。次の土日……って言っても通じないか、七日後くらいにまた来てもいい?」

「うん!七日後ね!楽しみに待ってるね!」


 子供達に向けて、次に会う日の約束をするライト。

 七曜など人族のみの習慣であることに気づき、慌てて七日後と言い直す。

 そして、子供達の後ろにいた長達にも改めて声をかける。


「皆さん、今日はありがとうございました。ナヌスの人達と仲良くなることができて、ぼく本当に嬉しい!」

「歓迎の宴会も、美味しいものをたくさんご馳走してもらって楽しかったです」

「もしぼくに何か連絡したいことができたら、目覚めの湖にいるウィカに伝えてくださいね。ウィカからぼくにすぐに伝わりますので」


 ライトの言葉に、ナヌスの小人達も全員にこやかな顔で頷いている。


「じゃあ、また来ますね!さようなら!」


 時折後ろを振り返っては力いっぱい手を振り去りゆくライトに、小人達も全員手を振りずっと見送り続ける。

 ライトはフォルとウィカとともに、目覚めの湖の方に向かって帰っていった。





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 万年弟ポジションのライト君。ナヌスの子供達に『おっきなお兄ちゃん』と呼ばれて本当に大満足ですねぇ。

 ですがね?ライト君。人族以外のファンタジー系異種族というのは大抵が人間よりも長命という、鉄板のお約束事があるんですよ?

 そう、ライト君を慕うリルちゃんだって実年齢は【ピーー】歳なんですからね……


     (ディーノ村在住、キュレアさん(仮名:19歳))

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