第140話 受付嬢クレハ
邪龍の残穢を退けた後、ライト達は再び素材採取しながらツェリザークに向かう。
程なくしてツェリザークの外壁が見えてきた。
外壁に沿って歩き、行きの時にも通った城壁門に到着した。
「ひとまずツェリザークに戻ってこれたね、皆お疲れさまでした」
「そしたらまずはお昼ご飯だよね!お店とか市場とか、何があるかなー♪」
「そしたら一度、冒険者ギルドに行きましょう。私の妹のクレハも多分今頃昼休みでしょうし、ツェリザークのオススメのお店などの耳寄り情報も聞けると思います」
「「はぁーい」」
クレアの提案により、ライト達一行は冒険者ギルドに向かう。
城壁門近くにある冒険者ギルドにすぐに到着し、建物の中に入るとお昼ご飯という時間帯のせいか人は疎らだった。
朝に見た受付窓口を見ると、クレハの姿はない。交代で奥の事務所でお昼ご飯でも食べているのだろうか。
クレアは勝手知ったるギルド内部とばかりに、スタスタと奥の事務所のある方に歩いていく。ライトとフェネセンとクー太は、おとなしくクレアの後をついていく。
クレアがとある部屋の前に立ち、扉を開けた。
「お邪魔しまーす。クレハはいますか?」
クレアが声をかけると、普段の冒険者ギルドディーノ村出張所のクレアとそっくりの出で立ちの女性が振り返り、ライト達の方に歩いてきた。
「クレア姉さん、おかえりなさぁーい」
クレアと見紛う程の出で立ちと、そっくりの声にこれまたそっくりな口調のこの女性。名乗らずとも間違いなくクレアの妹であることが分かる。
「ライト君、フェネセンさん、紹介しますね。こちらは私の妹のクレハ、十二姉妹の八番目の八女です」
「クレハ、こちらは今日の私の護衛対象のライト君です。そしてこちらは大魔導師フェネセンさん、私と同じくライト君の護衛としていっしょに同行してきました」
クレアが簡単に双方の紹介を済ませる。
「はじめまして、クレハさん。ぼくはライトと言います。クレアさんにはディーノ村でいつもお世話になってます」
「吾輩は大魔導師フェネセン、クレアどんとは昔から仲良しだよ!八女?のクレハどんは初めて会うね!」
「ライト君、フェネセンさん、ご丁寧にありがとうございますぅ。私は先程姉から紹介されました通り、クレハと申します。いつもクレア姉さんがお世話になってますぅ。今日はクレア姉さんと皆様方がツェリザークに来ると聞いて、楽しみにお待ちしていたんですよー」
ライトとフェネセン、クレハの初対面同士で穏やかな挨拶が交わされる。
「ライト君はね、レオニスさんの養い子なんですよ。今もカタポレンの森の中で、レオニスさんの子守をしながらいっしょに暮らしているとてもしっかりしたお子さんでしてねぇ」
「「「子守……」」」
相変わらずクレアのレオニスに対する評価の酷さを目の当たりにする三人。
「レオニスさんって、あの金剛級冒険者のレオニスさん、ですよね?」
「あ、はい、そのレオニスです。ぼくはレオ兄ちゃんと呼んでますが」
「世界一の凄腕冒険者も、クレアどんにかかれば赤子のようなもんなんだぁねーぃ」
「何だかうちの姉がすみません……」
クレハが居た堪れないような顔つきで、ライトに軽く頭を下げる。
実妹のそんな姿を気にする様子など全くないクレア、早速とばかりに本題に入る。
「ああ、クレハ。今ここに来たのはですね、これから私達お昼ご飯なのですが。このツェリザークでオススメのお店とかありますか?」
「あら、クレア姉さん達は今からお昼ご飯なんですか?そしたら私がご案内しましょう、私もまだお昼ご飯食べる前でしたので」
「クレハさん、ありがたいですけど、お仕事の方は大丈夫ですか?」
「いいんですいいんです、上の方には『大魔導師フェネセンさんとクレア姉さんの接待してきます』と言っておけば問題なく出れますから」
「「「…………」」」
クレアより常識的に見えたクレハも、やはり芯の部分でクレアの妹である。
「それに、仕事の方は夜勤で埋め合わせしますから。では皆さん、少々お待ちくださいね、上の方と話してきますので」
クレハはそう言うと、スタスタと奥の部屋に入っていった。おそらくはそこに上司がいるのだろう。
昼に外出する分を夜勤で埋め合わせするとは、やはりクレハはとても根が真面目なようだ。
もしこれがクレアならば、埋め合わせするなどという代案すら思い浮かべることなく接待のみを行うところであろう。
「クレハは本当に真面目な子ですねぇ。というか、フェネセンさんはともかく私まで接待とかいう口実にするとは……一体どういうことでしょう?」
「ハハハ……それはほら、冒険者ギルド受付嬢としてクレアさんが優秀で名を馳せているからでは?」
「あらまぁ、ライト君てば良く分かってらっしゃいますね。こう見えて私、『サイサクス大陸全ギルド受付嬢コンテスト』の殿堂入りしてるんですよ」
適当なことを言ってクレアを宥めるつもりのライトだったが、逆にクレアが受付嬢コンテストなるものの殿堂入りという衝撃の事実を聞かされて更に驚愕させられることになるとは、夢にも思っていなかった。
というか、『サイサクス大陸全ギルド受付嬢コンテスト』とは一体どのような審査基準なのだろうか。
クレアが殿堂入りするというのだから、どのようなコンテストなのか全く以て想像もつかない。
もしかして、先程帰りの道中で邪龍の残穢を速攻で斬り伏せたクレアが言っていたような『あれくらい片手間で倒せて当たり前、それが受付嬢としての嗜み!』みたいな基準なのだろうか?
もしそうならば、クレアが殿堂入りするのも大いに納得するところなのだが。
そんなことをライトは頭の中でグルグルと考えていたら、クレハが戻ってきた。
「皆さん、お待たせしました。上の許可は取ってきましたので、日が暮れる頃までは自由に出かけられます。それまで私が責任を持って、ツェリザークの街をご案内いたします」
「まずはお昼ご飯を食べに行きましょうか。市場や他のお店は、またお昼ご飯を食べた後にゆっくり回りましょう」
「「「はぁーい」」」
クレハが先頭に立ち、ライト達はその後に続きギルドの建物を出た。
「どのお店に行くか、ですが。まずは皆様方のご予算を聞いてから決めたいと思います」
「安くてたくさん食べられるお店、高くてもいいからツェリザークでしか食べられない名物を出すお店、お値段そこそこでお味もそこそこ良いお店、どれがいいですか?」
店選びを任されたクレハの質問に対し、三人は各々考え込んだ。
「ンー、吾輩は高くてもいいから名物食べたいなー。ツェリザークに立ち寄ることもあまりないしさー」
「ぼくはきっとどこのお店でも美味しくて満足しちゃうだろうけど……でも、フェネぴょんの言うことも分かるよー。ここでしか食べられないものなら、ぜひとも一度は食べてみたいよね!」
「そうですねぇ、私としてはクー太ちゃんも入れるような個室タイプのお店ならなお嬉しいのですが」
「クレア姉さん、さすがに飲食店の店内にドラゴンを連れて入るのは無理だと思います……」
「あら、それは残念……」
クレアの要望を、クレハがやんわりと止める。
確かにドラゴンが飲食店内に入るのは、あらゆる意味で問題だらけだろう。
もっとも、クレアの拠点ディーノ村ではもはやクー太は立派な名誉住民?みたいなもので、いつでもどこでも顔パスなのだが。
だが、さすがにそれはディーノ村内限定の話であって、他所の都市ではそうはいかない。
「そうですね、クー太ちゃんだけ外で待たせるというのも可哀想だなぁ……」
「ンー、そしたら屋台とかで外でも食べられるようなものを買う?」
「それいいね、うん、そうしよっか!」
ライトとフェネセンが話し合って、クー太ともいっしょにお昼ご飯を食べられる方法を考えた。
クレアは、そんなライト達の優しさ、心遣いが嬉しかった。
「ライト君、フェネセンさん、クー太ちゃんのためにありがとうございます。我儘言って申し訳ないですが、そうしていただけると私もクー太ちゃんもとても嬉しいです」
「いえいえ、クー太ちゃんだって立派な旅仲間ですし!」
「そうそう、吾輩もクー太ちゃん含めて全員で仲良く楽しく食事したいし!」
クレアがライトとフェネセンに礼を述べ頭を下げると、二人はニコニコとした笑顔でクレアの誠意に応える。
クレハは、そんな三人のやり取りを微笑ましく眺めながら、話を進める。
「では、そうと決まればこの私クレハが最もオススメするイチ押しの屋台にご案内いたしましょう」
「「「はぁーい!」」」
「アンギャァァァ!」
ライト達一行は、クレハのイチ押しという屋台に向けて歩を進めた。
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『サイサクス大陸全ギルド受付嬢コンテスト』
何でしょう、この胡散kゲフンゲフン、ミステリアスな響きは。
イメージとしては、まんまミスコンですね。今のご時世、あらゆる意味でその存在意義が危ういジャンルだとは思いますが。
そしてクレア一族、十二姉妹の八番目のクレハさん。
間違いなくクレア嬢よりは常識的ですが、ところどころ血は争えないオーラが漏れる子なんですよねぇ。
え、彼女の見分けポイントですか?それはいずれ、見分けマスターたるレオニスの口から作中本文にて投下してもらう予定ですので、乞うご期待!
なお、その投下予定日は未定です(キリッ
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