第133話 氷の洞窟行きの準備
翌日ライトは学園での授業が終わってからすぐに帰宅し、その足でアイギスに向かう。
お店の中に入ると、そこには既にフェネセンがいてライトの到着を待っていた。
「こんにちはー、ライトでーす。……あ、フェネぴょんもう来てたの?」
「おお、ライトきゅん、おかいもー!うん、吾輩今日は午前中からここでコートやアクセサリーに魔法付与したり、コートとか先に試着したり確認してたんだよー」
「そっかー、フェネぴょんも忙しくて大変だね。お疲れさま」
「ライトきゅんもラグーン学園での授業はどう?楽しい?」
「うん、クラスの皆とも仲良くやってるし、授業も楽しいよ!」
「うんうん、それは良いことだねーん♪」
ライトとフェネセンは普段と変わらぬ様子で、和気藹々とした会話を交わす。
昨日の滂沱の涙など一切なかったかのように、いつものように元気に振る舞うフェネセン。
だが、ライトは知っている。
昨日は結局そのまま三人でカタポレンの家に泊まり、いつもの巨大なベッドでの川の字の雑魚寝。
夜が明けて朝になり、目が覚めて起きたライトの横でまだすやすやと寝息を立てて寝ていたフェネセンのその目には、涙がうっすらと滲んでいて―――ほろり、と一粒の雫となって零れ落ちたことを。
「あら、ライト君、いらっしゃーい」
「あ、メイさん、こんにちはー」
客の入店に気づいたメイが来て、ライトの姿を確認し挨拶をした。
「ライト君用のコートとズボンに、防寒ブーツも用意してあるわよ。ライト君の体格はフェネセンより小さめだけど、今後の成長を見越してフェネセンと同じサイズにしてあるわ」
「ありがとうございます」
「一応試着していく?」
「そうですね、念の為しといた方がいい、かな?」
「じゃあ、これ。いってらっしゃーい」
メイから分厚いコートとズボンを渡されたライトは、以前制服を購入しに来た時に使用した試着室にいそいそと向かっていった。
その間フェネセンは、またアクセサリーや小物類を眺めている。
いくつか手に取っているあたり、また新しく購入するつもりなのだろうか。
そうこうしているうちに、試着室からライトが出てきた。
少しもこもことしたシルエットの紺色のダウンジャケットで、縁取りのファーがお洒落なフード付きである。
ズボンも同色のダウンパンツで、間違いなく保温性抜群だ。
「ライト君、お疲れさま。着心地はどう?」
「サイズはちょっと大きめだけど、大丈夫です。着た感じもとても軽くてすごく温かいです!ここで着てると暑いくらいだけど、行き先が行き先だからちょうどいいのかな」
「そう、それは良かったわ。じゃあまた着替えてきてね」
「はーい」
ライトは再び試着室に戻った。
ライトが着替えている間に、フェネセンはメイに向かって話しかけた。
「メイにゃん、今のうちにお会計してもらっていーい?」
「分かったわ。他に何か新しく買いたいものはある?」
「んーとねぇ、これとこれとこれ、それにあっちのとそこのもちょうだい!」
「じゃあ、品物持ってきてくれる?コート類といっしょに包装して、まとめて渡すから」
「うぃうぃ、お買い物って楽しいよねーぃ♪」
フェネセンは新しく購入するアクセサリーや小物類を持ちながら、上機嫌でメイについていく。
支払いの合計金額は占めて29300G、先日カイが言った通り3万G以内で収まったようだ。
ライトも試着室から出てきて、購入するコートとズボンを一旦メイに渡す。
ライトからコート類を渡されたメイは、綺麗に畳んで丈夫な袋に入れてライトに渡した。
「お買い上げありがとうございます。ライト君にフェネセン、明日は氷の洞窟に行くんでしょ?」
「はい、日帰りなので朝早くから出かける予定です」
「そうなんだ。二人とも気をつけて行ってきてね」
「うん!メイにゃん達にも、あっちで何かお土産になるようなものあったら買ってくるからね!」
「うふふ、期待して待ってるわね」
「今日もありがとうございました。さ、フェネぴょん、帰ろっか」
「はーい!メイにゃん、まったねぇー!」
ライトとフェネセンは、アイギスを後にしてひとまずラグナロッツァの家に戻るべく帰途についた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「たっだいまー」」
「おう、二人ともおかえりー」
ラグナロッツァの家に戻ると、早速ラウルが出迎えてくれた。
「ラウル、明日はぼくとフェネぴょん、護衛のクレアさんにクレアさんのペットのドラゴン、合計三人と一頭で氷の洞窟に行ってくるから、おやつとか用意してもらえる?」
「おう、それはいいが、おやつだけでいいのか?」
「うん、お昼ご飯は多分ツェリザークの街で食べられるとは思うんだけど、休憩用のおやつも持っていった方がいいかなー、と」
「そうか、分かった」
「あ、あと会いに行くぼくの友達の銀碧狼の親子への手土産に、から揚げを多めに作ってもらえると嬉しいな。たくさん注文しちゃうけど、大丈夫?できる?」
「問題ない、任せとけ」
「ありがとう!ラウル大好き!」
「吾輩もラウルっち師匠大好きぃー!」
かなりの量になるであろう注文に、問題ないと瞬時に言い切るラウルの頼もしさにライトの顔はパァッ、と明るくなり、ラウルに抱きついた。
それに便乗したのか、何故かフェネセンまでライトと同時にラウルに飛びつきダイビングハグをかます。
身長こそレオニスと並ぶくらいの長身のラウルだが、体格的にはそこまで頑強ではないので二人からのハグにラウルは少しだけよろける。
「おっとっと、二人とも元気過ぎるぞ?」
「「えへへへ……」」
「二人とも今日はカタポレンの方に泊まるんだろ?」
「うん、そのつもりだよ。着るものとか防寒用の魔導具とかの支度があるからね」
「さっきの注文、おやつや手土産は今晩のうちに全部用意はするが。明日の朝イチに、向こうに出かける前にこっちに一度受け取りのために寄ってもらえるか?」
「それはもちろん!大丈夫だよ!」
ライトと話していたラウルは、フェネセンの方に身体を向き直した。
「フェネセンがいっしょにいるなら、たくさん作っても空間魔法陣に入れておいてもらえば持ち運びも日持ちも支障はあるまい。フェネセン、皆の食事の預かり役頼むぞ?」
「あいあいさー!このフェネぴょん、ラウルっち師匠の弟子として頑張りマッスルぅー!」
フェネセンはピシッ!と姿勢を正し、敬礼とともにラウルに誓った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ライト達はカタポレンの家に移動し、レオニスとともに食事をした後に先程アイギスで購入したコート類を出したりしながら、明日の氷の洞窟行きに使用する魔導具や持ち物などの準備をする。
「えーとねぇ、ライトきゅんのダウンジャケットにはホック式のボタンが付けられてるでしょ?」
「うん、ボタンが二列ついてるね」
「これ、表側のボタンが一個おきに違うの、分かる?」
「んー?……うん、確かに色が違うね。お洒落にするため?」
フェネセンに言われてよくよく見ると、確かにボタンの色というか模様が一個づつ交互に色が違う。
ひとつは中央が金で縁取りが赤、もうひとつはその逆で中央が赤で縁取りが金。どちらも金属質の素材のようだ。
この二種類のボタンが、交互に配されていた。
「このボタンの赤い部分はね、ヒヒイロカネなの」
「えっ!?ヒヒイロカネ!?」
「そ、こないだの足輪製作の時にレオぽんが報酬としてアイギスにまるまる渡したヒヒイロカネ。あれをカイにゃん達がこのコートのボタンに使ってくれたの」
「そんな……ヒヒイロカネなんて貴重なものなのに……」
ライトが驚くのも無理はない。ヒヒイロカネといえば、小指の爪の先程の小粒のものでさえ50万Gは下らないという超稀少な金属なのだ。
「カイにゃん達がね、ライトきゅんのコートに防寒その他の魔法付与できるように、ボタン部分にヒヒイロカネを使ってくれたの。お値段そのままサービスでね」
「吾輩も魔法付与用に、腕輪や指輪なんかも買っておいたんだけどさ?ヒヒイロカネの方が絶対に効果高いから、そっちの方に魔法付与しちゃった!」
「ま、既に魔法付与したものは明日クレアどんとクー太ちゃんに使ってもらえばいいし」
「買った腕輪とかはまた他の機会に使えるだろうから、吾輩の空間魔法陣にしまっておくけどね!」
きゃらきゃらと明るく笑いながら、フェネセンが話す。
それでもライトが困惑を隠せずにいると、今度はライトの頭を撫でながら諭すように語りかける。
「吾輩やレオぽんだけじゃなくてね、カイにゃん達にもライトきゅんはかけがえのない、本当に大事な存在なんだよ」
「それに、お金のこととかそんなに心配しなくても大丈夫。このボタンに使ってもまだヒヒイロカネは十分に残ってるってさ、カイにゃんが言ってたよ」
「…………」
フェネセンから聞かされる話に、ライトは胸が詰まる思いだった。
皆の善意がありがたく、ちょっぴり申し訳なく、でもやっぱりとても嬉しかった。
「……今度アイギスに行ったらお礼に渡せるように、明日は何か良いお土産探さなくっちゃね」
「うん、ライトきゅんが選んだお土産なら皆喜ぶと思うなー」
フェネセンはニコニコしながら言う。
「さ、お弁当以外の支度は全部済んだことだし、もう寝よっか。朝早くに起きなきゃなんないからねーぃ」
「うん、明日が楽しみだね!」
ライトとフェネセンはいつものように、大きなベッドにいそいそと潜り込みむ。二人がすやすやと寝息を立てるのに、さほど時間はかからなかった。
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ラ「フェネぴょん、このコートのヒヒイロカネのボタンには、何の魔法を付与したの?」
フ「えーっとねえ、適温維持の他に、防汚、耐氷、魔力増大、自動回復、物理攻撃反射、気配遮断、くらい?」
ラ「…………」
フ「他はレオぽんが既にお出かけ用バッグにいろいろつけたって聞いたから、明日もそれ持っていけばOK♪」
ラ「あっ、そういえばツェリザークでお土産たくさん買うかもしれないから、レオ兄ちゃんが起きてるうちにお小遣い多めにもらってこよっと」
遠足前日のような風景です。
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