第70話 レオニスのステータス
次にライトが気がついた時には、窓の外は日が傾き暮れ始めていた。
レオニスがレベルの概念を知らないことを知り、内心の衝撃を誤魔化すために寝不足と称して寝室に来たが、ベッドの上であれこれ考えるうちに本当に昼寝してしまっていたらしい。
ライトは目をこすりながら、ベッドから身体を起こす。
『ああ……俺、あのまま寝ちまったのか……』
『……いやもう、本ッ当ーーーに参った……』
『まさか、レオ兄がレベルやステータスのことを全く知らんとは』
『夢にも思わなかった……』
ベッドの上で胡座をかき、右手で頭を掻きむしるライト。
『あの様子だと、とぼけたり芝居してるようでもなかったし……そもそも、芝居してまで誤魔化さなきゃならんようなことでもない』
『ということは、あれは本当のことだ』
『超一流の冒険者であるレオ兄が、本気で知らないということは―――これは、レオ兄以外の他の人全てにも当てはまることと考えていい』
『これはどうしたもんか……職業システム同様、誰にも知られないようにするしかない、のか……』
『つーか、それしかないよなぁ、こんなん異端どころの話じゃないもんなぁ……』
『仕方ない、今後は職業同様レベルやステータスのことは一切自分からは触れないことにするか……』
『あああああ……人には話せないような、とんでもねぇ秘密ばかりが増えていく……』
そこまで考えて、ライトはふと思い出す。
『あー、そういやブレイブクライムオンラインでは、他のユーザーや試合用NPCのキャラクターデータが見れたが……』
『この世界の人達のデータも、見ることはできるのか?』
そう、ライトの知るブレイブクライムオンラインでは『試合』という対人戦要素があった。
ランダム抽出で対戦するモードもあったが、自分で相手を選びながら対人戦を行えるモードも存在していた。
その『試合』というコンテンツがあるため、PC、NPC問わず他のキャラクターの基本データを見て知ることができた。
言い替えるなら、簡易的な人物鑑定スキルのようなものである。
考えてみれば、それは当然の措置である。レベルが弱いうちに100も200も離れた格上相手と戦わされたら、たまったものではない。
自分でも勝てそうな範疇の相手でないと、試合を仕掛ける意味など全くないのだから。
とはいえ、他人から見れるデータは限られている。
名前、レベル、現在の職業、状態、HP、MP、BP、力他6種の基本ステータスとそれに付随する攻撃力等のステータス、現在装備している装備品類などだ。
所持金や課金通貨の所持量、保持しているアイテムなどの極めて個人的な資産情報や、獲得済みのスキル情報などは一切開示されない。
『他人のキャラクターデータを見たところで、試合とか仕掛けたりする訳でもないが……』
『とりあえず、可か不可かくらいは一応確認してみるか……』
そう思いながら、ライトは寝室を出て居間に向かう。
居間にはレオニスが椅子に座り、何かの本を片手に読んでいる。
レオニスはライトが居間に入ってきたことに気づき、顔を上げた。
「ライト、起きたのか?」
「うん、レオ兄ちゃん。お昼寝してスッキリしたよ」
「そうか、そりゃ良かった。明日は大丈夫そうか?」
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「いいってことよ、気にすんな」
レオニスは椅子から立ち上がり、軽く背伸びをした。
「んじゃ、ちょいと遅めのおやつにでもするか?」
「うん」
「じゃ、食堂行くかー」
「はーい」
食堂に向かうレオニスの後を、てくてくと歩きついていくライト。
先を歩いているレオニスからは、ライトの動作は見えない。
ステータスチェックするなら、今がチャンスだ。
ライトは歩きながら、『ユーザーページ』『鑑定』『アナザーステータス』など、いくつかそれらしい言葉を頭の中で浮かべてみる。
すると、ライトの目の前に【レオニス】という名前が書かれた、青い半透明のホログラム様の小さなパネルが浮かんできた。
ライトはその名前の見える部分を、指先でそっと触れてみる。
触れた次の瞬間、詳細な画面がバッ、と現れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【名前】レオニス
【レベル】528
【ジョブ】魔法剣闘士
【ジョブ習熟度】−
【称号】深紅の恐怖
【状態】通常
【HP】14999
【MP】7815
【SP】−
【BP】−
【力】5932 〖物理攻撃力〗14830
【体力】4977 〖物理防御力〗12442
【速度】3140 〖敏捷〗5024〖命中〗3768〖回避〗4718
【知力】3413 〖魔法攻撃力〗8532
【精神力】2584 〖魔法防御力〗6460
【運】401 〖器用〗600〖クリティカル〗100〖ドロップ率〗−
【上】上等な布の服(上)
【下】上等な布の服(下)
【頭】−
【腕】退魔の腕輪/ウロボロスの腕輪
【足】室内用スリッパ
【アクセ】天空神の雫 etc.
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
…………見れた、見れちゃったよ、レオ兄のステータス。
つーか、何ですかねこの化物じみたステータスは……
ライトは、あんぐりと開いた口が塞がらない。
それは、他人のステータスチェックができたという驚きもあったが、何よりもレオニスのその人外にも等しい強烈なステータスが最大の要因であった。
ライトの知るブレイブクライムオンラインでは、レベル上限250であった。
その倍以上のレベルで、しかもHPが15000でMP7800とは、驚愕の数値である。
ゲームスタート時のHP20、MP10を考えれば、この数値が如何にとんでもないかがよく分かる。
課金ユーザーですら、そこまで到達するにはかなりの月日と課金投資が必要な域の高レベルなのだ。
しかも、アクセサリーを多数着けているとはいえ、普段着状態である今ですらこれだ。古代遺跡から得たという、防御魔法もりもり組み込んだ課金装備品並みの高性能防具である深紅のジャケットその他を含む戦闘用の姿になれば、上乗せ補正で更に強くなることは間違いない。
おそらくは、今のこの状態の倍くらいになるのではないか。
あまりにも予想を超えたその数値に、ライトはもはや呆然とする他なかった。
「……ライト、どうした?まだ眠いのか?」
食堂の入口手前で立ち止まったまま、呆けているライトの顔の真ん前で手をひらひらと振りながら、声をかけるレオニス。
ライトはハッと我に返り、慌てて返事をする。
「あっ、いや、そんなんじゃない、大丈夫だよっ」
ライトも両手をぶんぶんと振りながら、ついでにさり気なくレオニスのデータページを閉じる。
食堂に到着し、出されたおやつを食べながらライトは先程目撃したレオニスのステータスのことを考える。
あれらの数値は、レオニスが持って生まれた天賦の才もあるのだろうが、レベルの数値を見る限りその後の努力の方がかなり大きいだろう。
一体どれだけの鍛錬を積めば、ここまでになれるのか。
想像もつかないほどの途方もない道のりは、ひとえにレオニスの心身の強さの表れである。
改めて尊敬の念を抱かざるを得ない。
思いがけず垣間見てしまったその数字群は、レオニスが正真正銘世界最強の冒険者であることを十二分に思い知らせるデータであった。
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一応ステータスや能力値は、詳細な算定式が存在してたりします。
その算定式を基に、レベルやレベルアップポイントの増加分を当てはめて数値を算出しています。
もちろん装備品類による増減も、織り込み済みの算定済みなのです。
決して適当に数字を並べ立ててる訳ではないんですよ?
ま、数学や物理で言うところの公式ですね。最初に決めておいた方が後々苦労しないはずなので。
勉強の方の数学物理は死ぬほど嫌いで、成績も常に下位一割に入るほどの逆トップでしたが。
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