第50話 龍虎双星
ラウルとの楽しいおやつタイムを経て、ライトとレオニスは屋敷を出てラグナロッツァの冒険者ギルドに向かっていた。
「レオ兄ちゃん、さっきはラウルとの出会いの話とか美味しいおやつ食べてて夢中になって忘れてたけど」
「ぼくの通学の防犯用?護身用?魔導具、どうしよう?」
「あー、そうだなぁ……」
そう、美味しいアップルパイとズタボロ雑巾捨てにゃんこラウル話に気を取られてしまったが、肝心の防犯用魔導具も入学前に用意しておかなければならない重要なもののひとつである。
それがないと、ライトが一人で通学するのは難しいのだ。
「まさか、あのお屋敷から学校まで馬車で往復とか無理でしょ?」
「ん?ライトがそうしたいなら、できんこともないぞ?」
「いやいや無駄に目立っちゃうから、それは無しでお願い」
「そうか?」
冗談じゃない、そんなお貴族様のようなこと、普通の平民であるぼくがする訳ないでしょ!
「んー、どういう形にすべきかな……」
「悪漢が出たら即死魔法を発動させるか、あるいは雷獣召喚で犯人を痺れさせるか……それとも煙幕弾でゴニョゴニョモニョモニョ……」
レオニスが何やらものすごーく不穏なことを、ブツブツと呟いている。
それを横で聞いていたライトは、慌ててレオニスを制する。
「ちょちょちょ、レオ兄ちゃん?周りに被害が出ない程度の簡単な策でいいんだからね?ね?人死にを出したりとか、大怪我させるようなのは絶対にダメだよ?」
ライトとしては、防犯ブザー的なものをイメージしていたのだが。ライト大事!ライト命!なライト第一主義のレオニスに任せると、とんでもなく物騒極まりない最終兵器的な代物を持たされそうだ。
心底慌てふためくライトを他所に、しばし考え込むレオニス。
「分かった分かった、安心しろ。とりあえずお前の通学の防犯対策は俺の方で何か用意するから、任せといてくれ」
「う、うん、くれぐれも過激なのはなしでお願い、ね?」
そんな会話をしているうちに、冒険者ギルド総本部に到着した。
依頼受付や買取査定などをしている大広間は、相変わらずの混雑ぶりだ。
「おっ、レオニスの旦那、今日も隠し子連れかい?」
「うるせー、お前じゃねぇんだからと何度言や分かるんだ」
「今度カタポレンの森に薬草採取に行きたいんだが、今の時期ならどれがオススメだ?」
「そうだな、今なら黒花の蔓とか毒茨の花弁なんかが取りやすい、かな」
「よう、景気はどうよ?」
「ま、ぼちぼち……って、そういやお前、こないだ約束した氷蟹の贅沢フルコース20人前、いつ奢ってくれるんだ?」
「ちょ、お前!人数倍なってるじゃねーか!」
「利子ってのは増えていくもんだぞ?」
「悪徳金貸しより酷ぇじゃねぇか!つーか、そもそも俺はそんなもん奢る約束してねぇ!俺は今すぐ隣町に移住するぞ!」
「あッ、待てコラ、逃げんじゃねー!」
相変わらずレオニスは人気者である。
そんな中、男2女3の混成5人の冒険者パーティーが声をかけてきた。年の頃は全員十代後半ってところか。
「レオニスさん、お久しぶりです」
「おお、『龍虎双星』か、久しぶりだな」
「僕達のパーティーの名前、覚えてもらえてて光栄です」
「最近お前達の活躍の話も、ぼちぼち噂で聞いているからな。頑張ってるようだな」
「はい!僕達、レオニスさんを目標にしてますから!」
「そうか、ま、俺なんぞ目指してもたいしていいことないとは思うがな。何にせよ、これからも頑張れよ」
「「「「「はい!!」」」」」
おおお、本当にレオ兄って尊敬の的なんだなぁ。
ま、そりゃそうだよね、一応はこの国どころか世界で一番強いと目されてるんだもんな。
そんなことを考えていると、最初に声をかけてきたパーティーリーダーらしき青年がレオニスに提案してきた。
「僕達今日は久しぶりにラグナロッツァに戻ってきたんで、もしレオニスさんさえよろしければ僕達といっしょにあっちの直営食堂で晩飯でも如何です?」
レオニスはしばらく考え込んで、ライトに向かって話しかけてきた。
「そうだな……まだこの時間なら、ライトといっしょに食堂入っても問題ないかな」
「よし、ライト。ちょっと早い時間だが、ギルドの直営食堂で晩飯済ませていくか?」
「うん、いいよ」
俺は即答した。先程のティータイムで腹はそんなに減ってはいないが、レオ兄以外の現役冒険者達の話も是非とも聞いてみたかったからだ。
時間的にも今は午後の5時ちょい前、夕方でまだ外も明るいうちだし、レオ兄といっしょなら大丈夫だろう。
レオニスを食事に誘ったパーティーリーダーらしき青年は、不思議そうな顔をしてレオニスに尋ねる。
「この子は……?もしかして、レオニスさんのお子さん、ですか?」
皆どうして俺を見ると、レオ兄の子供だと真っ先に考えるんだろうか。
あのね、レオ兄、まだフリーの独身よ?そりゃまぁレオ兄は今24歳だから、結婚しててもおかしくないお年頃だけどさ。
それでもレオ兄はね、まだ一度も結婚したことのない、花も恥じらう可憐な乙女以上に綺麗な身体なのよ?
嗚呼それなのに、それなのに。皆、レオ兄のやもめ扱いはやめてあげてッ!!
「ああ、こいつはライトといってな。俺の兄貴分の子で、大事な連れなんだ」
「外もまだ明るいし、こいつといっしょでいいなら飯に付き合うが」
「どうだ?」
青年は笑顔で答える。
「もちろんいいですよ!僕達もそんなに酒飲みたい訳じゃないですし」
「よし、んじゃ決まりだな。ライトといっしょにクレナにちょいと遅くなる挨拶してくるから、お前達は先に食堂行っててくれ」
「「「「「分かりました!」」」」」
若手パーティー連中の快活な返事を背に、ライトはレオニスとともに事務室のクレナの元に行く。
「よう、クレナ」
「あら、レオニスさん。本日もお疲れ様ですー」
「先日は世話になったな」
「いえいえどういたしましてー。もしよろしければ、先週から貼り出されているドラゴン素材採取クエスト、ちゃちゃっとこなしていきません?」
「お前ね……隙あらば高難易度の依頼を俺に押しつけようとするんじゃないよ」
「えー、いいじゃないですかー、あまり高難易度の依頼が溜まり過ぎて停滞するのも困るんですよー」
クレナは相変わらず営業上手だ。
もっとも、レオニスも簡単にその手には乗らないようだが。
「もしそのドラゴンのせいで人的被害が大きく出たってなったらな、そん時はすぐに受けてやるよ」
「んー、仕方ないですね。レオニスさんって、基本的に無益な殺生は好まないですもんねぇ」
「すまんな、そういうことだ」
クレナの勧誘?をさらりと躱すレオニス。
だが、これは差し迫るような事態でもないからこそできる、ある意味二人の間だけで交わされるいつものお約束的な流れなのだろう。
「ところで、本日はもうカタポレンにお帰りで?」
「ああ、それなんだがな。さっき龍虎双星の奴らに飯誘われたから、ライトといっしょに直営食堂で晩飯食っていこうと思ってな」
「そうなんですか。まぁまだ時間も早いですし、レオニスさんといっしょならライト君も連れて入っても問題ないでしょう」
「そういう訳で、帰りはもうちょい遅くなる。転移門を使うのももう少し後になるが、そんな遅い時間まで飲み食いするつもりはないからよろしく頼む」
「分かりました。本日は私も遅番ですので、0時までなら事務室にいますよ」
「そうか、クレナも大変だな。じゃ、また後で」
「はい。食堂での晩御飯、楽しんできてくださいねぇー」
クレナにもお墨付きをいただいたところで、再び大広間に戻り、そこから隣の建物の直営食堂に向かった。
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そりゃあねぇ、結婚しててもおかしくない妙齢のイケメン男性が幼子連れて歩いてたらねぇ、その人の子供?とかまず真っ先に思っちゃいますよねぇ。
特にレオニスはイケメン大王なので、周囲からは
「これだけ男前なんだから、女にも当然モテモテで引く手数多!」
「星の数ほど女を抱いてきたに違いない!」
という見方をされているので、その発想のもと『ライト=レオニスの隠し子』という疑惑がすぐに出てきてしまうのです。
実際にはハーレムとは縁遠い、極めて健全な生活および人生を送っているのですが
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