第27話 空間魔法と疎外感

 ひとまず冒険者ギルド総本部から外に出たライト達は、商店街のある大通りに向かった。


「ちょいと早いが、先に昼飯済ませちまうか」

「わーい!ラグナロッツァで初めてのお昼ご飯!レオ兄ちゃん、どこで何を食べるの?」

「今日は天気もいいし、屋台で串でも買ってベンチでのんびり食うってのはどうだ?」

「賛成ー!」


 ライトはレオニスとともに屋台に向かう。

 食欲をそそる香ばしい焼いた肉の匂いが漂ってくる。


「よっ、レオニスの旦那じゃねぇか!今日の昼飯のご指名かい?」

「おう、久しぶりだな、おやっさん。今焼けてて食える串、全部買いたいんだけどいいか?」

「おお、そりゃ大歓迎だがよ、まさかそこの坊っちゃんと二人で20本以上も食う気か?」

「いや、土産に持って帰りたいんだ」


 ディーノ村の冒険者ギルドで留守番しているアルに、お土産として買い込むようだ。

 確かに肉串ならアルも喜ぶだろう。アル、良かったな!楽しみに待ってるんだぞ!

 ……アル、お利口さんでお留守番してるかな?

 何かいたずらしたりしてないだろうな?


「そういうことなら任せときな!何なら旦那達が昼飯食ってる間に、30本追加で焼いとくか?」

「そりゃありがたい。味付け無しの素焼きでよろしく頼む」

「ほいよ、まずは旦那と坊っちゃんの分、5本な!」

「おう、んじゃまた後で寄るわー」

「まいどありー!!」


 ライト達が食べる分5本と、他の焼きたてほやほやな串20本が入れられた袋を受け取り、その代金を渡して屋台を後にした。

 すぐに食べる分はライトが手に持ち、他の20本の袋はレオニスが手のひらの近くに浮かべた空間魔法陣にポイッと収納している。

 二人は屋台の近くにある大樹の下に据えられたベンチに移動し、腰掛けて焼きたて熱々の串にかぶりつく。


はふッあつっ、んー、美味ひぃーい!」

「口ん中火傷しないように気をつけろよ?」


 さすがレオ兄、イケメン大王とは串焼きを齧る姿でさえイケているもんなんだな。

 ああでもこの肉、すんげー美味い!柔らかくでジューシーな肉汁がたまらん!

 これ、何の肉だろう?おそらくっつーか絶対に牛とか豚じゃないよね。

 間違いなく何らかの魔物肉なんだろうな。何の魔物かは想像もつかないけど。

 ……うん、種類は聞かないでおこう。美味しいは正義!その事実だけで十分なのだ!キニシナイ!


 お土産の串焼きと入れ替えに、レオニスの空間魔法陣から引き出された水筒入りのお茶を飲みながら、二人してほっと一息つく。

 このお茶は、カタポレンの森で採取した薬草を煮出したお茶だ。少し緑茶にも似た若干の渋みが、口中の肉の脂を流してくれる。んー、さっぱりして美味しい。

 また、産地が産地だけに何気に魔力豊富で滋養強壮や体力回復といった、嬉しい作用もあるのだ。

 森の恵みよ、いつもありがとう。


「レオ兄ちゃん、このあとはどこ行くの?」

「お前は本屋に行きたいんだろ?俺もついでにアルの食糧買い込んでおきたいが、今日は俺の馴染みの店にお前の紹介もしておきたいからなぁ」

「なじみの店って、どんなお店?」

「主に食糧売ってる店だな、肉とか野菜とか果物とかのな」

「うん、わかったー」


 先程の屋台でお土産の串焼きを受け取り、空間魔法陣への収納を済ませて商店街に向かう。

 その道すがらでも、レオニスはあちこちからよく声をかけられている。


「あら、レオニスさん。今日はお買い物?」

「レオさん、珍しい果物入ってきたよー、買ってく?」

「あぁん、うちの店に寄ってってぇー♪」

「よっ、こないだ頼んだ素材、どうだい?採れた?」


 様々な人に気軽に声をかけられるレオニス。その度に「おう、いつもの買い出しだ」「お、いただこうかな」「また今度な!」「もうちょい待ってくれる?」等々、適切な答えを返している。


 八百屋や肉屋などにも途中立ち寄り、山ほど購入しては空間魔法陣にポイポイひょいひょいと収納していく。

 ライトはその様子をのほほんと眺めていたが、八百屋のお兄さんに

「いやー、いつ見てもその魔法陣すごいねぇ。俺らも使えたら万々歳なんだけどなぁ」

 と話しかけられているのを見て、ライトはきょとんとなった。


「あ、ライトには言ってなかったっけ?この空間魔法陣てのも、実はかなり特殊でな。ほれ、さっき話した例の大魔導師、これもあいつに作ってもらったんだ」

「こいつの発動条件やその容量も、その人が持つ魔力量に比例するんだ。だから、もともと使える人間からして限られててな」

「まぁお前もそのうち使えるようになるとは思うが、成人して冒険者としてそれなりの実績積むまでは隠しといた方がいい」

「お前が自分で自分の身を守れるようにならんと、お前の力を目当てに人攫いから付け狙われかねんからな」


 レオニスがあまりにも普段から普通に使っているので、この世界の人なら誰でも大なり小なりそういう魔法や道具を持っているもんだとライトは思っていたが、実はそうではないらしい。


 俺、ブレイブクライムオンラインと同じでアイテムなんて個数無制限で持てるもんだと思ってたし……

 実はそうじゃなかったのね。レオ兄は金剛級冒険者だからこそ、そんな規格外の力を持ってても当たり前だと周囲に思われてただけのようだ……

 レオ兄、そういう大事なことは早くに教えといてくださいよ……


 ライトは内心冷や汗を垂らしながら、聞いていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 首都の大通りの商店街だけあって、様々な店が立ち並ぶ。食糧関連だけでなく、服屋、アクセサリー店、薬屋等々……そのどれもがライトの目には珍しく、それこそ目をキラキラさせながらレオニスといっしょに大通りを歩いていた。


「ねぇねぇ、レオ兄ちゃん、ひとつ気になることがあるんだけどー」

「ん?どうした?」

「武器屋さんとか、防具屋さんには寄らないの?」


 そう、これまでに何件か武器屋や防具屋らしき店を見かけたのだが、食糧店とは打って変わってレオニスは見向きもしないのだ。


「あー、俺、武器とか防具はこういった店では買わんからなぁ」

「そうなの?レオ兄ちゃんの武器って、確か大剣だよね?」

「ああ、他にも大抵の武器や魔法も使えるがな」

「防具は、あの赤いロングジャケットだっけ?あれに、いろんな防御魔法が組み込まれてるんだよね?」

「そうそう、ああいうの着たらもう二度とクッソ重ったい鎧だの大盾なんて着ける気起きなくなるぜ?」


 確かにねぇ、強化されたロングジャケットひとつで防御系全部賄えるなら、鎧だの盾だのなんて要らないよねぇ。

 身軽になれれば、その分敏捷値だって上がるし。


「でも、そしたら壊れた時にはどうするの?剣なら鍛冶屋さんに修理頼んだりしないの?」

「あの剣は古代遺跡から出てきた戦利品でな。ボスクラスの魔物斬っても、刃こぼれひとつ出ない頑丈さなんだ。更には自己修復機能もついてるから、わざわざ鍛冶屋で砥ぎ直す必要も一切ないんだよな」

「えッ、あの大剣って、そんなすごい剣だったの!?」


 道理でレオ兄が武器の手入れをしているところをほとんど見ない訳だ。してもせいぜい乾いた布で丁寧に拭いて、磨きをかけるくらいだったし。


 鎧代わりのロングジャケットも相当な代物のようで、厨二病御用達のような数多のベルトやチェーン、編み上げ紐などの部分にそれぞれ強力な防御系魔法が組み込まれているらしい。

 物理耐性、火炎耐性、氷水耐性、麻痺毒無効等々、それこそパーツの数だけ仕込めるんだとか。

 俺、今まであれはただ単にレオ兄のお気に入りファッションなんだとばかり思ってたよ……確かにすんげー似合ってたけど、同時に重度かつ永遠の厨二病罹患してるんだと思ってました。ごめんなさい、レオ兄。


 ちなみに今日のレオ兄は、普段のラフな格好で大剣やロングジャケットは着ていない。何故かと言えば、仕事じゃなくて買い物するだけの日だから、だそうだ。

 冒険者として行動する日はきちんと着るが、それ以外は腰に着けたナイフと腕ひとつで事足りるとか。

 防御の方も、普段着けているイヤーカフに指輪、腕輪、指なしグローブにブーツで十分なんだって。


 そういやブレイブクライムオンラインの世界でも、武器や防具、アクセなどはゲーム内通貨で買うものではなかったな。売ってるショップは一応あったが。性能的にショボ過ぎて、初心者ユーザーにすら見向きもされない始末だった。

 そういう装備品、武具防具やアクセの類いは基本的に課金で得るものだった。装備ガチャだったり、あるいは課金任務から出る報酬だったり。

 ゲーム内通貨で買う装備より、課金で得る装備の方が強いのは当たり前のことであり、何もブレイブクライムオンラインに限った話ではないとは思うが。

 レオ兄の大剣も、話を聞くにおそらくはそれに近しい性質の品なんだろう。


 しかし、空間魔法陣のことといい大剣のことといい、俺ってレオ兄にまだ何も教えてもらえていないんだな。

 それってやっぱり、俺がまだ小さな子供だから、だろうか?それとも、俺には教えてもらう資格などないのだろうか?あるいは、俺は信用に足る人間ではないのか?


 ライトはそんなネガティブなことばかり考えてしまい、表情を曇らせていた。

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