第17話 湖での釣り
釣りのことを考えながら寝落ちしてしまった翌日の朝、レオニスに早速釣り竿作りの相談をするライト。
「レオ兄ちゃん、アルにお魚も食べさせてみたいんだけど、釣り竿ってどうやって作ればいいのかなぁ?」
「釣り竿か?倉庫に何本かあるぞー。全部魔法で強化した素材で作ってあるから、巨大な海竜やリヴァイアサンでも一本釣りできる頑丈さだぜ!」
朝から元気なレオニスに、親指立ててビシッ!と言われ、力が抜けかけたライト。昨夜の必死な脳内作戦会議は一体何だったのか……
というか、川釣りや湖での釣りならともかく、海からはるか遠く離れたこの森の中に住んでいて、巨大海竜をも一本釣りできるような頑強な竿がどこで要るの?リヴァイアサンて、森で出会える生物だったっけ?
「サバイバルグッズなら任せとけ、大抵のものは揃えてあるぜ!」
「魚獲りなら、釣り竿の他にもタモ網に銛に投網に小舟もあるぞ!」
うん、さすがだレオ兄。冒険者たる者、常に備えておかなければね!
「湖で釣りするなら、ラグナロッツァにある釣り専門店から大型船取り寄せてもいいし。何なら空から投網で一網打尽するか?」
うん、それは風情や情緒のへったくれもないから絶対にやめようね!
第一そんな一気に一網打尽しちゃったら、湖の生態系瞬時に破壊しちゃうでしょ!環境破壊、イクナイ!メッ!
つーか、モノホンの網使って文字通り一網打尽とか、ダジャレにもなんないから!
ヤァマダくーん、レオ兄の座布団365枚持ってっちゃってー!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
早速その日のうちに、魚を獲るべく家から結構離れた場所にある大きな湖、通称『目覚めの湖』に遠出したライト達。
小舟で湖の中央付近にある小島に移動し、早速釣りを始める。
使う釣り餌はライトとレオニス二人のお手製、その名も『魔物のお肉たっぷり激ウマ絶品スペシャルミートボールくん・こぶし大』。
こぶしの大きさは、レオニス準拠。大きな湖だから、おそらくはそれなりの大きさの魚がいるはず!という、二人の希望的予測に基づく大きさである。
そこでしばらくはのんびりと過ごすべく、いそいそと釣り竿を取り出して釣り糸を垂らし始める二人。
すると、早速レオニスの方に当たりが来た。レオニスは渾身の力で竿を引き上げた。その竿に見事にかかった獲物は何と―――
「お前ッ!」
「何で海洋生物が湖にいるんだッッ!!」
「ここは森のド真ン中だぞッッッ!!!」
「おッッッッ……かしいだろ!!!!」
それはそれは巨大なイカの化身、クラーケンであった。
淡水湖である湖に、本来いるはずのない海の生き物がいる―――驚く以前にあまりの理不尽さに逆ギレし、腹の底から絶叫するライト。
前世の常識をいとも簡単に覆してくれるのは、ここがソシャゲベースの世界だからか。
怒髪天を衝く勢いで発するライトの怒号は、湖全体の水面をビリビリと揺らす。そのあまりの剣幕にビビりまくるレオニス。
その一方で、見事に釣り上げられたクラーケン。胴体部分だけで15メートル以上はあろうかという巨体だ。
どうやら海竜やリヴァイアサンをも一本釣りできるという頑強な釣り竿は、森の中においても立派な必需品だったようだ。
さすがは世界一の冒険者レオニス、その先見の明は地球の裏側をも見通せそうな慧眼である。
さて、見事に釣り上げられたクラーケンを改めて見る。
巨大なその姿は一見恐ろしく感じるが、実は温厚な性格のやつのようで、何と陸の上で平身低頭しながら幾本もの触手と吸盤を合わせて涙目で懇願してきた。
(ライト『!!!!!』)
(レオニス『!!!!!』)
(アル『?????』)
その愛らしくも前代未聞な光景は、ライト達一行に落雷の如き衝撃を与える。
涙のようなものを目からポロポロと流しながら、両手??両足??をスリスリと合わせるクラーケン。そのあまりの諸々の姿に、絶句しながら見上げる一同はそれぞれ思うところがあるようだ。
(ライト『……くそッ、可愛いぃぃぃ……』)
(レオニス『ぅわー、何だかおもしれーことが起きてるぅぅぅぅ』)
(アル『クゥン?』)
結局その場でとどめを刺すには至らず、ひとまずは触手の先を少しだけ切り取らせてもらうことにした。ライト曰く
「爪切りみたいなもんだよね!」
「よし、これをお持ち帰りしてお味見して、おいしかったらまた爪切りでおすそ分けしてもらおう!」
「さすがに刺身はマズいかな?まものの生食とか、アルは良くても人間にはふつうに考えて……むりぽ?」
「ならまずは、イカ焼きからかな!お好み焼きの具材にもいいかも!ヒャッハー!」
「レオ兄、爪切りのお礼に、クラーケンにハイポいくつかあげてね!」
「あ、エクスポはダメだよ、あれ以上大きくなっちゃったら困るし、湖の生態系的にもいろいろとマズいから」
とのこと。最初の理不尽さへの怒りはどこへやら。
一転して小躍りまで始めた上機嫌なライトを、レオニスは少し離れたところから見ながら内心で恐れ慄く。
『……これ、毒あって食べられなかったら―――大暴れするフラグじゃね?』
『まぁクラーケンてのは普通に食用として出回ってるし、見た感じ焼けば魔物の肉同様問題なく食えそうではあるが……』
『一応念の為に、調理する前に解毒魔法と浄化魔法かけとくか……』
「キャッホーイ!これでイカ焼き食べ放題だー!」
「爪切りとハイポ回復の無限ループ、完全養殖の完成でーす!ハイッ、いただきました、星・よッつですッッッ!自給自足の養殖産業、バンジャーイ!」
「お味見して超絶おいしかったら、次は脚1本まるごといただいちゃおっかなー!脚たくさんあるし、生え替わりそうだから、1本くらいまるまるもらっちゃっても平気だよね!」
「そん時はハイポじゃなくて、エクスポたくさんあげよう!脚切るのが痛そうだったら、催眠魔法で眠らせてからカットすればいいし!」
その場でクルクルと回りながら、かつてないほどにご機嫌な様子のライト。ところどころで物騒な単語がチラホラと見え隠れしているが、今はとにかく皮算用に夢中で大忙しのようだ。
ライトの大いなる野望は、果てしなく広がる。その皮算用は、無事実現できるのであろうか―――
【後日談に続く】
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