第68話
「や、別に騙すつもりじゃなかったんだけど。ただ、とうやまさんが、孫娘の“ゆみちゃん”と話をしているつもりなら合わせなくちゃって思って」
そしたら、言い出す機会ないでしょ? そう言って肩を竦めるまゆみさん、いや、まゆみくん? は、髪型や服装こそ中性的だけど、よく見ると男前だ、と、依里子は思った。なのに、なんで私、女の子と思っていたんだろ?
「思い込みとは、不思議なものですね」
アイが、心を見透かしたように言う。
「女の子らしく振舞う癖もあったしね」
「…女の子に、なりたかった? 自分では女の子と思っている?」
1世紀前ならかなりな問題発言になりそうなつかの質問、だが、今どき誰もこんなことには驚かない。肯定の返事が来ても、ああそう、で終わる話題だ。
「いや、別に。…あ、でも、女の子だったらよかったって思ったことはあったかも。まだ小さくて、事情がわかっていなかったころは、お姉ちゃんのほうが可愛がられるのは、女の子ほうが可愛いからだと思っていたから」
もしも女の子だったら、お姉ちゃんよりも可愛かったら、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん、みんな、もっと自分を見てくれるだろうか、なんて。
笑い話のように言っているけど、幼い彼が真剣だったことは、依里子には、容易に想像できた。自分も、似たようなことあったから。どうすれば、お兄ちゃんじゃなく自分を見てもらえる? 病気にはなれないけど大怪我をしたらどうかな? と。浅はかな考え、だけど、真剣だった。
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