第315話 フパーク村より。

 ここはパラスオアシスの近くにあったフパーク村。


 その村でアレン達が借りている宿屋の一室。


 宿屋の二階に位置している部屋の中にはアレン、カトレアの二人が居て思い思いに寛いでいた。


 アレンは部屋に備え付けられていたベッドにゴロンと横になって呟く。


「あぁ、十日ぶりのベッドはいいな」


「アレンはラクダの背の上で寝るのも気持ちよさそうでしたが?」


 カトレアは自身のバックの整理をしながら、アレンの呟きに答えた。


「アレは、アレでいいのだが……やっぱりベッドな格別だな」


「そうですか。私はベッドよりも風呂に入りたいですね」


「確かに……ルバ村には風呂はなかったもんな。フパーク村にはないのかな?」


「どうでしょうか? 明日聞いてみましょう」


「そうだな。ただ……この村はオアシスの近くに作られているとはいえ、水は貴重だろうから期待はできなさそうだが。ふぁー」


 会話の途中で、アレンが大きく欠伸をする。


 ちょうど会話が途切れたところで部屋の扉が開き、木の樽を抱えていたルルマが入ってきた。


「タダイマ」


「んー……お帰り」


「お帰りなさい」


 アレンは眠たげな眼で、カトレアは自身のカバンを整理しながら、帰ってきたルルマに声をかけた。


 ルルマは抱えていた木の樽を備え付けのテーブルの上に置く。


「ウン、ミズヲカッテキタ」


「おぉ、ありがとうぅ」


「アレン、ネムソウ」


「んーベッドが最高すぎる」


「ナルホド」


「あの王子様はどうしていた?」


 アレンの問いかけに、ルルマは視線を巡らせると口を開く。


「アーナンカ、ツカマッテイタ。ナカマヲミツケタトカ」


「おーそれはよかったなぁ。何とか仲間と出会えて……王子様も俺達から離れても生きることができるかな」


「アーソレデ、アレントハナシガシタイトイッテイタヨ」


「んー? 何かあったかなぁ」


「ナンデモ……」


 ルルマはザッジムが話したという内容を話して言った。


 十分ほど、ルルマの話を聞いたところでアレンは腕を組んで難しい表情を浮かべる。


「それで俺はあのザッジム王子と言う偉そうな子供を王城に連れていき。王権の奪還をする手伝いをしろと?」


「ウン」


「面倒な」


「ソレカラ、ホウシュウガアルト、イッテイタ」


「はぁ……報酬って言われてもな」


「オウノトショカンヲカシダスッテ」


「う……図書館は魅力的だが」


「アレン、ノリキジャナイ?」


「あぁ、乗り気にはなれないな。王権を奪還……そういう厄介ごとに他国の人間が関わると、ろくなことが起きない。それは多くの文献に残されている歴史が証明されているんだ。んー……」


 アレンは腕を組んで悩んでいた。


 十分ほど考えを巡らせたのちに、ベッドから立ち上がった。


「はぁ……直接話してくる」


 アレンはそう一言言い残すと、宿の部屋から出て行った。


 その日、アレンとザッジムとの話し合い……正確には国にかかわることに消極的なアレンへの説得は夜遅くまで続いたものの……結論が出なかった。





 アレン達が切り取られた土地から出て三十四日目。


 ニールとカトレアが宿屋の窓から外の様子をうかがっていた。


 カトレアは眉間にしわを寄せ……遠くにあるエルバレス王国軍の軍勢を見据えながら呟く。


「アレン、軍がこちらに向かってきています……ルルマ曰く一万ほどらしいですね」


「そうだな」


 難しい表情を浮かべたアレンは宿屋の柱に体を預けながら頷いた。


「どうされるので?」


「どうも、こうもなぁ。そもそもなんで俺に聞く? 部外者も甚だしいぞ?」


「そうなんですが。彼らはそう思ってくれるでしょうか?」


「……思ってくれんだろうな」


「それでは、この村出た後エルバレス王国へ入国して……国内を進むのに苦労するでしょう? いくらルバ村の商人であるガポルが居るとはいえ。私達は普通に目立つのです」


「……」


「内政干渉とまで言わないまでも、多少の恩を売っておくのも損ではないと思いますが」


「はぁ……もう十分に売っていると思うが……仕方ないな」


「では」


「あぁ。いつも通り、あの軍の指揮官とめぼしいヤツを捕えて軍を追っ払うか」


 大きくため息を吐いたアレンは、ゆっくりと柱に預けていた体を起したのだった。

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