第303話 一人歩き。

 翌日。


「まぁ……ルルマの予想通りに村長ガバジー殿からここで暮らすことを勧められたな。ただ、どう考えても異民族すぎるもんなぁ。それに……俺はもう軍人になるつもりも、国に縛られたりするつもりはないしなぁ」


 アレンはそうゴチリながら、ルバ村の中を一人歩いている。


 ルバ村の村人達からアレンに話しかけることはなかったが、一人でブラブラと歩くアレンの様子をもの珍しそうにうかがっていた。


 ちなみにノヴァは……放っておくといつまでも祈りが続きそうだったのでアレンが朝には元の場所に帰しておいた。そして、カトレアとルルマは女同士で買い物があるんだということで別行動となっている。


「にしても、持ってきた魔物の魔石や素材……全部は売れなかったなぁ」


 アレン達は今まで狩った魔物の魔石や素材を買取に出していた。


 ルバ村には冒険者ギルドのようなものはなかったものの、商業ギルドはあった。


 その商業ギルドに魔物の魔石や素材を持ち込むと、オークションのようなモノが始まって……ガポルという商人を初めとして複数の商人達が競り落としていった。


 ただ、アレンの言葉通り……アレンが出品した魔物の魔石や素材は大量かつ質の良いものだったらしく、半分以上が手元に残ってしまっていたんだが。


「俺としては荷物になるから適当な金額で買い取ってくれればよかったんだが……これ以上は市場が混乱するとかって断られるとは思わなかったな」


 アレンは少し渋い表情を浮かべるが、懐にしまっていたパンパンに膨らんだ巾着袋を取り出す。


「まぁ。なんにしても、ここら一帯で使えるという硬貨が手に入った」


 巾着袋の口を少し開けると銅色の硬貨や銀色の硬貨がパンパンに詰まっていた。


「いや、しかしな。もうガポルにこの先に必要となる水やら食糧の注文をして代金を払った。さらにカトレアとルルマにも渡したにも関わらず。こんな大量の硬貨が余っている。これは俺の懐の許容量を超えている」


 アレンは巾着袋を懐にしまうと、巾着袋の所為で盛り上がった懐をポンポンと叩く。


「どうせ、ここら一帯でしか使えない硬貨なのだ。パッと使ってしまいたいものだが……何かないだろうか?」


 何かないかとアレンは視線をキョロキョロと見回しながら歩き始める。


 異文化だなぁ。


 本当に地域が変われば建物の形式も変わっていて面白い。


 砂漠の砂をブロック状に押し固めたモノを積み上げて家としているんだよなぁ。


 砂で作っている分……細かい彫刻とかがいたるところに施されていて見ていて飽きない。


 ただ、家を砂で作るなんて……ここら辺では雨や雪はほとんど降ったりしないんだろうか?


 ブロック状に砂を押し固めたモノはかなり固いが所詮は砂である。さすがに雨が降ったら崩れてしまうだろうし。


 ただ、砂に何か混ぜて固めているのかな? ん?


 建物を見て回っていたアレンは何かに気づき立ち止まる。そして、右の脇道へと視線を向けた。


「スンスン、いい匂いが……あっちか」


 アレンはいい匂いが漂ってきた方へと引き寄せられるように歩きだした。




「年季の入った店屋って感じだな。朝食は昨日の食事が腹に入っていたから遠慮したが……腹の減るいい匂いだな」


 五分ほど歩いたところで、アレンはいい匂いが漂ってきていた店に辿り付く。


「名前は分からんが……入っていいものだろうか?」


 アレンが店の外観を見回したり、店内を覗いたりしていた。すると、店から出てきたオッサンと目が合った。


 そのオッサンは酔っぱらっているのか顔が赤く、陽気な様子でアレンに話しかけてくる。


『お、アンタ……旅人のあんちゃんじゃねのよぉ。昨日の宴は楽しかったねぇーとと、ここ入いんのかい?』


『エ、ア、ハイ』


『そうかい。そうかい。ここね。美味いよぉー』


『ソウ、ナニガウマイ?』


『んーなんでも美味いけどねぇーラサームってスープが美味いね。絶対に飲んだ方がいいよぉー』


『アリガトウ』


『美味いよぉーまたなぁー』


 オッサンはそう言い残すと、酔っ払いフラフラと歩いて行ってしまった。


「陽気なオッサンだったな。しかし、まだ昼前なんだが……。あ、昨日の宴からずっと酒を飲んでいた? まさかな……さて入るか」


 オッサンの背中をアレンは苦笑しながら見送り……そして店の中へと入っていった。


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