第267話 旅の道連れ。

 ここは切り取られた土地の中にあった小屋の前。


 小屋は木造で全体的に古く木は黒くくすんでいる。そして、少し傾いていた。


 総じて言うなら今にも壊れてしまいそうな小屋であった。


 ギィ……。


 アレンが小屋の扉を押すと扉が軋む音を響かせ、小屋の中の埃がブワっと舞った。


 大量の埃にアレンは表情を顰めて咳き込んだ。


「今にも壊れそうだな……ごほ」


 アレンが小屋の中に入ると、ギィギィっと床が軋んで体の軽いアレンでも床が抜けてしまいそうな脆さであった。


 小屋の中にはこれと言って使えそうなものはなかった。


 蜘蛛の巣がいくつもあり、蜘蛛の巣にも埃が深く積っていることから……ずいぶんと使われていなかったことが分かる。


 どうやら農具をおいて置くために使われていたのか、少し引っ張ったらちぎれてしまうロープや錆びてボロボロの鍬などが置かれていた。


「まぁ、屋根があるだけマシか?」


 アレンは舞っていた埃が収まったところで……帯刀していた赤とサイドバックなど荷物を下ろす。


「ぐあー久しぶりに本気で戦って……疲れた。体も全身痛いなぁー」


 苦悶の表情を浮かべたアレンは床に体を投げ出して……ゴロンと横になった。そして、一分もしない内に小さく寝息をたてて眠りについたのだった。




 アレンが眠りについて一時間が経った時。


 トントン。


 アレンが入った小屋をノックする音が響いた。


「……っ」


 ノックの音を耳にしたアレンは飛び起き、立ち上がろう……としたが、体にまだ痺れと痛みがあって苦悶の表情を浮かべる。


 それでも、唇の端を噛んで……なんとか体を起き上がらせて傍に置いていた赤を手に取った。


 周囲に人の気配はなかったはずだが、どういうことだ?


 いや、気配が読めない場合もあるか。


 一瞬、思考を巡らせていたアレンは赤の塚に手を置いた。すると、外から声が聞こえてくる。


「この小屋に誰か住んでいるのか。私はベラールド王国国軍所属のカトレア・ファン・ロドリゲスである」


「っ、はぁー」


 外から聞こえてきた声を聴いたアレンは顔を顰めた。そして、小さくため息を吐いた。


「……入らせてもらう」


 小屋の扉が軋む音を響かせてゆっくりと開き、アレンと外に居たグレーの髪を後ろで止めている二十代後半の女性……カトレアが顔を合わせることになった。


 剣を持ち、鞘に手を置いていたアレンを目にしたカトレアはすぐさま飛び去った。そして、険しい表情を浮かべて剣を構えて口を開く。


「子供……何者だ!」


「はぁーなんだ、巻き込まれた奴が居たのか」


「答えろ。貴様は何者だ」


「何者か。俺はアレン……面倒だな。白鬼と呼ばれているアレン・シェパードだ」


「な! は、白鬼だと! そんな馬鹿な」


 信じられないと言った様子で居たカトレアを気にすることなく、アレンは持っていた赤を床に置いて口を開く。


「ロドリゲスって……守護神の貴族名か? その孫か? もしくは子? まぁー中に入れよ。話も聞きたいし、足に怪我を負っているようだ」


 アレンの言葉通り、カトレアの左の太ももから血を流していた。


 アレンの提案を耳にしたカトレアは思考を巡らせるように一度視線を少し下げる。そして、剣から手を離し……足を引きずりながら小屋の中に入ってきた。


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