第266話 切り取られた土地。

 ここは見渡す限り砂地……砂漠であった。


 肌が焼け付きそうになるほどに太陽の日差しが強く照っていて、とにかく暑かった。


 そんな見渡す限りの砂漠に突如黒い穴がぽっかり開いた。


 黒い穴が一瞬広がると……綺麗にくり抜かれた土地がその場に現れる。


 その土地は直径三キロに渡り鬱蒼と茂る森や池……そして、アレンとモーリスが激闘を繰り広げたもはや荒野となった場所も見て取れた。


 更には土地の端の方にアレンの姿もあった。


「う……あ……」


 姿を現したアレンは気を失っているのか、寝ているのか、うめき声をあげていた。


 つまり、アレンは生きていた。


 しばらくうめき声を上げながら横になっていたのだが……寝返りをうったところでアレンの眉間に皺が寄る。そして、ゆっくりと目を開ける。


「う……暑……い」


 目を開けたアレンであったが、すぐ強烈な太陽の日差しにやられて目を細める。


 この場所が空気、気温、湿度のどれを取っても夏でも涼しいクリスト王国周辺とはかなり異なっていたので……どういう理屈か分からないものの、ここがクリスト王国周辺ではないことだけはアレンにも分かった。


 そのため、現在位置を確認するべく起き上がろうとしたアレンであったのだが……。


「ここはどこ……ぐ!」


 アレンは起き上がろうとして、すぐに苦悶の表情を浮かべ……起き上がることができなかった。


 アレンの体全身に引き裂くような痛みと痺れが襲ったのである。


「モーリスの毒は……この感じ解毒されていると思うが痺れて動けんな」


 モーリスにくらった八夜毒の影響……。


 毒と言うのは仮に解毒薬を飲んだとしても、すぐに痛みが消えたりする訳ではなく後遺症が残る。


「ふはぁーモーリス……随分と前線から離れていたんだ。もうちょっと鈍っていてもいいに……想像以上に厄介な爺さんだ。死ぬところだった……しかし、ようやく師匠の仇を討つことができたのか。今度、久しぶりに墓参りに行くか」


 アレンはモーリスとの戦いを思い返しながら……視線を雲一つない青々と澄んだ空に向けた。


 しばらく、アレンはそのまま空を見上げていたんだが、一度長く息を吐く。


「暑いし。このままでは野垂れ死にしそうだから。【神落】を使って体を動かすか」


 アレンは【神落】を使って……先ほどまで身動きが取れなかったとは思えないほどに、スムーズに体を動かし……上半身を起こした。


「え? ここはどこ?」


 体を起こし周囲見回したアレンは砂漠を目にして、首を傾げた。さらに立ち上がって、辺りを歩いて見て回る。


「すげー見渡す限りの砂……砂漠と言ったか? そして、ここから切り抜かれたような土地……この石や木……地面などなどは見覚えがある。砂以外のモノはおそらく俺と一緒にあの黒い穴に吸い込まれたモノだよな? つまり、モーリスの魔法はどこかに転送する魔法だったということか? ……それは、それは、ずいぶんと遠くに飛ばしてくれたみたいだな。少なくともサンチェスト王国とクリスト王国、その周辺国ではないな。ここまで広い砂漠があるなんて聞いたことないもんなぁ。……ちょっと切り抜かれた土地を見て回るか。……んお、ここは俺とモーリスが戦った場所? うわ、この残った毒をどうにか処理しないと危険だよなぁ。火で燃やすか。お、兵士達が落としていった武器に……後で死んで転がっている兵士達……百人くらい居るか? 持ち物を回収して……土に埋めてやらないと……な。おぉ、こっちには池……丸々飲み込まれていたのか? 池……水があるぞ。と、流れ出ているか? せき止めないと……岩と土で簡易にせき止めておくか。んお? 小屋? 廃墟? あぁーそういえばベアトリスは昔山村があったと言っていたが、それの名残か? ボロボロだが……直せば何とか? おお、小屋の裏にミラカの木……しかも実が五つもなっている。確か食べれたよな? しかも、干せば味が増して保存食にもできたはず……他に食い物食べれそうなのはないか? 動物は居ないな? はぁーそうか。俺とモールスが戦っていたから逃げ出したんだな? けど、果物は不味くも食べられるモノを含めると結構あるようだな。ここ暑いから枯れたり腐ったりする前にどうにかしないと……」


 しばらく、アレンはブツブツと呟きながら、軽く周りの状況を見て回っていた。


 一通り現状確認のために見て回っていたアレンは元の場所に……くり抜かれた土地の端に戻ってきて、横倒しになった木の幹に座る。


「さてさて、これからどうしようかなぁー……ハハハハ」


 アレンは面前に広がる砂漠を眺めながら、現実逃避するように笑った。


 ただ、すぐに深刻な表情に切り替わり頭を抱える。


「やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい……A級とS級の魔物がゴロゴロ居て……超高難度と言われるサキュラス迷宮の下層に一人で放り込まれるより超高難度。あぁー逆に何も居ないのが超高難度。救いがあるとすれば武器……蛛幻と赤がある。そして、木の実と水がある。水は運ぶ物がないか。作るか? いや、それに時間をかけたくないが。木を削って作る簡単な物ならできるか? まぁ、作れたとして、そんなに入らないだろうが……。いや、死んでいた兵士達が水筒を持っていたから……それを集めるか? そもそも、このまま雨とか降らず、食料を見つけることが出来なければリミットはいつになる? 現状手に入るは……兵士達が持っていた保存食と木の実、水さえあれば十五日はギリギリ生きていけるか? それとだ。今日一日はモーリスとの戦闘の疲れと毒の後遺症を抜くために休みたいところだが……。なら……一番問題となってくるのはなんだ? やはり水の量か? 切り詰めたら十五日いけると思ったが。この暑い中だ。蒸発とかしないか? 水筒の中に入れておいた方がいいか? 更にのどが渇くか? だとすると、十二日? 十一日? んーつまりリミットは休憩日とする今日を除いて十日? 十日以内に食料と水をこの見える限り砂漠の中でどうにかしないといけない? そう、砂漠の中なのだ……そんな大量の水を運べる物を作れないだろうし、近辺の捜索になる訳か……ただなぁ、その近辺に人の気配とかないんだよなぁ。なんか、魔物ぽい気配はあるものの砂の中に隠れているのか見当たらない。どうするよ? ここで水が……そう、地面を掘って地下水的な奴は湧き出さないだろうか? 試してみるか? 水さえあれば……この地でも俺一人くらいなら生きていけそうなんだが……。まぁ、なんにしても、ここは頼れるノヴァ君とコニーちゃんを呼ぶしかないかなぁ。しかし、食料が乏しい現状……ノヴァに渡せる食べ物も少ないよな。それにさっきのがツケのようになっているから怒るやも知れん。ノヴァに比べて小食なコニーを呼ぶか?」


 しばらくの間、ブツブツと呟くながら考えを巡らせていたアレンであったが、何かしらの結論に達したのか、木の幹から立ち上がった。


 そして、長い溜息を吐いて、ズボンに付いた埃をパンパンとはらう。


「いや、今日は休みにしないと明日からの行動に影響が出るな。とりあえず、日陰……さっき見つけた小屋に入るか。ここ暑すぎる」


 アレンは言った言葉を行動に移そうと動きだしたところで……何かを思い出したようにピタリと動きが止まった。


「……アレ? 砂漠って昼暑く、夜寒いと聞いたことあるな? んー夜どのくらい寒くなるのかな? 焚火でなんとかなるかな?」





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