第262話 白鬼の戦い。1
グラースとグラースの護衛兵達、バルベス帝国軍兵士達が完全撤退して二十分が経った。
「さて、邪魔者はいなくなったの」
モーリスの言葉通り、ここにはアレンとモーリスのみ、周囲に誰も居なく……先ほどまでの喧騒が嘘のように静かになっていた。
モーリスの言葉に対して、アレンはつまらなさそうに鼻を鳴らす。
「ふん、姑息なお前のことだ。そう言っておき、二人である事を俺認識されて……今撤退しているグラースとグラースの護衛兵達を魔法で狙い……隙を作ろうとか考えているんだろ?」
「ひょ……ひょひょ、何のことか?」
「図星か?」
「儂は何事も楽して勝つことを信条としておるのでな」
「相変わらずだな……ただ攻撃し始めた瞬間、お前の四肢を切り裂いてやるから、その覚悟を持つといい」
「それは怖い。怖い」
「……戦う前に一つ聞きたいんだが、お前はなんでここに居た?」
「? 守護神殿を殺しに来たと、先に言ったと思うがの?」
「違う。お前はなぜここ……クリスト王国の近くに居たのかと聞いているんだが? 守護神殿を狙ったにしては兵の準備が足りていないように見えた。実際に守護神を殺す前に俺が間に合うという事態になっているのだからな」
「ひょひょ、ちょっと散歩していたら……たまたまクリスト王国にたどり着き。守護神殿がたまたま居たんで殺そうとしたと言って信じてもらえるかな?」
「お前……たまたまって何度使う気なんだ? 売れない物書きか。信じられる訳がないだろう。お前、まさか……クリスト王国で何かやっているんじゃないだろうな?」
「何のことか? 最近は物忘れが大変でな」
「都合が悪くなった時ばかり爺のふりをするなよ?」
「勘のいいガキは嫌いだの。お主に見つかっては作戦失敗か。いや、ここでお主を殺すことができたら作戦は続行できるかの」
「下衆が……また一般人を戦争に巻き込む気か」
「ひょひょ、これが儂のやり方なのでな」
「……【空脚】」
アレンは【空脚】で空気を蹴ってモーリスへ向おうとした……が。
ゴンッ!
アレンが何かに頭を強く打ち付けて重い音を響かせた。
どうやら、モーリスの足元に透明な壁があって、その壁にアレンは頭をぶつけたようだった。
「ぐあ、あいたたた……」
地面へ跳ね返されるようにアレンは頭を強く打ち付けた痛みで、膝を付いた。
対してモーリスは可笑しそうに腹を抱えてケタケタと笑う。
「ひょひょひょ、引っかかった。引っかかったの」
「ぐ、痛……そりゃ、ノーモーションで魔法が使えるよな。くそ、さっき詠唱していた【フライ】はフェイクか」
アレンは少し涙目でおでこを摩りながら、モーリスを睨み付けた。
「皆、面白いように引っかかってくれるのでやめられん。ひょひょ」
「ぐぬぬ【風切】」
悔しそうに顔を歪ませたアレンは……【風切】と呟くと、握っていた赤を振り抜いた。
赤の紙ほどの薄い刀身はしなやかに、滑らかに曲がって……風を切る。
赤の剣先から鋭く刃の形に圧縮させた斬撃がまっすぐにモーリスへと向かっていく。
その斬撃はモーリスに到達する寸前でモーリスを囲むように展開された【シールド】を貫いた……が。
二重で展開されていた【シールド】に阻まれて止まった。
「二重か……用心深いな」
「お主、本当に人間か? 剣の一振りで儂の【シールド】を一枚切り裂き、もう一枚に傷付けるとは」
「ふん、それはこっちのセリフだ。厄介なシールドだな……その歳でどんなマナの保有量してやがるんだ」
「ひょひょ。それにしても【風切】……その技【風切】は今無き亡国イギラス王国の『十字剣』のアルセーヌ・ファン・ルドーリアの技か? 懐かしいの」
「アイツの技だっけ? アイツにはいろいろ剣を教えてもらったが……」
「おそらく十字剣殿はさんざんに苦渋を飲まされたお主に剣を教えたつもりは一切ないであろうがな。しかし、【風切】を使うとなると……お主と戦うのならもう少し距離を開けんといかんみたいじゃな」
モーリスはアレンと距離を開けるように高度を上げる。そして、手を前へ出すと同時にモーリスの頭上に火の塊が出現した。
拳ほどの大きさの火の塊が徐々に肥大化を続けて……最終的には直径百メートルを超える大きさにまでなった。
その超巨大な火の塊を目にしたアレンは目を少し見張る。
「化け物め」
「ひょひょ。お主のような化け物剣士には逃げることのできない範囲攻撃が一番効くだろう?」
「それはどうかな?」
「ふん、大魔法……【スモールサン】」
モーリスは前に出していた手をグッと握る。すると、モーリスの頭上にあった超巨大な火の塊がアレンに向かって落とされる。
圧倒的なほどに超巨大な火の塊が迫ってきているにも関わらず、アレンに動揺している様子はなかった……それどころか、不敵に笑っているようにも見えた。
「お前を使う場ができるとは……やはり厄介ごとを引き寄せる妖剣なのかもな」
ゆっくりとした動作で赤を構えたアレンは、超巨大な火の塊へ視線を向けて目を細める。
そして、ダンッと強く地面を蹴り……超巨大な火の塊から逃げるどころか、向かって飛び上がった。
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