第245話 軍を率いる。

 思惑ありげな表情を浮かべたグラースは顎に蓄えた髭をなぞった。そのグラースの様子をアレンは怪訝な表情を浮かべてみる。


「ん? なんだ?」


「アレン殿はまた軍を率いてみる気はないか?」


「だから、俺は誰にも仕える気はないって」


 グラースはニヤリと笑みを浮かべて首を横に振る。そして、軍略チェスの駒を手に取って机の上に置く。


「いや……違う。クリスト王国の国王様に今年のバルべス帝国の侵攻を受け……来年の春にクリスト王国とベラールド王国で合同軍事演習の提案する予定なんだ。その時にアレン殿が軍を率いてはどうかと思ってな」


「ん? あぁーん?」


「軍を率いるのはあくまで演習中のことで役職に就くわけでもない。アレン殿の戦い方を見せると言うのは後進を育てると言う観点からも問題なかろう?」


「んーん? 確かに問題ないか……? しかし、俺は百人しか率いることができんぞ?」


「そうだったか? 昔は千人隊を率いていなかったか?」


「いや、もう千人隊を率いるのは無理だ。人がいっぱい居るところは気持ち悪くなってしまうんだよな……近年は百人隊でもキツイかなとか思っていたのに」


「そうなのか? 確かに火龍が百人と少数であったのには何か理由があるのではと思っていたが……何かの病気か?」


「……まぁ、そんなもんだ。しかし、俺が百人も鍛えて指揮さえ取ればベラールド王国の国軍とも十分に戦えるがな」


 アレンが自信満々な様子で言って見せた。すると、グラースがあからさまに不機嫌な表情を浮かべる。


「……それはベラールド王国の国軍の代表として聞き捨てならないぞ? 火龍でない百人足らずの軍勢をあくまで指揮するだけでベラールド王国の国軍と戦えると? それはさすがにありえないだろう?」


「どうかな? やって、見なくちゃ分からないだろ?」


「分かるだろ。万の軍に対して百の軍が叶うわけがない……火龍のように一線級の実力達が揃えられるなら別だが、それは難しいことだろう?」


「簡単ではないな……ただ一戦戦うだけなら問題ないと思うのだが」


「ほう……そこまで言ってくれるなら楽しみにしておこうか。しかし、ということはこの話を受けるということでよいのかな?」


「んー……考えておく。確かに即席の百でベラールド王国の国軍を相手にするのは難しいだろうからな。特に守護神殿がいると厄介だな。何とか、戦場から引きはがして仕留めなくては……何か策がいるな。地形や軍編成を把握する必要がある……」


 アレンは頷き答えるとグッとワインを飲み。そして、顎に手を当ててぶつぶつと呟き始める。


 そのアレンの様子を目にしたグラースは苦笑を浮かべて……敵でなくてよかったと心の底から思っていた。


「さて……ちょっと長居しすぎたか。ん、ん、ぷは」


 アレンはワインをグイッと飲み干して、空になったワイングラスを机に置いた。そして、ソファから立ち上がる。


「もう帰るのか?」


「うん。魔族の件はベラールド王国の国王以外には他言無用で頼むぞ?」


「もちろん、わかっている。国王様と話し合い……何か方針を決めたときにも連絡をしよう」


「それで頼む。じゃまた」


 アレンはスタスタとバルコニーの扉に近づいていくと、バルコニーの扉をバンと大きく開いた。そして、バルコニーに出ると……そのままバルコニーから飛び降りて帰っていった。

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