第231話 探し人。
「にゃはは! お主なかなか強そうだ!」
「え、あ、ありがとう……えっと」
声がした方へリナリー達が視線を向けると、元気よく笑う小さな女の子と長身の女性に声を掛けていた。遠目で見ると親と子供と思える体格差である。
小さな女の子は……百五十センチほどの小柄で、クリクリとした大きな瞳が印象的の可愛らしい少女である。
そして、長く伸ばしたオレンジ色の髪が黄金に輝いて見えるほどに美しかった。
将来、絶世の美女になることが確信できる美少女である。
ただ、……オレンジ色の髪の間からネコ耳と腰の下の辺りから長い尻尾を出ていてヒョコヒョコと動いた。
人間と獣の両方の特徴を合わせ持っている獣人に当たる存在であることが分かる。
対して長身の女性はボイッシュな顔立ち。
今は突然に女の子に話しかけられて動揺してアタフタしていて分かりにくいが切れ長な目が冷たい印象のある女性であった。
その女性は小さな傷が至るところにある冒険者服を着込んで、背中には身の丈ほどの大剣を背負っている。
彼女の装備から小さな女の子が言う様に長身の女性がかなりの修羅場をくぐり抜けた凄腕の冒険者であることが窺い知れた。
「お主は冒険者か?」
「え、あ、そうだけど……えっと、君は冒険者ギルドに用があったのかな?」
「そうだ。探し人がおってな」
「探し人? それはお父さんかお母さん?」
「いや、違う。私の父上と母上は……えっと……そう遠いところに居るのだ」
「そうなんだ……じゃ私もその探し人を探すの手伝ってあげるよ」
「おお、それは心強いのだ」
「あ……そうだ。自己紹介がまだだったね。私はロビン」
「なんと、私としたことが名乗るのを忘れておった。すまぬ。私はナミリア・ベル・ハンバークだ。ナミと呼んでくれ」
「はぁあああああ!!」
ナミリアとロビンとの会話が聞こえていたリナリーが一人奇声を上げた。その奇声を聞いたホップとペンネを含めて近くにいた者達はギョッとして固まる。
当のリナリーは周りのリアクションなど気にすることなく、周りの人を押しのけてナミリアとロビンの元へ向かっていく。
リナリーの奇声にロビンは首を傾げたのだが、ナミリアに視線を向けて問いかける。
「? なんだったんだ? まぁ、いいか……それでナミの探し人とは誰なの?」
「ぬう? おぉ、探し人だな。この国に居る英雄アレン・シェパードを探しに来たんだ」
ナミリアの言葉を耳にしたその場にいた者達の視線が一斉に向いた。
「アレン・シェパード……いや、えーっと、彼はバルべス帝国との戦争後に国を離れたと聞いているよ」
「うむ? 何を言っておるのだ? アレンはまだこの国の近くで暮らしておるよ? 場所までは分からぬがな」
ナミリアがそう断言すると「アレン・シェパード?」、「英雄様か?」、「今、この国に居るって」、「本当かよ?」、「会いたい!」などと周りに居た者達がザワザワと騒ぎ出した。
アレンは当初、クリスト王国を亡国から救ったと言うことはうやむやにしようと画策していたのだが……。
クリスト王国を亡国の危機から救ったアレンの英雄的行動はライラの手によってクリスト王国の国民が広く知るところになってしまったのだ。
今、クリスト王国の酒場で歌われる語り歌のほとんどがアレンのことを語るモノに占められていて……クリスト王国の国民から英雄的人気を獲得するに至っていた。
恥ずかしくて酒屋で酒が飲めんとアレンがぼやいていたのが、ここ最近のことである。
「アレン殿がこの国に……いや、今はそれよりも」
人をかき分けてやってきたリナリーがナミリアとロビンの元へとたどり着いた。そして、ナミリアに近づこうとした時である。
それを阻むようにナミリアの前に青いマントを着込んだ男性が姿を現した。そして、ナミリアの前で跪いて頭を下げた。
「ナミリア様、探しましたよ」
「おぉ、ラベルトに見つかってしまった。相変わらず早いのだ」
青いマントを着込んだ男性……ラベルトは無骨な武人と印象を受ける強面の男性だった。
そして、彼には熊の耳が濃い茶色髪の間から見えていて獣人であることが分かる。
ただ、彼が獣人であることよりも……彼の醸し出す武の空気が回りに危機感を植え付けた。一番近くにいたロビンが大剣の塚に手を置き、そしてリナリーも体の至る所に隠されている手裏剣をいつでも取り出せるように構え……周囲の上位の冒険者は一様に警戒心を露わにしていた。
周りの反応を敏感に感じ取ったナミリアが声を上げる。
「おっと、驚かせてすまぬな。ロビン、それから周りの者達よ。しかし、ラベルトはこう見えて優しい奴なのだ」
「あの騒ぎになります。一旦ここを離れましょう」
「うむ、騒ぎにしたのはラベルトなのだ」
「……そうかも知れませんが、ナミリア様がこのようなところに護衛も付けずお一人でなどなりません」
「ラベルトは私の力を信じてくれておらんのか?」
「ナミリア様にお力があるのは充分に分かっているのですが……この国にはアレンとその弟子が居るとの報告があります。アレンの実力は言わずもながら……彼の弟子も相当な実力者であると」
「むうう、私は強いのだ!」
ナミリアは不満を表すように頬を膨らませた。ただ、ラベルトはナミリアのことをよく知っているのだろう、眉ひとつ動かすことなかった。
「分かっています。しかし、ここは離れてください。でないと……報告させていただきますがよろしいでしょうか?」
「う……」
「よろしいのでしょうか?」
「分かった。分かった。ここは離れる……すまぬな。ロビンよ」
ナミリアは渋々と言った感じでラベルトに頷くと、黙って二人のやり取りを見ていたロビンへと視線を向けた。
「いや、大丈夫だが……英雄……アレンはこの国にまだ居るの?」
ロビンの問いかけはリナリーを含めて周りの人々全員が気になっていたことだったようで、静かに聞き耳を立てていた。
「うむ、私もまだ会っておらぬから何とも言えんが……この国に居ることは分かっておるのだ。……アレンは我々獣人族以上の隠密術を有していると聞いておる。もしかしたら、ロビンも会ったことのある者かも知れぬぞ? でわ、またの。騒がせてすまなかったな」
ナミリアはそう言うや、ラベルトを伴い去っていった。
ただ、その場に残された者達は騒然となった。
亡国の危機を救ったアレン・シェパードがクリスト王国内に居る……その噂はクリスト王国全体に一気に広まることになる。
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