第229話 書状。

 ここはクリスト王国の王城。


 リナリーの父であるクリスト王国国王カエサル・ファン・クリストの執務室である。


 執務室ではカエサルが一人デスクの椅子に深く座って仕事をしているようだった。


「むぅ」


 小さく唸り声を上げたカエサルは眉間に皺を寄せて難しい表情を浮かべて腕を組んでいた。


 カエサルの目の前……デスクの上には二通の手紙のようなモノが並んでいた。


 その手紙に書かれていることを読むに、一通目がベラールド王国国王より送られた書状、そして二通目が……ハンバーク公国公王より送られた書状であった。


 カエサルはその書状を開いて……内容を確認するようにもう一度目を通す。


「はぁ、不穏な者は書類審査で掃えばよいと考えていて、国籍をセーゼル武闘会の出場条件に入れなかったのが仇になったか……」


 二通の書状にはいろいろ書かれていたのだが……。


 まぁ、要約するにセーゼル武闘会に出場させろオラ! あぁん? いいよな? 駄目とは言わねぇだろな? っていう内容であった。


 目を通していた書状を閉じたカエサルは疲れた表情を浮かべて、椅子の背に体を預けて座り直した。


「ベラールド王国の候補者は……ラーベルク王子。やはり、理由はリナリーの件か? しかし国に乗り込んでくるとはどうしたものか頭が痛いなぁ。そして、王子を含めて十人ほど……。王子が参加するとなると武闘会の内容も多少直さねば行かんかも知れん」


 椅子の肘置きに肘をついて、左手で頭を押さえる。


「ベラールド王国の参戦は王子がゴリ押ししたのだろうことは分かる……しかし、ハンバーク公国はなぜだ? 数十年国交が途切れていたと言うのに……ハンバーク公国、獣人が納めている国……国土、数こそ大国に劣るものの兵士達は屈強で……数多の戦闘民族を有している。確かに……獣人は戦に生きていて戦闘狂の一面を持ちハンバーク公国と周辺国では戦争が絶えなかった。しかし獣神マゼランが公王に立ったことでうまく押さえこんでいると聞くが……?」


 ブツブツと呟きながら頭を悩ませていたカエサルであったが、ハッと表情を浮かべた。


「っ……まさか。いや、まさか……アレン殿の弟子を選定会と言う隠された目的を知られた? しかし、それを知るのは私とアレン殿……それからベアトリスを含めて数人のはずだぞ? その誰かが?」


 カエサルはサッと視線を巡らせた後で、考えを振り払うように首を振った。


「私の信用を置ける部下のみである。そして、アレン殿は他国に情報を漏らすメリットは無い筈。そもそもパイプが……あ、そうだ……。そう言えば、ベアトリスよりアレン殿に関する報告が上がっていたな」


 カエサルは起き上り、デスクの脇に置いてあった報告書の山へと手を伸ばした。


「あった……これだ。これだ。アレン殿に尾行者がついていると……アレン殿なら大丈夫であろうと置いておいていたが。その尾行者は凄腕でアレン殿も褒めたほどだという。当のアレン殿はどうやら尾行されていることを楽しんでいるようだが……アレン殿が凄腕と認めるほどほどの尾行者……それは……よくよく考えたら、情報を取り放題か?」


 表情を曇らせたカエサルはベアトリスから出されていた報告書をデスクの上に投げ出した。そして、前髪を掻き上げる。


「……厄介だな。ベアトリスには難しいか……アレン殿にその尾行者を仕留めて……いや、その尾行者は書状を出してきた両国家とパイプを持っている可能性ありか。捕まえてもらえるように依頼を出すか……今度相談しなければ」


 椅子から立ち上がったカエサルは執務室の窓へと近づく。


 そして、窓の手すりに手を置いて、窓から望むことのできる夕焼けに染まる王都の様子を眺める。


「尾行者の件はアレン殿に相談するとして……ベラールド王国、ハンバーク公国が参加することになるとは……セーゼル武闘会で何も問題が起きないと良いのだが」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る