第180話 生きた伝説。

 アレン達が飲み始めて三時間が経って、酒がずいぶんと周ってきた頃。


 アレンとホップが二人で酒を飲んでいた。


 ちなみにペンネはワインの瓶を抱えて気持ち良さそうに眠りについている。


 酔っ払いヒクヒクと言いながらホップが何か思い出したように口を開く。


「ヒク……ういい、そういや、あの話聞いたか?」


「ぷはぁーあの話?」


 アレンはワインを飲んでいたワインの瓶の口から口を離して、ホップの問いに答える。


「ヒク、今回の帝国との戦争は一人の人間によって終戦したんだよ」


 ホップの噂話を聞くとアレンはピクンと眉毛が小さく上がった。そして平静を装うように口を開く。


「……へーそれは本当か? 帝国軍は五万くらい居たんだろう? それにお前がさっき帝国は歴戦の戦士みたいなのがごろごろ居たって言っていたじゃないか。それを一人の人間がやっつけられると思うのか?」


「本当なんじゃねーか? だって、王宮より正式に発表があったらしいし。さっき、国王様も言っていたって話だぜ?」


「へーそうなのか。俺には信じられんが国王様が言うなら本当なのかな」


「あぁ、それでな。驚きなのが……その一人で帝国を止めたっていう人物の名前を聞いてまた驚くぜ?」


 アレンとしては正直興味も……あえて聞きたくもなかった。しかし、ホップが聞いて欲しそうにしているように見えたので、問いかける。


「……誰なんだ?」


「それが……あのサンチェスト王国の火龍魔法兵団の元団長アレン・シェパードなんだと。サンチェスト王国では英雄と呼ばれていて……帝国や他の国からは白鬼と恐れられているほどの有名人。赤き龍の英雄を始めいくつも語り歌が出回っているからアレンも知っているだろ?」


「あ、あぁ……この前語り歌を聞いたかな」


「ヒク、俺も最初はまさかとは思ったぜ? そんな都合よくあの白鬼が現れるなんて都合が良すぎるにもほどがある。しかしやって除けたことを考えるとあり得るんじゃないかと思えるんだよな。それに……不当な罪を被せられてサンチェスト王国を国外追放されたと聞くし。クリスト王国を訪れていても不自然ではない。しかし残念なのは……実物にお会いできなかったことだぜ」


「そうか?」


「あぁ、そうだろう。サインが欲しい。あの人は生きる伝説なんだ。本来ならば嫌われ者であるはずのハーフエルフでありながら、百人足らずの軍勢を率いて帝国からの侵攻を阻み続けて、一国で英雄とまで呼ばれたんだぞ? どんな人だろうか? 副長三人に比べてアレン・シェパードの人と成り、そして強さを語る歌が少ないが白銀色の髪……長身で類稀なる肉体を持ち……彫刻のように整った顔立ちの超イケメン。剣を始め、数多の武器をそれぞれ達人以上に使いこなし。そして、副長のアリソンを含めて火龍魔法兵団の多くに魔法を教えた師匠でもあるのだとか? 戦いでは負け知らずで彼の功績は両手両足の指では足りないほど……いや、もちろん彼の戦いにおける功績には副長三人の力が大きく関わっているんだろう……それでも強い副長三人を使いこなす強さと器の持ち主でもあるんだろうな。たぶん。それで……」


「ぐあぁーああ、やめてくれぇ」


 長々と喋っていたホップの話の途中ではあったが恥ずかしさに耐えれなくなったアレンが変な叫び声を上げた。更に、のたうつように、痺れたように両手を不自然に動かした。


 突然、変な動きを始めたアレンを見たホップはキョトンとした表情で問いかける。


「ヒクッ、んあ? どうしたんだ?」


「その話はやめよう。なんだか背中がむず痒い」


「? そうか?」


「あぁ、駄目だ。ほら、酒が進んでないな」


 アレンは持っていたワインの瓶をホップに手渡した。


 ワインの瓶を受け取ったホップはアレン達の周囲に転がる酒瓶に視線を向ける。


「おう。しかし、ずいぶんと飲んだな」


「たまにはいいだろう?」


「まぁーなぁ、そういや、アレンは知っているのか?」


「何をだ?」


「いや、今リナリーが何をしているかだよ」


「んー詳しくは知らんがなんでだ?」


「だってお前、さっきリナリーが戻ってくるのが遅くなるかもって言っていたじゃないか?」


「ん? あーそういえば。俺も詳しく知らんが……リナリーの知り合いベアトリスって奴に会って……そんなことを言っていたんだよ」


「ヒク、なんだ、そうだったのか。アイツは無事なんだよな? どこで何をしてるか知らないが……帝国の奴らに……やられたりしてないんだよな?」


 心配そうにしているホップを見たアレンはフッと小さく笑った。


「大丈夫だろ。アイツなら……大体のことを魔法で切り抜けられる」


「心配だったんだが……アレンが言うなら大丈夫なのかな。……さてと、俺はそろそろ帰ろうかな」


 ホップは酔っ払い少しふらつきながらも立ち上がる。


「そうか?」


「おう、アレンも寮に泊まるのか?」


「いや、俺は寮には行かないよ」


「そうか。おーい、ペンネ?」


 ポップはアレンの言葉を聞いて頷いた。そして、ペンネに近づくとしゃがみ込んでペンネの頬をペチペチと軽く叩いて話しかけた。


「んーふぁふぁ」


「帰るぞ」


 生まれたての小鹿のように立ち上がったペンネに肩を貸してホップ達が帰って行った。


 アレンはホップ達を見送るとワインの瓶を持って立ち上がる。


 そして、人の集まりが落ち着いてきたホランド達が働いている食料を給仕している場所へと向かって歩き出した。


「さーてと、宴の打ち上げと行こうか」


 それから、アレン達は夜遅くまで焚火を囲んで飲んでいたと言う。

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