第170話 面白い提案。

「ん? どうしました」


「いや、なんでもない。しかし……アレン殿は隠居生活、冒険者生活を続けるということは表舞台にも立つ気はないのか? 人知れず、あくまで変装して過ごすと?」


「はい。変装してっと言っても髪を染める程度ですが」


「そうか……英雄譚でよく耳にしていたアレン殿が隠居か、あまり想像できんな」


「今は拾った者を弟子として育てながら……釣りをしたり、狩りをしたり、畑を耕してのんびり過ごしています」


「なんだ、羨ましいと思ってしまうな」


「ハハ、楽しいですよ。しかし、隠居の身とはいえ一応はクリスト王国の一国民の私から言わせていただくと、国王様には出来るだけ長くご健在であってほしいですね」


「勝手な事を言ってくれるわ」


「申し訳ありません」


「まぁ、よい。ところで、アレン殿が直々に鍛えていると言う弟子達についても気になる」


「ふ、我が弟子は強いですよ。もう少しで……火龍魔法兵団に入団できるほどの実力を有しています」


「火龍魔法兵団……そうか欲しいな」


「彼等に話してみてもいいですが、彼等もサンチェスト王国の人間でした。仕官の話を受けるか分かりませんね……あ、そうだ。代わりに」


 アレンは不意に二本指を立てて見せた。そして、ニコリと笑って再び口を開く。


「二人ほど私に預けてみませんか? 私の弟子として育てみましょう……確実に強くなるとはその者の資質に寄与する部分が大きいので保証はできませんが……長い目で見たらそれが一番クリスト王国の為になるかと思いますが?」


 アレンの提案を聞いたカエサルは顎に手を当てて考える仕草を見せる。そして、一度頷いて口を開く。


「うむ……面白い提案だが、良いのか? もちろん費用はこちらで出すが……アレン殿にメリットがなかろう?」


「まぁ、確かにメリットはありませんが。隠居する私は後世を育てることが役目だと考えているのです。それに一応はクリスト王国の一国民ですから、貢献せねば」


「……そうか。では弟子にするにあたり何か注文はあるのか?」


「注文ですか……できたら十代前半の少年少女が良いですかね」


「それだけか?」


「あ、そうですね。強いて言うなら生活に困っている子とか強さを手に入れたい強い理由があるといいですね」


「わかった」


「良かったです」


「では、その話は選定が終わったら。また連絡させてもらう」


「はい」


「それで、冒険者生活か。アレン殿ならばS級冒険者になれる実力があるのではないか?」


「どうでしょうか? まぁ、子供に変装してクリスト王国に潜入したので……さすがにA級の魔物をポコポコ狩れる子供と言うのはおかしいでしょ?」


「まぁ、確かに」


「そもそも、私は身分証明とするギルドカードを手に入れるために、冒険者になったに過ぎないのですが」


「では、今も冒険者として活動しているのは?」


「今も冒険者として活動しているのは……私の気まぐれですね」


「そうか。どちらにしても、リナリーがここ最近魔法使いとしての力量が上がっていると聞くのは君のおかげだったという訳か?」


「それはリナリーの努力でしょう。私は少し口を出したに過ぎませんよ」


「そうか、そうだな。リナリーは努力していたな」


「……リナリーが努力していたことを知っていると言うことは?」


「あぁ、リナリーは我が娘でね。私も彼女の成長を喜んでいる者の一人なのさ」


「訳ありだと、思っていましたが……王女様でしたか」


「あぁ、ある一定期間一般人に混じって生活するって言うのが、王家に代々伝わる家訓でね。もちろん内密で頼むよ」


「なるほど、いい家訓ですね……ただ冒険者に混じるのは危険だと思いますが」


「ハハ、それは私も思うがね。リナリーは……姉に張り合うところが子供の頃からあってね。言っても聞かなかったんだ」


「リナリーとは一緒に冒険者活動をしていて危ない場面は多くありましたよ。……ただ、彼女は運が良かったですね」


「運か。君との出会いも……そうだな」


 カエサルは玉座の背に体を預けた。そして、フッと一度笑って再び口を開く。


「それで……そろそろ決まったかな? アレン殿に対しての褒美は」


「褒美ですか……そうですね。お酒をできるだけ多く欲しいです」


「うむ……良いだろう。アレン殿は酒好きかな?」


「ええ、大好きです。ただ、このなりだとあまり多くを買うことができないのが」


「なるほどな。わかった。では謁見は以上とするか。アレン殿が表舞台に立つことを望まれぬのであれば貴族どもがいる公式謁見には呼ぶこともしない」


「は、ありがとうございます」


「ところで、この後、少しの間……アレン殿には予定はあるかな?」


「いえ、特にありませんが」


「では少し遅いが昼食でも一緒にどうかな?」


 これは強制だと感じ取ったアレンは少しの間の後に頷く。


「……そうですね。有難く、いただきます」


「そうか良かった。では後でな。ベアトリスはアレン殿の案内を引き続きするのだ」


 カエサルはアレンからベアトリスへ視線を向け命令した。するとベアトリスは短く返事した。


 アレンはベアトリスと共に頭を下げて、玉座の間を後にするのだった。

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