第169話 国士無双。
馬車に乗ったアレンが王城に入ると、そのまま玉座の間へと案内された。
玉座の間の大きな観音開きの扉が開くと、正面の玉座にはすでにクリーム色の髪色の顎髭を蓄えた貫禄ある中年男性が座っていた。
そして、玉座の右側には金色の髪色の美しいドレスを身に纏った中年女性、左隣にはクリーム色の髪色の青年が立っていた。
その三人を囲むように鎧を纏った近衛達が囲んでいる。
アレンが案内したベアトリスに続いて玉座の間に入っていく。
アレンを見たクリスト王国国王を含めたその場に居た案内役のベアトリス以外の人間は内心驚愕していた。
アレンはどこからどう見ても普通の子供にしか見えなかったのである。
そのことが逆に恐ろしく国王を囲む近衛達はゴクリと息を飲んで、背中に冷たい汗を流した。
そんな国王の近衛達の緊張など知らぬと言った様子でアレンは玉座の前にまで出ていくと、膝を付いて、頭を下げた。
「クリスト王国国王様。私はアレン……アレン・シェパードにございます。お呼び出しを受けましたので参上しました」
「……頭をあげてくれ。アレン殿」
「はい」
許可を得たアレンは頭をあげて、玉座に座るクリスト王国国王へと視線を向けた。アレンに視線を向けられたクリスト王国国王はアレンの幼さに驚いて少し黙った。
「……」
「どうされましたか?」
「いや、すまん。私がクリスト王国国王カエサル・ファン・クリストである。まずは我が国を亡国の危機から救ってくれたこと心から感謝する」
クリスト王国国王……カエサルは頭を下げようとした。ただ、それを止めるようにアレンが声を上げた。
「待ってください。頭など下げる必要はありません。私はたまたま戦争を見かけて、勝手に介入したに過ぎません。本来なら戦争への勝手な介入は重罪でありますし」
「そう言う訳にはいかんよ。クリスト王国は亡国の危機だった。クリスト王国の国王として……いや、一人の民として礼を尽くさねばいかん」
カエサルは頭を下げた。そして、それに続き、玉座の間に居た者すべてがアレンに頭を下げた。
「……」
皆に頭を下げられてアレンは黙るしかなかった。
カエサルは一分ほどの頭を下げたのち、顔をあげて口を開く。
「本当に感謝する。そして、アレン殿には褒美を取らせる。何か望むものはあるか?」
「え、えーっと。ええ? うーん。いや……特には」
「何か望むものはあるか?」
「……うーん……わかりました。一つだけ願いがございます」
「言ってみよ」
「今後……バルベス帝国の侵攻が火龍魔法兵団を失ったサンチェスト王国へ向く可能性が高くあります。そうした場合、サンチェスト王国からは多くの民が他国に難民として移住する流れが出来ると予想されます。私が望むのは……もしその難民となった彼らがこのクリスト王国に訪れた際には奴隷のように扱われることなく、民として扱っていただけたらありがたく思います」
「うむ、わかった。もちろん、厳しい審査を行うが……仕事や住居の斡旋を手厚く行い民として扱おう。更にべラールド王国にも話を持って行ってやろう」
「ありがとうございます」
アレンは頭を下げた。その姿を見たカエサルは目を細めて、少しの沈黙の後でゆっくり口を開く。
「……アレン殿はサンチェスト王国から国外追放された。しかも、それは無実の罪だったとも耳にすることがある。それでもなお、母国サンチェスト王国のことを考えている……お主は立派な国士であるんだな」
「ハハ、そう言っていただけるのは嬉しいですが。そんな大層なものではありません。私はただの一武人にございます」
「……そうか。それでアレン殿自身への褒美は何が良いか?」
「私個人にですか?」
「それが無くては締まらんだろう」
「すみません……考えさせてください」
「わかった。では、少しこちら側の話をアレン殿に聞いて欲しい」
「はい、何でしょうか?」
「アレン殿には我が国の軍のトップ……つまり軍総司令に立ってほしい。もちろん、お主を登用するにあたり本来の三倍の高給を約束しよう」
「他国の人間であった私を軍総司令に?」
「アレン殿の活躍は英雄譚として語られるほどであるし。今回の我が国とバルベス帝国との戦争でやってのけたことでお主の力量について疑う余地すらない。……お主が他国の人間であったことを押しても欲しい人材だ」
アレンは俯き目を瞑り、少し間を開ける。そして、ゆっくり目を開きカエサルを見据えて口を開く。
「私の事を評価していただきありがたいのですが……丁重にお断りします」
「そうか」
「私が人ごみの中に居ることが無理なのが一番の理由ですが……今の隠居生活が楽しくなってしまっているのです。もちろん、もうご存知かと思いますが冒険者活動も含めてです」
「……残念だ」
「申し訳ありません」
「いや、こちらこそ、突然すまなかったな」
「私は国を追い出された古き者に過ぎないのです。そんな私が今更軍総司令になったところで後進にとって邪魔者でしかないでしょう」
「アレン殿は見た目、子供ではあるがハーフエルフで……確か四十代だったか」
「いや、今年で五十に成りますよ」
「そうだったな。私よりも年上か……さすがに娘はやれんぞ」
カエサルは小さくボソッと呟いた。その言葉を聞き取れなかったアレンは首を傾げる。
◆
補足。
国士とは、国家のために身命をなげうって尽くす人物。憂国の士。
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