第167話 あまーい。
ここはアレンが住んでいる屋敷の食堂。
そこではアレン達が揃って朝食を食べていた。
「え? 俺達が……サンチェスト王国へ行くんですか?」
ホランドの問い掛けに、パンを口の中に放り込んだアレンが頷き答える。
「あぁ」
「俺達は……アレンさんの弟子として足りないところがあったでしょうか?」
ホランドは表情を暗くしてアレンに問いかけた。それはリンやユリーナ、ノックスも食事を止めてアレンへと視線を向けた。
「あん? なんの話だ?」
「へ? 俺達が使えなかったから……サンチェスト王国に戻すってことではないのですか?」
「何を言っているんだ? ちょっとホーテと……アリソンの奴に手紙を持って行って欲しいだけだろに。俺が行くと騒ぎになりそうだからな」
「……そうでしたか。しかし、突然どうしたのですか?」
「もちろん、昨日の魔族モルスについてだ。お前らも遠目で見ていたろ?」
「はい、遠くにいるのに寒気が止らないほどの圧倒的な強さを感じました」
「それで……あの魔族モルスはサンチェスト王国内にも繋がりがある者が居るようなことを話していたからな」
「なるほど、そう言うことでしたら……わかりました」
納得したのかホランドがホッと胸を撫で下ろして言った。
「お前らは……異論はあるか?」
アレンはホランドからリン、ユリーナ、ノックスに視線を向けて問いかけた。
「わかったわ」
「私、アリソンさんに会いたい」
「わかったッス。あ、俺は槍使いとしてホーテさんに会いたいっす」
「うむ。それと一年帰っていないんだ。手紙を渡した後は、もちろん里帰りの為に寄り道しても構わないぞ? ただ、早く手紙を渡したいからホーテとアリソンの二手に分かれ行動してくれ」
アレンはリン達の返答を聞くと、朝食に出ていた紅茶が注がれたティーカップを手にして、飲み干した。
「はい、わかりました」
「どちらにするの?」
「ふすん。アリソンさんに」
「俺はホーテさんに会いたいっす」
ホランド達はワイワイとホーテとアリソンのどちらに会いに行くか話しながら食事を始めた。
「アレン様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
右隣に座っていたローラが食事を止めて、ポットを手にして問いかける。
「あぁ、ありがとう」
「しばらくホランドさん達は旅に出られるのですね?」
「あぁ、ローラも行くか?」
「いえ、私はここに残りますよ。ふふ、だってアレン様と一緒ですもの」
「……そうか」
今まで黙って食事を進めていたライラがサラダを口にしながらでアレンに話しかける。
「あーあー、お熱いこと。まさか、こんなところに聖女ローラ様がいるなんてね。教会の連中、必死に探していたわよ?」
「ふふ、私は教会に戻る気はありませんよ。だって、子供頃から憧れていましたアレン様の近くに居られる為ですもの」
ローラはそう言うと少し顔を赤くする。対して、ローラの話を聞いたライラは自身の肩を抱いて叫びだす。
「あぁーあまーい! 砂糖! 砂糖なの?!」
朝食に出ていた野菜スープを一飲みしたアレンがライラに視線を向けて口を開く。
「どうした? 急に叫んで」
「すごい甘々だった。あ……それよりさっきの話よ。サンチェスト王国内にあの魔族のシンパーがいるっていうのは本当なの?」
「俺も確信がある訳ではない。ただ、俺のことを調べられていた。その情報はかなり詳細……まさか、俺がカーベル・スターリング将軍の部下であった時のところまで調べられているとは思わなかった」
「……なるほど、貴方が英雄として名を上げる前の事まで調べるにはサンチェスト王国内に伝手がある者でないと難しいと言うことね」
「そう言うこと……それでさっきからうるさいなぁ」
アレンは後ろを振り返り、何やら口喧嘩をしながら食事をしていたノヴァとコニーに視線を向ける。
「むむ、吾輩の肉を取ったな。アホ鳥」
「いらないと思ったのよ……ぴぴ」
「吾輩、好きな物を食べるのじゃ! 仕方ないお主の肉を……ってお主のは全部果物ではないか」
「ぴぴ、私は果物が大好物なのよ。けど、この肉もなかなか美味しいわね」
「仕方ないではお主の……果物をもらう」
「だ、駄目よ。私の物は私の物だもの」
「ぬ、お主、吾輩の肉を食べたではないか」
「ぴぴ、貴方の物は私の物だもの」
「何を言っとるか? アホ鳥」
「何よ。馬鹿犬」
先ほどからこんな調子でノヴァとコニーは口喧嘩を続けていた。
ノヴァとコニーの口喧嘩を聞いていたアレンが口を挟む。
「いつまで喧嘩しているんだ? お前らは仲良く出来ないのか?」
口喧嘩していたノヴァとコニーの視線がアレンの方へと向ける。そして、口を揃えて反論する。
「アレン、吾輩がなぜ好き好んでアホ鳥と仲良くせんといかんのだ」
「私も嫌よ。こんな馬鹿犬と仲良くしなくちゃいけないのよ」
「いや、お前らって……ライラが言っていた通り、本当は仲がいいんじゃないか? 喧嘩するほど仲がいいって言うしな。ハハ」
「ぬぬ、先ほどまでの口喧嘩を聞いておらんかったのか?」
「ぴぴ、アレンは耳が悪いのかしら?」
「ハハ、息がぴったりじゃない」
アレンは声を上げて笑いはじめた。それに続くように食事していたホランド達も皆が笑い出した。
それから、談笑しながら食事を進めるのだった。
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