第154話 エルシェル・ジル・バーゼル。
『ガハハハ、我、ここに復活なり……我の魂の欠片を育ててくれた事、礼を言うぞ』
アレンの頭の中に知らない男性の陽気な声が響き。そして、右手の人差し指にはめていたバーゼルの指輪の赤色の宝石が徐々に輝き出した。
『貴様の声は我……この大精霊エルシェル・ジル・バーゼルに届いておるぞ』
「……大精霊……だと?」
アレンの頭の中に再び男性の声が響きアレンは戸惑いの声をあげる。
ただ、アレンの声が届かないのかアレンの問い掛けに答えることなく続ける。
『まだ完全に力が戻ってない……そして、まだ少し時は早い……だが貴様の願いにほんの少しだけ助けになろうぞ』
男性の声の持ち主がそう言ったところで、バーゼルの指輪の赤色の宝石部分から先ほどアレンが使った【ヒール】によって現れた白い光に似た……いや、より更に輝きを増した白い光がポコポコと溢れでてくる。
そして、アレンの全身を包むほどに大きな白い光の塊となったのだ。
「な……なんだ? 落ち着け……止められない……のならせめて考えろ。これは……【ヒール】? いや、それとは全く比べられないほどの力を感じる。原因はこの指輪か? そもそも、この……強大なマナはどこから? 今の俺は何も……まさか今まで押しつけられていたマナか? 確かに、それがどこに行っているか気になっていたが」
アレンは右手の人差指にはめられたバーゼルの指輪に視線を向けて疑問をぶつぶつと口にした。
何が起こっているのか理解できないでいるものの、白い光の塊は突然、パンっと弾けて、辺りに飛散して降り注ぐ……それはまるで雪がシンシンと降るようだった。
飛散した白い光が、ルーシーを含めて辺りで倒れていた者達の体に降り注いで……体を包んだのだ。
ざざ……。
草むらを踏みしめるような足音が聞こえた。
足音がした方にはノヴァ、ホランド、リン、ユリーナ、ノックス、ローラの一匹と五人が姿を現して、アレンの周りで起こっている光景を見て戸惑い驚愕しているようだった。
そのホランド達の中で、ノヴァの背に乗せてもらっていたローラが呟く。
「これは……まさか、『奇跡の光』? そんな……」
「奇跡の光ですか?」
ローラの隣に立ったホランドがローラの呟きに反応して問いかけた。
その問いかけにローラはゆっくりコクンと頷いて答える。
「ええ、教会に伝わる最上位の治癒魔法の一つ【レスレクシオン】……教会では奇跡の光と呼ばれています。しかし……奇跡の光を使うには精霊しかも……かなり上位の精霊の加護を持たなければ出来ないはずなのに……」
ローラが言う奇跡の光によって包まれたルーシーはみるみる内に傷が修復されていった。
そして、十分もしない内に血液が流れ過ぎて、悪くなっていた顔色もカサカサになっていた唇もやつれていた頬も回復していったのだ。
ルーシーを包んでいた白い光が消えると、ルーシー自身は目を覚まさないものの、小さな寝息を立てている。
アレンはすぐに手首に触れて脈を確認した。更にルーシーの胸に手を当てて心臓の鼓動を確認する。
「生き返っただと……嘘だろ? 何が起きたか分からないが……今どうでも良い……良かった。本当に良かった……」
アレンは俯き、顔を伺うことはできないが泣いているようだった。
……更にアレンはまだ気づいていないが辺りに飛散した奇跡の光によって、周辺にいた人々の多くが……息を吹き返していたのだ。
その効果は正しく教会が奇跡の光と称するだけの力であった。
それから、アレン、更にローラ達は奇跡の光によって救われた人々を救護に当たるのだった。
「奇跡の光とやらで……すべてが生き返った訳ではないんだな」
奇跡の光でも助けなれなかった遺体を並べていたアレンがポツリと呟いた。
アレンの隣にしゃがみ込んだローラがアレンの呟きに答える。
「はい……奇跡の光は残念ながら完全蘇生の魔法ではないのです」
「そうか……」
アレンはスッと立ち上がった。すると、アレンを見上げながらローラは問いかける。
「アレン様はどうされるのですか?」
「ローラ……お前達はこの周囲で他に生きている者が居ないか探してくれ。俺はこれをやった奴らのところに行ってくる」
「ま、待ってください。まさか、お一人で? この人々を殺した者達は少なくとも一個小隊いや……それ以上かと」
「わかっている。ノヴァ……」
アレンはノヴァを一言呼ぶと、音もなく跳躍しアレンの隣へと現れた。
「うむ、何じゃ」
「これをやった奴らはどこに居る?」
「それならあっちの方じゃな。数は……万かの?」
アレンの問い掛けにノヴァは鼻先で方向を指し示した。アレンはノヴァの指示した方向へ視線を向ける。
「リンベルクの街の方角か……わかった」
「うむ」
「ちょっと行ってくる」
アレンは地面をタンと蹴って、目にも溜まらぬ速度で走り去ってしまった。
アレンの後ろ姿を見送ったローラはポツリと呟いた
「アレン様は……お一人で大丈夫でしょうか?」
ローラの呟きを聞いたノヴァは鼻を一度鳴らして答える。
「ふん、大丈夫に決まって居ろうが……あ奴は人間で唯一親父殿に認められたのじゃからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます