第136話 寒気。
「ハハ……それにしても、ローラの治癒魔法はすごく良くできているな。どんなイメージを持って魔法を行使しているんだ?」
アレンの質問にローラは首を傾げて……考える仕草を見せる。
「んー……えっと、イメージですか……もう無意識でやっているんで……えっと、マナで怪我した部分を薄く包み込んで……体内の構造をイメージしつつ、正常な状態に戻るように促していくと言った感じでしょうか?」
「なるほどな。マナで怪我した部分を薄く包み込む感じか……それほどマナを使わずにちゃんと治癒が行われていると言うことは本当に無駄のない治癒魔法の発動が出来ている証拠か。……下級魔法しか使えなくなっている俺も練習したら……使えたりするのかな? 完全に治すことはできなくても止血くらいはできるかな? なら……」
アレンはローラの答えを聞くと、顎に手を当ててブツブツと一人呟きながら考えを巡らせ始めた。
「ちょ、ちょっと、待ってください。アレン様は治癒魔法の適性をお持ちなんですか?」
「ん? あぁ、持っているよ? てか、一般的に知られている全ての魔法に適性があって、すべて上級まで使用できる」
「「は?」」
ローラ、そして治癒魔法を受けていたユリーナも目を見開いて驚きの声をあげる。
彼女達が驚くのも無理もなかった。
いくら魔法の才能があろうと、一種の属性の魔法を上級まで使用できるようになるまで、五~十年が必要だと言われている。
そして、一種の属性の魔法でも上級まで使用できること自体が一流の魔法使いの仲間入りと言われているほどで……更に四種の属性の魔法で上級まで扱えると、賢者の魔法使いと呼ばれ。
その上となると想像も出来ないレベルであったのだ。
「と言っても今はこの……バー何だったかな? あぁと……そうだ、『バーゼルの指輪』が無ければだけどな」
アレンの話を聞いたローラとユリーナは顔を引き攣らせながら口を開く。
「と、なんでもないですね……あ、ユリーナさん、終わりましたよ」
「ふすん。本当にアレンさんってとんでもない。ローラさん、ありがとう」
【ヒール】の魔法が解除されると、ユリーナは上半身を起き上がらせる。そして違和感がないか確かめるように腕を動かした。
対してローラはユリーナの腕の動きを見ながら問いかける。
「腕の調子はいかがですか?」
「腕は大丈夫みたい」
「念の為に、今日は腕を冷やして休んでください」
「わかった」
ユリーナは頷き、丁度タオルと水の入った桶を持ったリンが修練場に戻ってきた。リンが戻ってきたのをみたユリーナは起き上がってリンへと近づいていく。
「あのアレン様……聞いてもよろしいでしょうか?」
ユリーナを見送ったローラは立ち上がってアレンに視線を向けると、問いかけた。
「ん? なんだ?」
「それだけの魔法をどなたから習ったのですか?」
「ん? あぁ……祖母であるムート婆にな」
「アレン様の祖母様……あ、あのマッサージを習ったとおっしゃっていた方ですね?」
マッサージと口にしたローラは少し顔を赤くしながらもアレンに問いかけた。すると、アレンは頷きロッキングチェアが置かれた場所にゆっくり歩き出しながら答える。
「あぁ。そうだ、俺は武器の使い方や人の使い方は師匠のカーネル将軍に習ったが、魔法の使い方、体を鍛えてくれたのはムート婆ちゃんだったな」
「そうなんですね。教えたと言うことは……その祖母様も治癒魔法を?」
「あぁ、使えていたな」
「そうですか……ムート様……ムート様……アレン様の祖母様が……治癒魔法を……しかし、アレン様が治癒魔法を使えることも教会は把握していませんでしたし、やはり野に隠れている高名な魔法使いの方が多くおられると言うことでしょうか」
ローラはアレンの後ろを歩きながら、ブツブツとつぶやいて何か思い出そうとしているようだった。
「それが、どうしたんだ?」
「いえ、クレセン教ではバルべス帝国はもちろんサンチェスト王国、クリスト王国、ベラールド王国、その他近隣諸国の魔法使い……特に治癒魔法が使える方の氏名や所在をずいぶん昔から追っているのですが……ムートと名の付く方はおられなかったかと」
「まぁ、ムート婆ちゃんはかなりの秘境に一人住んでいたし、教会嫌いで。教会が追えないのも無理もないかな」
「やはりそうですか……」
ロッキングチェアまでたどり着くとアレンは座ってユラユラと揺れながら、ローラに視線を向ける。
「まぁ、俺も教会が好きではなかったけどね。百とはいえ軍を預かっていた者としては無視できなかったから……お布施とかには結構気を使った」
「……聖女の私が言うのもなんですが。今の主流となる教派の教会では教示が曲解されて金儲けに用いる者がいたり、狂信する者が別教派の信者に危害を加えたりと健全とは言えませんから……アレン様が教会を好きではないと言うのも無理はないですね」
アレンの言葉を聞いて、ローラは苦笑しながらそう言った。
「組織はどこも大きくなればなるほどに蛆が生まれるからな。大変だ」
「そうなんですよね……。さてと、そろそろ昼食の準備をしてきますね。何か、食べたい物はありますか?」
「んー食べたいものかーパスタかな? パスタが食べたい」
「わかりました。楽しみにしていてくださいね」
ローラはアレンへ向けてニコリと笑って、屋敷に戻っていった。
ローラを見送ったアレンは視線を再び前に向けてホランドとノックスを見る。そして、ホランドとノックスの組手を眺めながらボソッと呟く。
「先ほど、ローラにはちょっと気恥ずかしくて物足りない組手だと言ったが。まぁなんだ、いい組手が出来るようになっているな。……ここから先は実戦で身に付けるしかないだろ。クク……じゃ、次からは何をさせて強くしていこうかな? ちょっと厳しめで行こうか……」
アレンはロッキングチェアに揺られながらブツブツと呟きながら考えを巡らせていた。
この時、組手をしているホランドとノックス、そしてホランド達の組手を見学していたリン、ユリーナの四人の背中には一様に寒気が走っていた。
その寒気の元凶が今後アレンから無茶な課題が出ることを予期しているものだと、四人はなんとなく気付いて、表情を曇らせていた。
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