第129話 想像しただけで恐ろしい。
ローラが火龍魔法兵団の顛末を話し終えたところで、アレンは頷き口を開く。
「なるほどな。そう言うことか……団長をホーテにしなかったこと、火龍魔法兵団に一万増兵したこと……この二点が致命的な悪手だったな」
アレンはそう言うと口元に手を置いて、目を細めた。アレンの言葉を聞いてホランドが首を傾げる。
「え? ホーテ副長を団長にしなかったことが悪手なのが分かります。しかし、増兵は悪手だったのですか?」
「ふ、そうだな。普通ならば、増兵は悪い手段ではない。問題は普通の兵と火龍魔法兵団の兵団員ではレベルが違いすぎることにある。それは軍事演習を数回繰り返して、すり合わせることがないほどに差がある。だから、戦闘に置いて兵団員の動きに対して普通の兵が遅れてしまう。その遅れを取り戻すために兵団員が動く必要があり、兵団員の力が裂かれてしまう。そしたら、兵団員にも被害が出るかなぁ。えっと、ホランド達にも分かりやすく言うなら……お前らのパーティーに突然D級の新人冒険者を百人預けられて高難度クエストに挑戦しろって言われた感じかな」
アレンの言葉を聞いてホランドは椅子の背に体を預けて腕を組んだ。そして、苦笑する。
「ハハ……なるほど、わかりました」
「恐ろしいだろ?」
「想像しただけで恐ろしいですね。リーダーの俺が最初に倒れるでしょう」
「ハハ、リーダーがまともならば……最悪の事態にならない方法はいくつかあっただろうけどな。……つまり、俺の後釜はまともではなかった訳だな。それで? ホーテ達はどうしているんだ?」
アレンは隣に座るローラに視線を向けて再び問いかける。
「今は元副長のホーテさんとアリソンさんをトップに火龍魔法兵団の兵団員は半分ずつに分かれているようです」
「そうか、火龍魔法兵団も半分に分かれたのか? てっきり、全員バラバラになったかと思っていたが」
「はい。ホーテさんはオベール辺境伯領に籠って守備を整えているそうですよ」
「ホーテが……辺境伯領に? アイツ、オヤジさんとは和解したのか?」
「その様ですよ? ホーテさんが辺境伯位を継ぐそうですし」
「は?! アイツ、貴族様になるのか?」
「はい、そう聞いています」
「ハハハ。そりゃ、面白いな」
アレンは楽しげに笑いながら、ラザニアを食べた。すると、不可解そうにローラは首を傾げる。
「えっと……面白いのですか?」
「面白いな。ちゃらんぽらんだったホーテもようやくやる気になったようだ」
「すみません、ちょっと意味が」
「ふ、ホーテは上位貴族を親に持ち、火龍魔法兵団の兵団員でもトップになれるほどの天賦の才……って俺の下に居ることが手を抜いて生きているように見えない?」
「……それは。英雄の集団と言われる……火龍魔法兵団の副長の地位にいて手を抜いていると言うのは信じられません」
「ふん、ホーテがやる気になっていればサンチェスト王国第一位の将軍になれただろうに……。しかし、ホーテが居るならオベール辺境伯領近辺の守護は問題ないという訳か。それで、他は? アリソンが率いているんだったか?」
「あ……はい。アリソンさんは元兵団員とともに百人隊の兵団を作って……侵攻してくる帝国の進路にある村や街の民の護衛兼避難誘導……そして陰ではオベール辺境伯領に移動する民、国外逃亡する民の護衛などをやっているようです」
「なるほど、国民を避難させているという訳か。アリソンも頑張っているな……じゃあ、サンチェスト王国で俺のやれることはないか」
「え? それはどういう意味ですか?」
「いや、なんでもない。おっと、食事の途中だな、ローラの食事を止めて悪かった」
「は、はい」
「冷めちまうから、さっさと食べちまおう」
アレンはそう言って小さく笑うとラザニアをまた食べ始める。
そこで話は終わりだとアレンに言われたのだとローラは察して別の話題を持ち出して話し始めた。
「そういえば、私も少し体を鍛えようと思っているんです」
それから、アレン達は雑談しつつ食事を進めるのだった。
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