第102話 ヘルムートの街にて。
ここはバルベス帝国が占領したヘルムートの街。
その街の中央部にあった豪勢な屋敷の執務室。
「ギャハハ。余裕だったな」
顔に蛇の入れ墨をした男性がソファで行儀悪く足を組んで座っていた。その様子を渋い表情浮かべて部屋の中にもう一人居た顔に蛇の入れ墨をした男とテーブルを挟んで対面のソファに座っていた武骨な男性が口を開く。
「そうだが……はしゃぎ過ぎだ」
「勝利の後だぜ? いいじゃねーか?」
「うむ……ん? それはなんだ?」
武骨な男性が指さした先……顔に蛇の入れ墨の入った男性の足元にメロンほどに膨らんだ麻袋が置いてあった。そして、その麻袋は赤黒く滲んでいた。
「ヒャハ、これか? 俺のコレクション? 見ない方が良いぜ?」
「ガルコ……貴様、まさか一般人に手を出した訳ではあるまいな」
武骨な男性……レイブンは目付きを鋭くして顔に蛇の入れ墨の入った男性……ガルコを睨みつけた。
対して、レイブンに睨みつけられるがガルコは気にすることなく、鼻で笑った。
「ふっ。これは一般人のじゃねーよ。あそこまで厳命されて、それを侵すバカなことはしねーよ」
「……そうか、ならいいんだが」
「しかし、レイブンのダンナも中央のお偉いさんも火龍魔法兵団を恐れ過ぎだったんじゃねーか? 今日の戦いで援軍に来てあっさりと負けた奴らだろ?」
「……お前は本当の火龍魔法兵団を知らん。今日戦った連中は名ばかりで……本物の火龍魔法兵団は誰一人居らんかった」
「そうかよ。しかし、レイブンのダンナがそこまで恐怖するヤツらか……。それに、バルベス帝国最強とか言われちゃっている『剣隠』のルバート伯も勝てなかったんだっけ?」
「あぁ、アイツも副長ホーテと三日一騎打ちしたが勝ててはいない」
「そりゃあ……俺も一度、戦ってみたかったぜ。そしたら、俺の魔法でぶっ殺してやった。それで、俺がバルベス帝国最強だったぜ。ギャハハ」
「そうか、それは……残念だったな」
「本当。あー俺のコレクションも増えて最高だったのによー」
「……そのやる気を次の戦闘に向けるんだな。お前の隊には次も期待している」
ガルコは狂気に満ちた笑みを浮かべて、笑い出した。
対してレイブンはそばに置いてあった杖を手に取る。
レイブンの左足は不自由になっているようで、手にした杖をつきながら立ち上がった。
「ギャハ……それは、当たり前だぜ? なんだよ? ウケるんだけど。ギャグか? ギャハハ」
「そんなつもりはなかった」
「そうか? まぁいいや、俺は腹減っちまったから、失礼するぜ」
ガルコはそう言うと、座っていたソファから立ち上がって部屋から出ていった。
ガルコを見送ったレイブンはコツコツと杖をつきながら、窓の前に立つ。
「下種が……いや、俺も人のことを言えないか」
そう呟いたレイブンは不自由になっている左足にあった深い傷跡に触れる。そして、目を瞑った。
「恐れ過ぎ……か。この街に入ってから、足の傷が疼く……本当にこの国の人間は白鬼アレンを……火龍魔法兵団を手放したのか? 愚かにもほどがある」
レイブンは一度、目を瞑り……まっすぐ窓の外に視線を向ける。
「ここがヘルムートの街。我々が十年間たどり着くことができなかった街か……」
窓からはヘルムートの街が望めた。
今、この街ではバルベス帝国の軍服を身に纏っている兵士達が歩いている。
レイブンは何か決意するように表情を引き締める。
「まぁ、もう少しで冬だ。今期はこれから軽く侵攻して戦果を太らせる。そうすれば来期、本腰を入れて侵攻する口実にできる……白鬼アレン……火龍魔法兵団の居ないサンチェスト王国など容易だと」
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