第99話 予言の英雄。

 ◆


 ここは銀老亭の歌い手の控え室の前にダルファーがやってきた。


 コンコンコン。


「はーい」


 ダルファーが扉をノックすると、部屋の中から女性の明るい声が聞こえてきた。


「おつかれ、飲み物と軽い食事を持ってきてやったぞ?」


「ダルちゃん。ありがとう。入ってきてくれていいわよ」


 ダルファーが自身のことをダルちゃんと呼ばれて苦笑しながらも、扉を開ける。


 すると扉の向こうには、小部屋があってライラがそこに置かれたソファで裸に近い格好で横になってくつろいでいる。


 ダルファーは運んできた飲み物と木の皿の上にサンドイッチをライラの前にあった机に置いた。


「……ダルちゃんはやめてくれ。ライラさん」


 ライラはクスリと笑う。


「ふふそう? 私の中ではいつまでも可愛いダルちゃんよ?」


「はぁ……そうかよ。俺はこれでも五十を超えているんだがな」


「何、年齢の話はなしよ? 私はずっと二十歳なんだから」


「ハハ……」


「む、何が可笑しいのかしら? ダルちゃん?」


「いえ、ちょっと思い出し笑い。気にせんでくれ」


「んん? 何それ、変なの? そういえば、今日は居た? 化け物みたいに強いヤツ」


「最近よく聞かれるが何なんのだ?」


「いいから。教えて」


「化け物みたいに強いヤツなんてそんなポンポンと居らんよ? 居たのはスービアくらいと……。あぁ、あとは……強いていうならスービアと一緒に飲んでいたガキが面白かったくらいか」


「あぁースービアちゃんが珍しく男の子と飲んでいたわね」


「ハハ、俺も目を疑いましたが、年齢差があり過ぎだな」


「どうかしら、案外年齢差なんて愛があれば関係なくなってしまうものよ? ダルちゃんが昔私に告白してきてくれたみたいに」


「……それはもう言わんで欲しい」


「駄目よ。ダルちゃんが死んじゃうまで言うんだから」


「はぁーそうか。それで、最近俺に化け物みたいに強いヤツが店にやって来るか聞くようになったんだ?」


 ダルファーは諦めたようにため息を吐いて、話をもとに戻して問いかけた。


「あぁ、そうね。……今年の聖英祭の時期あたりに英雄が私のもとを訪ねてくると大婆様が予言したんだよね」


 どこか詰まらなさそうにそう言ったライラはダルファーが持ってきたサンドイッチを食べ始めるのだった。

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