第74話 四カ月。

 ここは冒険者ギルド内のロビー。


 アレンが国外追放されて四カ月。そして、冒険者始めて三カ月が経っていた。


「今日はどうする?」


 アレンが先に来ていたリナリーに問いかける。


「そうね。今日はC級の冒険者が受けられる討伐系クエストを受けようかしら? 今日は、新しく考えた魔法を試したいと思っていたの」


「へぇ、新しい魔法?」


「ふふん、やっぱり気になる? そんなに見たいの?」


 リナリーは自慢げに胸を張って、アレンを見た。


「え。あぁ、うん」


「仕方ないわねぇ。そこまで言うなら見せてあげなくもないわ!」


「そ、そうか、ありがとう」


「んーけど、戦闘中じゃ、ちゃんと見ることはできないわね」


「じゃ、冒険者ギルドの修練場に行く? 確か案山子みたいなのがあったはず 空いているかな?」


「そうね」


 アレンとリナリーは、連れだって冒険者ギルドのロビーから離れて行った。




 ここは冒険者ギルド内にある修練場と言う施設だ。


 この修練場は冒険者ギルドの施設の一つで、七日に二、三日講師を招いて冒険者に武術に講習会などが行われている。


 そして、この修練場は空いていれば、冒険者なら誰でも使用可能となっていた。


 アレンは案山子のような人形を引っ張りだしてリナリーの前に持っていく。


「これでいいのか?」


「えぇ、いいわ」


 リナリーはそう言うと、自身が肩からかけていたバッグの中から、小さな手裏剣を取り出してアレンに見せる。


「これは投擲武器の手裏剣?」


「あら、この武器を知っていたの?」


「え? あ、いや、たまたまだよ」


「そう? その? まぁいいわ、これからやる魔法にはこれが必要だったのよ」


 リナリーが持つ手裏剣は、手の平に収まるほどの大きさで、四方に鎌のような刃先があった。


 この手裏剣の一番の特徴は手裏剣の真ん中に魔法陣が刻まれていたのだ。


 アレンはその手裏剣を見て、目を細めた。


「へぇー」


「まぁ、これは残念ながら、私が考えた武器ではないわ。火龍魔法兵団と言う、頭のおかしい集団で一番の風使いと言われるダニエル・ファン・クロムザードの愛用武器をオマージュさせてもらったのよ」


「頭がおかしい……ごほん、そうか」


 迂闊なことを言いそうになったアレンは咳払いをして誤魔化した。そして、視線を下げて考える。


 一兵団員が使っている武器まで……。


 クリスト王国にまで、火龍魔法兵団の事はかなり詳細に伝わっている?


 それにしても……この手裏剣の元を考えたのは俺なんだよなぁ。


 最初はおもちゃだったけど……。


 まさか、兵団員の武器となって、他国にまで伝わって使用されると言うのはなかなか感慨深いものである。


 ちなみに、俺の考えたおもちゃはダニエルだけでない風属性の魔法が使える兵団員とは、誰がこの手裏剣をうまく操作できるか、飲みの席でレースなんかして遊んだものである。


 いつも、俺、ホーテ、アリソン、ダニエルの四人で競っていたんだ。


 まだ四カ月くらいしか経っていないが懐かしいな。


 まぁ、全員が負けず嫌いだから毎回順位が変動するんだけど。


 それにしても……ダニエルは火龍魔法兵団で一番の風使いと言われるのか?


 一番と言うのは、ちょっと気に食わないな。


 アイツも調子が悪い時は火龍魔法兵団内でも五位くらいまで順位を下げたことがあるぞ?


 視線を落として考え事をしていたアレンが気になったのか、リナリーが問いかける。


「ん? どうしたの?」


「え? あぁ、なんでもない。それで、その手裏剣をどうするの?」


「えっと、前の人食い熊との戦いで思ったの、私の魔法には貫通力がある魔法が少ないのよね。大きな風の刃で傷口が大きくなってしまったり、火の玉で全身を焼いたり……それだと倒した獣から取れる素材の状態も悪くなるし、止めを確実に刺すのには少し弱いのよね」


「うん、そうだね」


「だから、自分で風の刃を魔法で作るのではなくて……事前に鋭い武器を用意しといて、それの回転力を上げることで威力が高くて貫通力のある魔法が出来ないかなって思ったの。ちなみに手裏剣の魔法陣は私から離れても操作しやすいように付けたものよ」


「そうか、なるほどね」


「ふふ、じゃ使ってみるから、見ていて」


「わかった」


 リナリーは四枚の手裏剣を両手の人差し指と中指、中指と薬指のそれぞれの第二関節に挟んだ。


 そして、両腕をクロスするように構えると、手裏剣の魔法陣が薄く輝きだす。


「ふぅ……【エアートルネード】」

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