第73話 三カ月半。

 ベルギクード歴937年夏。


 アレンがサンチェスト王国を国外追放されてから三カ月半。


 青い屋根の屋敷に住み始めて三カ月。


「ふう、もう夏か……サンチェスト王国に比べたらかなり涼しいなぁ」


 季節は春から夏に代わっていた。


 ここはアレン達が屋敷の隣に作ったコンビニ四つ分くらいの農園。アレンはその農園を目の前にして、一人ごちる。


「……よくよく考えたら、五人ほどが食べる野菜を作るのにここまで広い農園を作る必要なかったな」


 その農園ではアレンが大きな桶と尺を持って、農園の土に水やりをしていた。


「そうだ。家畜を飼うってのもいいか? そしたら、ここから外出することなく、完全に自給自足でき……いや、塩の問題もあるし、魔導具で自動換気されているようだが、ここは地下だし、どうしても匂いが籠りやすいからやめといた方が良いかな」


 その時にへとへとのホランドが近づいてきた。


「はぁはぁ……ランニング、終わりました」


「お、終わったか」


「はい」


「全員少しは早く走れるようになったな」


「そう、ですか?」


「あぁ、魔法も少しは使えるようになってきたし。そろそろ、別のこともやるか?」


「別のこと?」


「実戦。手始めにユーステルの森でA級の魔物を討伐してくるって課題はどうだ? もちろん俺は同行しないで」


 ホランドは表情を強張らせて、ゴクンと息を飲んだ。


「俺達だけで……A級の魔物ですか?」


「あぁ、最初は遠くから偵察でもいい。勝てると思ったら、挑むって感じだな?」


「はぁーそうですか。それなら」


「……だいぶ動けるようにはなっているが、まだA級の魔物の相手は荷が重いか?」


 アレンは持っていた尺を桶の中に沈めて、空いた手をあご先に置いて考える仕草を見せる。


「アレンさん、本来A級の魔物を討伐するにはS級の冒険者のパーティーもしくはA級の冒険者のパーティー三つが必要になってくると言われているんですが……」


「あぁ、冒険者ギルドでそんなこと聞いたな。じゃ……考え直すかな?」


「いや……やってみたいです」


「くれぐれも無理はするなよ?」


「はい」


「最悪、負けそうならノヴァを呼んで逃げればいい」


「……なるべく、そのヘルプは使わないようにできたらいいですね。なんだか、負けた感じが」


「そうだな。ただ負けることで生き残れるなら、躊躇せず生きる方を選べよ?」


「はい、わかりました」


「じゃ、ランニングが終わったなら、今日は……体術の訓練をやるかな」


 アレンは桶を持って、修練場へ向けて歩き出す。それに続いてホランドがアレンの横を歩く。


「そういえば、アレンさんの冒険者生活は順調なんですか? 最近、話を聞いていませんでしたね」


「あぁ。C級の冒険者になったな」


「え? C級ですか? アレンさんなら、すぐにA級の冒険者に成ってしまうと思っていましたが」


「それだと、パーティーメンバーが成長できないからな」


「……パーティーメンバーの小さな女の子に振り回されるアレンさんって言うのはなかなか想像すると意外ですね」


 ホランドは笑いを堪える。


「笑ってくれるな……ってお前らとそれほど変わらないけどな」


「あ、確かに、それはそうですね」


「まぁー最初は子供のお守と思っていたが、なかなか楽しく冒険者をやれているよ」


「楽しいならいいですか」


「そうだな。楽しければいい。あ、そういえば……この前、屋敷で見つけた扉は開きそうなのか?」


「リン曰く、進捗は思わしくないようですね。専用の鍵となる魔導具があるんじゃないかって言っていましたよ」


「そうか。まぁ、ゆっくりやったらいいか。もしかしたら、この屋敷の中にその魔導具が転がっているかも知れない」


「そうですね」


 アレンとホランドが歩いていると、新たに作った木の柵に覆われた修練場にたどり着く。


「さて、今日も厳しくやるからな」


 アレンはそう言って修練場へと入って行く。ホランドは苦笑いしながらアレンに続いた。


「はは……よろしくお願いします」

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