第68話 最古参。
「サンチェスト王国は滅ぶ」
「「……っ」」
ホーテの言葉を聞いた瞬間、アリソンとシズが表情を強張らせた。
ただ、何も言葉にしないと言うのは内心ではホーテと同じ考えていたのかも知れない。
「……王国が滅んだ後に受け皿が必要かと思ってね」
「そうねぇ。今のところを帝国の侵攻を跳ね返せてはいるけど、このまま火龍魔法兵団の初期メンバーの百人が削られていくのなら遠くない未来で王国は滅びるかもね」
「どうせ王国が滅ぶなら……火龍魔法兵団の初期メンバーを温存して、王国の避難民の流入したオベール辺境伯領を守護した方が多くの人を守れると思うんだよね」
「なるほどねぇ」
「それで君達はどうするんだい? もちろん、君達も来てくれるなら歓迎するし、心強いんだけど? 何より、俺の周りに君達美女がそろっていると素晴らしいんだよね」
「アンタねぇ。最後のセリフが余計よね。だけど、君達もということは、自分の部隊やらには話しているようね」
「ラーセットは鋭いねぇ。そうだよ。団長が居ないんだ。……俺だってちゃらんぽらんじゃいられないみたいだからね。さまざまな可能性をすでに検討して話し合っていたよ」
ホーテの話を聞いてラーセットとアリソン、シズの間に沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのはラーセットだった。
「そう……じゃ私はホーテについて行こうかしらね」
「本当かい? それは嬉しいね」
「まぁ、ちゃらんぽらんじゃないホーテを見ているのも面白いと思ってね」
「それは面白いかな?」
「貴方が面白くなくなったら、私は抜けるわよ。だから頑張ってね」
「ハハ、それ団長にも昔言っていたよね? 君はそうやって男を試すのかい?」
「そうよ。悪い? ちなみに団長はそれで……七年近く私を縛ってくれたわ」
「……それは頑張らないとな」
「ふふ、そうね。じゃ……私は私の隊で話してくるわね」
「そうだね。そうした方がいい」
ラーセットは天幕から出ていった。ラーセットを見送ったホーテは続いて、アリソンとシズへと視線を向けた。
「それで、君達はどうする? まぁ……すぐに決める必要はない。俺達が火龍魔法兵団を脱退するのには手間取って一カ月くらいだろう。それまでに、何をするか決めてくれると俺も手伝えることがあると思うんだけど」
ホーテがそう言うと少しの沈黙が流れた。そして、その沈黙破ったのはアリソンだった。
「私は……火龍魔法兵団を無くしたくない」
「……それはこの場に集まった全員思っていることだろ。もちろん、ラーセットだって」
「うん。けど今の火龍魔法兵団では、兵団本来の目的である国民の守護すらままならない」
「そうだね。だから俺はオベール辺境伯に……」
「けど、サンチェスト王国の全国民をオベール辺境伯で匿うのは物理的に無理よね?」
「……」
アリソンの問いかけにホーテは沈黙した。
それは暗にアリソンの問いかけを肯定していた。
「……なら、オベール辺境伯へ向かう道中や他国へと亡命するのに手助けが必要だと思う。それにサンチェスト王国の領地が切り取られて残された国民が虐殺や奴隷のように扱われる……それを食い止める。そのために王国内に兵団の力が残った方がいいと思う」
アリソンは一回言葉を切って、ホーテへと視線を向ける。アリソンの瞳は何か決意したような強い意志が感じられた。
「私が新しく兵団を作るよ」
「……そうか」
ホーテは穏やかな笑みを浮かべて、頷いた。
「じゃじゃじゃじゃじゃじゃあ、私は……アリソンさんについていくことにします」
アリソン達の話を聞いていたシズが口を開いた。
「シズ……」
「私もこの火龍魔法兵団は無くしたくない」
「……っ」
「私が兵団の頭に立つには力不足なんです。分かっています。だけど、アリソンさんを支えることはできます」
「シズぅうぅう」
「きゃ……」
感極まった様子のアリソンはシズに抱き付いて、押し倒した。
その二人を見てホーテは苦笑する。
「ハハ……仲がいいね。俺の胸にも飛び込んできてくれていいよ?」
「何を馬鹿なことを」
アリソンがホーテをキッと睨んで言った。
「ふ、冗談だよ。アリソンは大変な道を選ぶな。尊敬するよ」
「何言っているのよ。アンタが言っていることも、大概大変な道なのよ?」
「そうだね。俺も新しく兵団を作ることを考えたんだけど。どうしても、団長の幻影を追って……失敗しそうだと思ってね」
「……それは私もそうだけど。たぶん、アンタが新しく兵団を作って団長になると言ったら……私も含めて全員が付いてきたと思うわよ?」
「だろうね。たぶん最初はうまく行くんだろな。ただ、火龍魔法兵団の一線級の実力者全員を維持するには俺でも力不足だよ。長い目で見たら、砂の城が崩れるように無くなっていくかな?」
「何を言って……団長とアンタにそんなに力の差があるの?」
これは火龍魔法兵団内でよく言われていたことである。
団長のアレンと副長のホーテのどちらが強いのか? と言う話題である。
ただ、この話題は団長のアレンと副長のホーテの前でするのはタブーとされていた。
ただ、アリソンはそれが分かった上で、ホーテに問いかけた。
「どうかな?」
「また、ごまかして……たぶん、こうやって話すのも最後なんだから教えなさいよ。火龍魔法兵団の最古参」
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