第39話 外へ行こう。
青い屋根の屋敷にアレン達が住み始めて一週間が経っていた。
その日、アレンは食事の準備には早すぎる時間に調理場の鍋を使って何かを煮だしていた。
木のヘラで鍋に入っていた物をゆっくり混ぜながら、具合を確認する。
「んーこんなもんかなぁ?」
「ん? んん? スンスン……うわ、なんかすごい匂いッスけど……。まさか、ユリーナとリンが料理を……ってアレンさんッスか?」
丁度その時、偶然調理場の近くやってきたノックスは何か強烈な刺激臭を嗅ぎ取って表情を顰める。
そして、すぐに調理場を覗き込んで、アレンと目が合った。
「悪い。ちょっと臭うよな」
「すごい臭いスね。正直、ユリーナとリンが料理でも勝手に始めたのではっとめっちゃ焦ったッス」
「ハハ、それは悪かった。乾燥させたザーロの皮からちょっと毛染め剤を作ろうと思ってな」
「毛染め剤ッスか?」
「あぁ、ザーロは知っているな? 粒がいっぱい詰まった赤い果実だ。そのザーロの皮を乾燥させてから煮出してやると、赤茶色の髪色になる毛染め剤になるんだ」
「そうなんッスね。だけど、なんで今毛染め剤がいるんッスか?」
「それはな。えっと、地下通路で探索している時に人の集落が近くにある出口があったのを覚えているか?」
「はいッス。まぁ、直接見た訳ではないッスけど。ノヴァさんが言ってたッスね」
「そこに潜入してもう無くなりそうな塩……それから小麦粉を買うためにな。俺の銀髪はどうしても目立つから」
「そうなんッスね。明日行くんッスか? 異国の街に行くのちょっと楽しみッスね」
「えっと、楽しみにしているところ悪いんだが……最初の潜入は俺一人で行くから」
「ななな、なんでッスか? ズルいッス!」
「いや、俺は銀髪さえ変えてしまえば……こ、子供、いや、すごく若々しく見えるから相手が油断して潜入しやすいんだ」
「そうなんッスね……」
「まぁ……その異国の街とやらに危険がなければ、次からは連れて行くから」
「絶対ッスよ」
「……いや、ちょっと待てよ? その異国の街は帝国の領地であるユーステルの森の近くにあるんだ。だとすると、その異国の街も帝国の領地である可能性が高いよな?」
「そうッスね。それがどうし……」
「ふ、気づいたか? もし、その異国の街が帝国の領地だった場合、帝国の公用語であるパルストール語が使われているはずだ」
「……」
「ノックスはパルストール語を喋れたりするか? ちなみに俺はパルストール語を普通にしゃべれる。さすがに言葉がしゃべれない奴は連れて行けないから……」
「アレンさぁあん、そこをどうにかぁッス!」
「どうにもならんだろう、さすがに。パルストール語の本を買えたら買ってきてやるから、それで勉強するしかないな」
「べ、勉強ッスか? 俺、机に座って勉強とかするの得意じゃないんッスけど」
「勉強しかない。じゃないと連れて行けん」
「……う、う、う、頑張るッス」
ノックスはいつもの元気なく、頷いた。
ちなみに、アレンが作っていた毛染め剤はアレンの銀髪を赤茶色の髪色に綺麗に染めることができた。
ここは地下通路を進んだ先にあった一つの扉の前である。
ガチャ……。
「開いたよ」
ピッキングで扉の鍵を開けていたリンが振り返って、アレンへと視線を向けた。
「おぉ、早いな」
「へへ、一度開けた扉だし」
「なるほど、それであと頼みたいことが……」
「扉の鍵の製作だよね」
「すまんな。急かして……ここの鍵は優先で製作して欲しいな」
「いいよ」
「頼んだ。たぶん夕方ごろには帰るかな? 状況にもよるけど」
「わかった。早く帰ってきてよね」
アレンは扉に触れると、強化魔法の【パワード】で扉を開けた。
そして、扉の先に出ると……人が多くいる場所……おそらく異国の街へと向かい歩き出すのだった。
「あ、そうだ……もし街でなんか売ることができるかもしれないし。この辺りでちょっと狩りをするか?」
地下通路の扉から離れ、森の中を歩いていたアレンはふと思い付いたことを零した。そして、口元に手を当てる。
どうする?
俺はこれから子供として街に潜入する。
まぁ……それはお使いを頼まれた子供として潜入するってことにすればいいとして……。
ちょい探し……アレ?
魔物の気配はないな。その代わりに普通の獣がいるような?
ん? この森は魔物の領域であるユーステルの森という訳ではないのか?
あ、もしかして、ここに住む人がこの辺りの魔物を狩りつくしてのだろうか?
あり得るか。
まぁ、そんなことどうでもいいか。
俺は子供として、街に潜入するわけだからなんか子供が罠とか使って捕えられそうな獣を捕まえられないだろうか?
しばらく、歩きながらも考えを巡らせていたアレンは不意に何か思い当ったような表情で顔を上げた。
「よし、そうだな。とりあえず、そこら辺に居る獣を……弱すぎる気配は感じ取るのは難しいが適当に捕まえて行くか」
アレンは、きょろきょろと森を見回して、近くに居た獣を狩っていくのだった。
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