第24話 B級の魔物。



 昼食後、二時間が経った頃。


 ここはアレン達が野営している洞窟からそれほど離れていないユーステルの森の中。


「こけえええええええええええ」


 三メートルはある巨大な鶏が大きな鳴き声を上げて、鋭く尖った爪のある右足をつき出してアレンへと飛び蹴りしてくる。


 巨大な鶏の飛び蹴りが迫っている中、アレンはのんきにもその場に落ちていた岩を拾い上げた。


「アレンさん!」


 少し離れたところで周囲警戒を行っていたノックスがアレンへと声を張り上げた。


 その次の瞬間、アレンへと巨大な鶏の飛び蹴りが降りそそぎ、ズドンと重い音が響いた。そして、大きな砂埃がアレンと巨大な鶏を包んだ。


「あ、アレンさん」


 ノックスがアレンの元へ駆け寄ろうとしたところで、巨大な鶏が羽をバタバタと羽ばたかせて砂埃が晴れていく。


 砂堀が晴れ現れたのは巨大な鶏の足を左手でつかんでいるアレンであった。


「ごほんごほん……砂埃が」


「こけぇこけぇ」


 アレンは砂埃に咳こみながらも、暴れまわる巨大な鶏の足を離すことなくつかんでいた。


「うるさいっと」


 アレンは持っていた岩を思いっきり巨大な鶏の口の中へと投げた。すると、元気だった巨大な鶏はぐえぇっと声を上げ、白目を向いてバタンと倒れたのだった。


「ふう」


 掴んでいた巨大な鶏の足を離したアレンは巨大な鶏を見据えて息を吐いた。すると、ノックスがアレンの元へ駆け寄って来る。


「アレンさん、大丈夫ッスか?」


「あぁ、服が埃を被ったこと以外は」


 服に付いた砂埃をパンパンと払いながらノックスの問いかけに答えた。


「明日は焼き鳥かな?」


「楽しみッス」


「これだけあれば大丈夫だろ。明日は大飯ぐらいのノヴァを呼ぶ必要ないだろうし」


「それはリンとユリーナが寂しがるッスね」


「ふ、少し静かになっていいだろ。じゃその鶏……そいつってなんて名前なんだ?」


「……えっと、何だったッスかね?」


 ここでアレンとノックスは、鶏の名前を分かっていないが、あとでアレンがホランドに確認したところ『アントコッコ』と言う魔物であった。


「まぁいいか。その鶏の解体は後でいいにしても、とりあえず血抜き頼んでいいか?」


「わかったッス」


 それから、ノックスがアントコッコの血抜きを終えたところで、その場を離れた。そして、アントコッコを引き擦りながら野営している洞窟まで戻ったのだった。




 アレンとノックスが野営している洞窟に戻ったところで、アレンがある物が目に留まり感心したように呟く。


「あー俺の想像三倍ほど立派な屋根ができている」


 アレンの呟き通り、素人目から見たら半日ほどで作ったとは思えないほどの出来、さらに洞窟の出入り口辺りから焚火までをカバーするほどに大きさの屋根が建っていた。


 アレンの呟きにアレンの背後にいたノックスが反応して答える。


「ホランドは剣を振るうよりも金づちを振るう方が得意ッスからね」


「そうか……冒険者としていいのか悪いのか判断にちょっと困るな」


 アレンとノックスが屋根に近づいて出来を確認しながら話していると、オホンと背後から咳が響く。


「おほん、聞こえているんですが」


 洞窟から顔を出したホランドがアレンとノックスに向けて声を掛けた。


「お、おーホランド、思った以上にいい出来の屋根で驚いたぞ」


「あ、相変わらずの大工の腕ッス」


 突然のホランドの登場にアレンとノックスは貼り付けたような笑みを浮かべた。


「はぁ、まぁいいです。ところでその後ろのでっかい……その魔物は確かアントコッコでしたっけ? 二人で仕留めたんですか?」


 ホランドはアレンの後ろに見えたアントコッコを指さして、問いかけた。すると、アレンもアントコッコに視線を向けて答える。


「あぁ、そうだ。明日はコイツの焼き鳥かだな。それにしても、この鶏アントコッコって名前なんだ」


「いや、アレンさんが一人で仕留めったッスよ。しかも正面から攻撃を受け止めていたッス。ヤバかったッス」


 ノックスは首を横に振ってアレンの答えに訂正を入れた。すると、ホランドがエッと驚きの声を上げた。


「確かアントコッコはB級の魔物中でも強かったと思うが……さすが、すごいですね」


「くく、これくらいなら、後々にはお前たちにも一人で仕留められるようになってもらうから」


 アレンは小さく笑いだしてそう言うと、ホランドとノックスはきょとんとした表情で声を上げる。


「「え?」」


「まぁ、当分先になりそうだが」


 あごに手を当てたアレンが呟くようにそう言うと、ホランドとノックスが表情を強張らせた。


「そうですね。アレンさんに学ぶのならB級の魔物を一人で倒せないとですね」


「ふ、あぁ俺の弟子になるなら当たり前だ」


 アレンが小さく笑って、ホランドの肩にポンと乗せた。


 ホランドとノックスはアレンから弟子という言葉を聞いた瞬間に沸き立つモノを感じ、揃って元気よく声を上げる。


「「は、はい!」」


「おーおー元気。元気。……それで洞窟の中はどうなった?」


「だいぶ、獣の臭いがしなくなりましたよ」


「そうか? それは嬉しいな」


 ホランドが洞窟の中に招くと、アレンは洞窟の中に向かった。洞窟へと向かったアレンにノックスが後ろから声を掛ける。


「周りもだいぶ片付いたッスね。あ、アレンさん、俺は燻製の準備してるッスね?」


「あぁ、頼んだ」


 ノックスの問いに答えたアレンはホランドに続いて洞窟の中に入っていった。





 アレンが洞窟の中に入ると、すぐのところにアレンが一人は入れてしまえそうな木箱が置かれていた。


「お、この木箱は?」


「あぁ、飲み水を入れていく為に木箱を作りました」


「おーいいじゃん」


 アレンが感心したように言うと、木箱の蓋をあけて中に入っていた水を確認していた。そこでアレンが洞窟の中に入ってきたのに気付いたのか。


 洞窟の中で草を編んでいたリンがアレンに声を掛ける。


「あ、お帰りなさい」


「あぁ、ただいま……ん? 何を作っているんだ?」


 アレンはリンが草を編んでいるのに気付いて問いかける。すると、リンがスッと腰を上げて見せると、自身が座っていた場所には草で編まれたモノが敷かれていた。


「ここ洞窟と言っても壁も床も岩なんで……ただ座っているだけでも痛いから絨毯代わりに何かできないかと思って作ったんです」


「確かに……ここの床固いよな。そう言えはさっきアントコッコとか言うでっかい鶏を仕留めたんだが……その鶏の羽で何か作れないかな?」


「羽……一回洗って、地面に敷き詰めるだけでだいぶよくなるかも」


「そうか……それでユリーナは死んでいるのか?」


 アレンはユリーナに視線を向けた。


 ユリーナはアレンが帰って来たことにも気付かずに小さく丸まり親指をしゃぶりながら眠っていた。


「いっぱい魔法を使って……だいぶ頑張っていましたから」


 寝ているユリーナの代わりにアレンの後ろに居たホランドが答えた。


 ホランドの答えを聞きアレンは多めに夕食を準備しないと足りなくなるなっと考えながら、背負っていたリュックを下す。


「そうか……さて、夕食の準備を始めるかな」


「うむ、いっぱい食べるからな。はよう、夕食に」


 ノヴァに急かされながら、アレンは夕食作りに取り掛かるのだった。その日の夕食は大量、食材を消費することになった。





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