知らない戦い
生徒会の手伝いを終えた日の帰り道、なんだか私が気にしてばっかりで何も話すことが出来なかった。
それでも全然輝くんは嫌そうな顔をしなかった。
「ただいま~」
「お、お姉ちゃんおかえり……」
「うん、ただいま。お母さんは?」
「会合らしいよ……」
「そっか。ちゃちゃっとご飯作るから待ってて~」
そう言ったお姉ちゃんは、本当に手早く美味しいご飯を作ってくれた。
あとはお風呂に入って、寝る前に勉強を少しだけして、それから寝るだけだ。
でも今日だけは少しお姉ちゃんと話したい。
「お姉ちゃん起きてる?」
「ん、起きてるから入っていいよ」
私はお風呂を出ると、すぐにお姉ちゃんの部屋に向かった。
部屋に入ると、勉強机に向かってお姉ちゃんは何かをしていた。
「勉強中だった?」
「生徒会のお仕事っていう名の社会勉強」
どうやら私たちを早く帰すために、だいぶ持ち帰りをしていたようで机には大量の資料が置かれている。
「……手伝おうか?」
かなりの量と難しいことをしているはずだが、お姉ちゃんには一切疲れを見せない。私が来て少しでも心配させないための配慮などだと考ええると少しだけ心が痛かった。
「ボランティア部としてこれからもお願いするから大丈夫。それに何か用事があって来たんでしょ?」
「うん……」
やっぱり単刀直入に言うのは苦手だ。それが聞きづらいことならなおさらだ。
お姉ちゃんが少しだけ笑ったような気がした。
そんな私の心境を察したのか、お姉ちゃんの方から話を切り出してくれた。
「……電話のことじゃないの?」
「……うん、突然だったからあの時はなんて返したらいいか分からなかったの」
「別にあの時も言ったけど返事が何か欲しかったわけじゃないの。別に冬香に非はないからそんな顔しないで」
「でも一応……」
するとお姉ちゃんはちゃんとこちらに向き直って、話を聞いてくれる態勢をとってくれた。
「私はお姉ちゃんが……その輝くんと付き合うのは良いと思うよ。二人には幸せになってほしい」
するとお姉ちゃんが軽く拳を握った。
「……それって輝くんと私が付き合うのは幸せになるってこと?」
しかしお姉ちゃんの表情は変わらない。
「私はそう思ってる……」
「……どうしてそう思うの?」
「だって二人ともとってもやさしいし……」
そこまで言ったところで、お姉ちゃんの顔を見た。
私の喉が思わず鳴ってしまう。
その顔は怒りや悲しみと様々な感情が入り混じったような表情をしていたが、ただ一つ分かったのは負の感情が私の言葉で強くなっているということだ。
「だったらどうして今私は輝くんと付き合ってないと思うの?……そこに冬香がいるからでしょ!」
掴みかかってきそうなほどの勢いに私の腰が思わず下がってしまう。
「それはだって輝くんと私が幼馴染だから……」
「だったら私だってそうなのよ!私だって幼馴染だし、ずっと輝くんのこと考えてたんだよ!……なのになんで冬香ばっかりなのよ」
お姉ちゃんが気力を失ったように深く座り込む。
売り言葉に買い言葉、正直お姉ちゃんが何を主張しているかなんてイマイチ分かっていなかったが、私まで高まったテンションに乗っかる形で語気が強くなってしまう。
「別に……別に好きにしたらいいんじゃないの!?どうして私にそんなこと言うの?分からないよ……」
「分からないの?私が言ってるのは冬香は輝くんのことどう思ってるの!?お願いだから邪魔しないでよ!」
お互いに微かに涙を流す。
だがその涙の意味は全く違う。
「分からないよ……好きじゃダメなの?」
「その好きが何かを聞いてるのよ……」
「ごめん……分からないや……」
私はグルグルと回る視界で、何とか歩き出してお姉ちゃんの部屋を出た。
私の好きは、一体何なのだろうか。
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