第61話
早朝、想次郎はいつもの装束に腕を通すと、革製のポーチを肩に掛け、両腰に双剣を、背面には予備のカランビットナイフを装備する。お決まりの狩猟スタイルだ。
想次郎は今日も魔物狩りへと出る。
「エルミナさん。準備は良いですか?」
「ええ」
しかし今回は想次郎一人ではない。エルミナと共にである。
先の決闘場の件で多額の借金を負う羽目になったことで、エルミナが狩りの手伝いとして同行を買って出たのであった。
無論、想次郎はあまり乗り気ではない。いかにこの地域において上位クラスの魔物であるバンシーとはいえ、自身が守ると決めた筈の女性を、あろうことか野蛮な戦いの場へ赴かせなければならないというのは、男として耐え難いことであった。
それにナツメのような、当該エリアにそぐわない上位の魔物のこともある。思わぬ強敵に遭遇しないとも限らない。
「エルミナさん。本当に行くんですか?」
「くどいです」
エルミナは即答し、たった今付けた仮面の隙間から鋭い瞳を覗かせた。今回ばかりは想次郎がどう食い下がろうとも無駄のようだった。
それに想次郎も自身が撒いた種である以上、前のように不用意に虚勢を張ることは躊躇われた。
しかし、最近はナツメ協力のもと特訓だってしている。今のエリアを外れてさらなる強敵に挑戦し、換金額を増やすことが、この件における自身なりの責任の取り方だとも思っていただけに、想次郎は何とももどかしい気持ちであった。
しかし妙案が浮かばない以上あれこれ思い悩むのは諦め、二人で魔物狩りへと出掛けることとなった。
「あ」
宿を出たところで、表で掃き掃除をしているミセリに出くわす。
「げ!」
「『げ!』って何よ」
ミセリは想次郎の素直な反応に唇を尖らせた。
「ごめんごめん! つい反射的に」
「『反射的に』って何よ」
「いやぁ、何でもないんだ……ホントに」
ミセリと出会う度面倒ごとに巻き込まれてきた印象しかない想次郎であったが、馬鹿正直にそれを口に出そうものなら余計に面倒なことになるのが予見できた為、想次郎は曖昧に言葉を濁しながら早々に立ち去ろうとした。
「ま、いいわ。今日は二人でお出掛け? いってらっしゃーい」
「いってきます」
想次郎がミセリに挨拶を返すと、
「……いってきます」
彼の背後に隠れながらエルミナも消え入りそうな声で挨拶を返した。
ほとんど聞こえないくらいの声量であったが、ミセリにもしっかりとそれが届いたらしく、満面の笑みで、
「いってらっしゃーい!」
今度は手を振りながら大声で二人を見送った。
想次郎は、エルミナなりにコミュニケーションを取ろうとしたことが純粋に嬉しくなり、歩きながら自然と口元を緩ませる。
「…………。なんです?」
そんな想次郎の様子が気に食わなかったのか、エルミナはどすの利いた声と共に横目で一瞥する。
「べ、別に何も言ってないじゃないですか!」
非難される謂れのない想次郎は、心外だと言わんばかりに声を荒げる。
「…………」
一度は諦めて視線を外したエルミナであったが、
「でも……僕、正直嬉しいです……エルミナさんがミセリに……」
そう想次郎が言い掛けるなり、再び視線を戻し、キっと睨み付けた。
「想次郎さん腕を出してください」
「なぜです?」
「噛みます」
「なぜです!?」
------------------フレーバーテキスト紹介------------------
【魔法】
氷属性C3:スティーリア
対象一体へ氷属性大ダメージを与える。
魔界の炎帝と恐れられた悪魔の心臓を穿ち貫いたのは氷の槍であったという。超低温の魔力で押し固められた氷の槍は鋼鉄の硬度をも軽く凌駕し、形成した槍を遥か上空より放てば、魔法による推進力と重力加速が伴い爆発的な破壊力を生む。
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