第125話:彼から生まれたモノ
青い光があった。
その不思議な輝きが、人工のものなのかもしれないと思いあたったミラベルは、ぐるりと周囲を見渡す。
まず最初に、鼻息を荒くし興奮した様子のバーシングが視界に止まる。
「おお、なんだこれは! なんだここは! ははは、知らない魔力を多分に感じる! 御老体は俺を羨ましがるぞ!」
白さの中に微かな虹彩を放つ奇妙な貝殻のような素材で作られた建造物がいくつも見える。
それは、そこに建てられたというより、生えてきたと表現したほうがふさわしいほど、地形と一体化していた。
遅れてきた他の者達が一様に奇妙な空を見上げる。
ぐにゃりと歪み、ただ青い輝きだけが降り注ぐそれは、空というよりも光を放つ明るい海のようの感じられた。
しかし、とミラベルは思う。
ようやくミラベルの中の違和感がはっきりとした形となり、確信を得、明確な怒りとなる。
こいつは――この女は……!
怒りのまま、ミラベルが口を開こうとしたその時だった。
女王が彼方の空の輝きに戦慄し、叫んだ。
「――敵襲!」
同時にリディルが動き、彼方から放たれた雨のように降り注ぐ赤黒い灼熱のうち直撃コースのものだけを正確に[貪る剣]で切り落とす。
やや遅れてブランダークが防御魔法を張り巡らすと、ウィンターが羽ばたき跳躍する。
「全く――!」
放たれた灼熱の[言葉]が弾け弾幕となって空を覆うと、ようやくミラベルは状況を飲み込む。
待ち伏せされていた――?
だが、何故?
いや、そもそも誰に……?
盟約では無かったのか?
バーシングが頭を低く抑えながら周囲の様子を懸命に伺う。
「な、なんだ! なんなのだ! どうすれば良いのだ!」
――こいつほんと役に立たないな。
とミラベルは舌打ちをし、女王に言った。
「迎撃します! けど、あなたに言いたいことがたくさんできました!」
この女は、単独で〝次元融合〟を、今、行って見せた。
それは即ち、最初の時点で、既に、[翼]の彼を元の世界に戻してやることができたのだ。
だと言うのに――。
空をいくつもの影が覆う。
それが総勢十七匹ものドラゴンなのだと気づいたミラベルは、慌てて魔法の詠唱に取り掛かる。
しかし――。
瞬間、赤黒い閃光が十匹のドラゴンの首を同時に切り飛ばした。
一匹のドラゴンが果敢に挑むも、そのまま胴体を両断され、墜落する。
残った六匹が同時にその閃光――赤黒い鎧を来た一人の騎士に襲いかかった。
女王がとっさに、墜落するドラゴンに向けて回復魔法を撃ち放った。
するとそのドラゴンは、ようやくこちらの存在に気づき、墜落の進路を羽ばたきで無理やり変える。
リディルが迎撃体制に入ると女王が制し、
「味方です」
と短く告げた。
ドラゴンが女王の直ぐ側に墜落し、苦しげな声で言った。
「盟約の、者。〝グランイット〟の血族――」
だが、女王はドラゴンの言葉を制し、短く告げた。
「守護者[
そのまま女王は心配げにブラスターの顔を覗き込み、
「ダイン卿」
と指示を出す。
ブランダークはすぐにブラスターに回復魔法をかける。
ブラスターは言った。
「時が、来た。だが、盟約の友、遅かった……遅かったのだ。既に[
上空のドラゴンが全て屠られ、赤黒い鎧を着込んだ騎士がミラベルたちに気づく。
その姿は、[翼]の彼から現れた者に酷似している。
だが、妙だ。
密偵として潜り込んだダーン・レイブンによれば、[紅蓮の騎士]と称される彼に似た者は帝都近辺にいるはずだ。
――同時に複数いる、とは聞いているが……。
ミラベルの耳元で、バーシングが小声で言う。
「ブラスターって何だ……? こいつの名は[
わたしに聞くな、と言う間も無く、[紅蓮の騎士]の身体が瞬くと、音すらも置き去りにして一気に剣を抜き去り女王目掛け斬りかかった。
即座にリディルが割って入る。
ミラベルは横に飛び、〝八星〟を触手のように練り上げ[紅蓮の騎士]の周囲を取り囲ませる。
既に、先に飛んだウィンターは斬られている。
リディルが[貪る剣]を振るうと、[紅蓮の騎士]はわずかに姿勢を変え、その一太刀を回避する。
リディルが二撃目を振るうよりも早く、[紅蓮の騎士]の掌底がリディルの華奢な身体を弾き飛ばした。
やや遅れて、ミラベルの[八星の鞭]の乱打が[紅蓮の騎士]を襲うも、全ての攻撃を完全に予知されているかのごとく、回避行動を取ること無くただ速度をわずかに変えただけで突破される。
――こいつ、やばい……!
ミラベルは完全に出遅れたのだ。
バーシング、メスタ、ブランダークが同時に飛びかかるも、[紅蓮の騎士]は剣でバーシングの首を切ると同時にメスタを蹴り飛ばし、返す刃でブランダークの胴を袈裟斬りにする。
その刃は、間違いなくブランダークの背を貫通していた。
ブラン、と叫ぶ間も無く、ミラベルはとっさに回復魔法をブランに飛ばした。
[紅蓮の騎士]が大地を蹴り、女王に斬りかかる。
女王は静かに、穏やかに、囁くようにして言った。
「[
バチン、と女王から赤黒い閃光が溢れ、同時に抜き去った宝剣と[紅蓮の騎士]の刃が交差する。
女王から溢れた赤黒い閃光を纏った宝剣が[紅蓮の騎士]を押しつぶしていく。
[紅蓮の騎士]が、女王と同じく、静かに、穏やかに、囁くようにして言った。
「[
溢れ出た赤黒い輝きが、女王の輝きを押し返していく。
とっさに、カルベローナが前へ出た。
――よせ。
言葉にならず、脳裏に思い浮かんだのはカルベローナという人の優しさと、強さと、無謀さ。
[紅蓮の騎士]の兜がぐるりとカルベローナに向いた瞬間、ミラベルは叫んだ。
「〝
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