第4話 ルータ

 城を出て1週間が経過した。

 城を脱出後、俺達はロゼ王国の近くにある森を2人で協力しながら進んでいった。途中、熊の魔物に襲われたり、珍しい薬草を見つけたりと色々あったが、無事に森を抜けることができた。そして現在はどこかの村か町を目指して草原を移動中だ。


「ユキ、少し休憩しよ?」

「なんだ?疲れたのか?」

「少し疲れた」

「分かったよ」


 腰掛けるのに丁度よさそうな岩があったためシエスをそこへ座らせ、その横に俺も座る。


「ユキ、少しだけど魔力増えたね」

「あぁ、少しだけな」


 そう、俺の魔力が召喚時の時に比べ少しだけ増えていた。予想はしていたが、鍛錬することで少しずつではあるが魔力が増えることが判った。昨日気まぐれに自身のステータスを見たことで発覚したんだけどな。


 それともう一つ、この1週間で判ったことがある。ステータスの知力に関してだが、こいつは魔法の火力に影響しているようだ。はじめは気のせいかと思っていたが、魔物を狩るときにシエスと同じ魔法で火力比べとして水属性の初級魔法水球ウォーターボールを使った際に少し差が出た。シエスの放った水球ウォーターボールは魔物を仰け反らせたくらいの威力に対して、俺の放った水球ウォーターボールは魔物を少し後ろへ後退させるくらいの威力が出た。これにシエスは少し驚いていたな。


「ねぇ、旅の目的、何にするか決めた?」

「いや、まだ何も思いついていない。やりたいことは無いし、夢も無い。どっか辺境の地にでも行ってのんびり暮らすか?大きな街とかに行ったとしても、あの国王のせいで俺達はお尋ね者になってるから、住むことはできないだろうしな」

「それは良い考え。わたしも一緒でいい?」

「好きにしろ」

「ありがとう」


 口元に少しだけ笑みを浮かべてお礼を言ってきた。目は相変わらず死んでいるけどな。


「そんじゃ、辺境の地でのんびり暮らすのは最終的な目的にする。今は色々と情報が欲しいから、素性がバレないようにして多くの町村や街、そして国へ行き、情報収集をしようと思っているがいいか?」

「構わない。わたしは何処へだろうがユキに付いていく」

「そうか…………」


「そういえば、ユキは元居た世界に帰ろうとは思わないの?」

「全く思わん」

「そうなんだ。もし帰るならわたしも連れて行ってもらおうと思ってたんだけど」

「やめておけ、あんな無価値な世界に行くなんて…」

「そう……」


 そろそろ移動開始するか。


「シエス、行くぞ」

「うん!」


 立ち上がり、歩き出そうとしたときシエスが急に手を伸ばしてきた。


「どうした、いきなり手を伸ばしてきて…」

「手繋ごう?」

「…………」


 シエスの伸ばした手を無言で握ると、シエスは先ほどと同じ笑みを浮かべ歩き出した。この1週間で俺に対する評価でも上がったのか?よく解らんが取り敢えず今はこのままにしておくとしよう。




 広大な草原地帯を歩くこと3日、悠貴とシエスは小さな町『ルータ』に着いた。


「ようやく町にたどり着いたわけだが……まずは金を手に入れないとな」

「何か買うの?」

「解体用のナイフとお前の服だ。お前の服そろそろヤバいだろ?」

「たしかに。もう少しでポロリ?するかも」


 度重なる魔物との戦闘でシエスの服の至る所が切れていたり、破けているため少々危ないことになっている。ただ、悠貴が着ていた上着を被せているので特に問題はない。


「(なんでこいつがポロリという言葉を知ってるのか問い詰めたいが…今はそれよりも……)そこのアンタ1つ訊きたいことがあるんだがいいか?」


 悠貴はシエスにツッコミたいのを我慢し、近くにいた町民であろう男に声を掛けた。


「はい、どん……何の用かね?」


 悠貴とシエスを見た男は不快な物を見るかのような目をしながら答えた。


「魔物の素材を買い取ってもらいたいのだが、どこに行けばいい?」

「魔物の素材なら冒険者ギルドへ行け。ここを真っ直ぐ行けば、大きな建物が見える。そこが冒険者ギルドだ」

「分かった、ありがとう」


 一言礼を言った悠貴はシエスと共に冒険者ギルドを目指す。




「……亜人なんか連れてきてんじゃねえよ…ったく嫌なもん見ちまったぜ…」



 10分程歩くと冒険者ギルド?の建物の前まで辿り着いた。


「(亜人差別でもしてんのか?)」


 さっきの男の態度を見るに亜人を好ましく思っていないようだな…視線が俺よりシエスの方に向けられていたし…


「(これは、冒険者ギルドの中に入ったら面倒な事になりそうだ…)シエス、冒険者ギルドの中に入ったら、腕にしがみついてもいいから絶対に俺から離れるな。いいな?」

「分かった。遠慮なくしがみつく」

「………そんじゃ入るぞ」

「うん」


 腕にシエスをしがみ付けさせたままギルドの扉を開け、中へ入ると冒険者らしき人間の視線が一斉に俺達へ向けられた。

 受付カウンターみたいなのを探していると、筋肉モリモリのマッチョが3人、俺達の目の前にやってきて話し始めた


「よぉ兄ちゃん、そんなボロボロの格好で何しに来たんだ?」

「ここはお前みたいなゴミが来る場所じゃねぇんだよ。とっとと帰りやがれ!」

「ただし、そこのエルフはおいていけよ。後で楽しませてもらいたいからな」

「ちょっと待て!そのエルフはオレのだぞ!」

「いいやオレ様のだ!」

「待て待て、3人で一緒に楽しもうぜ兄弟」

「すまんすまん、そうだな」

「わりぃ、わりぃ(笑)」

「って事で兄ちゃんはさっさとぐべら!?」

「テメェ!あべし!?」

「クソ!このやろグハァ!?」


 なんか色々と話し始めたが邪魔なので、3人共に身体強化した足で股間への蹴り上げをくれてやった。これで俺達を邪魔するやつはいねぇな。


「パラさーん!?」

「お前ら大丈夫か!?」

「治癒系使える男、誰か治療してやってくれ!」

「お、おう!」

「テメェ、よくもやりやがったな!」

「ゆるさねぇ!」


 なんか色々と言ってやがるが無視して受付カウンターへ移動し、そこにいる女に用件を伝える。


「魔物の素材を買い取ってもらいたいのだがいいか?」

「は、はい!どんな素材でしょうか!」


 俺は時空属性魔法の異空間収納ボックスを唱え、異空間にしまっておいた複数の魔物の牙や爪、毛皮を取り出し、受付の女に渡す。


「こ、これら全部ですと…金貨3枚に銀貨30枚で、です!」


 金貨3枚に銀貨30枚か…儲かったのかどうか判らんが、まぁいいか。それと…


「この世界の地図はないか?簡易なものでいいが…」

「ち、地図でございますか!?少々お待ちを!!」


 地図を貰えれば、これからの移動が少し楽になるな。

 しかし………懲りねぇ連中だ。


「パラさんの仇!」

「死ねや!」

「黙れ」


 雷属性魔法迅雷じんらいを唱え、襲ってきた連中を全員戦闘不能にする。


「シエス、大丈夫か?」

「平気、ちょっとピリッとしただけだから」


迅雷じんらい』は俺が考えた非殺傷用の制圧魔法で、指向性は制御できるんだが、俺から電気を流すため、俺に触れてる奴にも若干余波がいってしまうのが難点な魔法だ。しかも地味に魔力を多く使うから連発できないのも難点の1つだな。魔力量が増えれば問題ないが。一応シエスにも教えているからシエスも使える。シエスの場合は9回まで連発できる。


 しかし、これ以上戦闘は大分キツイな…迅雷じんらいを使ったせいで魔力の残りがほとんどない。まぁ、万が一の時はシエスに頼むか…


「お、お待たせしました!こ、こちらが地図になります!」

「ありがとう、こいつは礼だ」


 地図の代金として銀貨10枚をカウンターに置く。

 とりあえずこれで、ここでの目的は達成したことだし出るとしよう。


「あ、あの!こんなにもお金はいらないですよ!」

「次に行くぞ、シエス」

「分かった」

「あっ!待って!」


 こうして俺達はギルドから出て行った。なんか後ろで騒いでいたが全てスルーした。










 武具屋で解体用のナイフを予備も含めて3本と砥石、シエス用の防具を1着買い、服屋でシエスの服を3着、俺のを1着、姿を隠すためのフード付きのローブを2着買った。


「これで残りは銀貨7枚だな」

「必要なものは全部買えたから問題ないよ」

「たしかにな。でも、これだけ残っているなら荷物運びのできるバックパックのようなものを買えそうだな」

異空間収納ボックスで事足りると思うよ?」

「お前ならそれでいいかもしれんが、俺は魔力量が少ないからな。少しでも節約をしないといけない」

「それなら、わたしが管理するよ?」

「自分で出来ることは自分でやるから、しなくていいぞ」

「…分かった」

「……なんか不満そうだな」

「…そんなことない」

「お前に頼ることが少ないからか?」


 と俺が訊くとシエスは頷いた。


「あのなぁ、さっきも言った通り、俺は自分で出来ることは自分でやる主義なんだ。だからちょっとした事でお前に頼るつもりは一切無い。特に日常の事ではな。だが、戦闘に関しては存分に頼らせてもらうから安心してくれ。それにしても、なんで頼らないことに不満を感じたんだ?」

「だって、頼られなくなったら、また何処かに売られるかもしれないと思ったんだもん…」


 そういやシエスは、両親からお前はもう必要無いって言われて国へ売られたって言ってたな…それがトラウマになって、こんな不満というか不安が出てきたのか…

 まだ14のガキだもんな…そう考えても仕方ないか。


「これから先、お前を見捨てる気も売り飛ばす気も一切無いから安心しろ」


 とシエスの頭を撫でながら言ってやった。


「その言葉信じてもいいんだよね?」

「もちろんだ」

「本当に?」

「本当だ」

「本当の本当に?」

「本当の本当だ」

「分かった。さっきユキが言ったこと信じるね」


 これでシエスの不安も少しは無くなったか。


「ねぇ、ユキ」

「なんだ?」

「ありがとう」


 とお礼を言ってきたとき、一瞬シエスの目に光が戻ったように見えた。


「どういたしまして」







 その後、道具屋にてリュックサックタイプの鞄を銀貨7枚で買い、全ての目的も達成しているため、シエスと共に町を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る