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 と、思っていたが、

「お前なんかに娘はやれん!帰ってくれ!」

 そりゃそうだ。

 彼女は泣いて父親にお願いをした。父親はまったく聞く気が無い。

「私の決めた人なら誰でもいいって言ったじゃない!」

 例外はある。

「こいつは駄目だ!」

 そりゃそうだ。

 離れたところで母親がおいおい涙を流している。

 俺は、立ち上がった。

 一瞬皆が静かになった。

「お邪魔しました」

 俺は黄色い歯を見せにやりと笑い、玄関に向かって、そそくさと逃げ出した。

 神様、俺、やっぱりあんたについてくの辞める。


 俺は寝床に戻ってきた。やっぱり、マイ・畳が一番落ち着く。

 ふと、俺の目に見慣れないものが見えた。どうやら、求人情報誌のようだ。俺には関係ない。

 ・・・。

 俺は求人情報誌に手を伸ばした。パラパラとめくる。

 自分の身体の臭いを嗅いだ。・・・くさい。

 目の前の空き缶を見た。五百円入っている。全財産だ。手に取った。立ち上がった。

 右手に求人誌、左手に五百円・・・。

 俺は銭湯に向かって走り出した。


                                おわり

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ホームレス 北見夕夜 @yu-yakitami

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