第200話 大人の事情ってやつか?
「海外の国が望んでいるのかね? そうではないだろう。 それに、もし君が勝手に動いてその力が知られれば、下手をすると世界対日本の構図になってしまう。 それに、逆の立場なら諸外国はどうすると思う?」
クソウが俺をジッと見つめたまま言う。
「さ、さぁ・・」
俺は曖昧な返事しかできない。
「フフ・・日本など見捨てられるよ。 諸外国にとって日本などはどうでもいい小国だ。 それに人種的にも厳然として差別は残っている。 声にしては言わないがね」
クソウが俺を
俺は黙って聞いていた。
「佐藤君・・これは政治的な判断だけではないのだよ。 国民性というか、君と私も考えが違うだろう。 そういうものだ」
俺の表情を見てクソウが微笑み、続ける。
「例えば、貧困国に支援をするとする。 どうなると思う?」
「そ、それは感謝されるでしょう」
「無論だ。 だが、その後の付き合いを考えると難しい。 より多くの支援をしてくれる方に平気で顔を向ける。 先に支援したことなどまるで忘れたようにね・・食料危機という問題もそうだよ。 我々がいくらお金を投資しても、回収できるものではない。 諸外国との関係上、仕方なく多額の税金を投入している。 でもね、本来ならサツマイモなどの種を送り、自分たちで栽培して努力しろといいたいのだよ。 だが、それをしない。 しない方が楽に生きて行けるからね・・おっと、これは余計な話だったかな」
クソウが苦笑する。
「えっと・・何を話していたかね・・そうそう、他国に結界などは必要ない。 非情だと思ってくれるならそれでもいい。 だが、やめてくれ。 それに諸外国は帝国的野心をもう隠そうともしていない。 ロシアや中国の領土の使い道を考えているよ。 日本は参加すらさせてもらえなかったがね」
俺は驚いた。
その俺の顔を見てクソウが笑う。
「不思議だろう・・イギリスにしてもドイツにしても、まるで旧来の友人のような感じだったが、そんなものだよ。 だからこそ我が国独自の力が必要なのだよ。 まぁそれがわかる政治家は少ないがね・・と、ワシも朝から愚痴ばかりだな・・ワッハッハッハ・・」
クソウは笑いながら、なお俺に念を押してきた。
結界は日本だけで十分だと。
そしてそれだけを言うと、神崎の事務所から出て行く。
「じゃ、後は神崎君、よろしく頼むよ。 ワシは朝食でも食べてくる」
「はい、閣下」
神崎が見送る。
俺はソファに座ったままクソウの言葉を
確かにクソウの言う通りだ。
感情で動いてはいけない。
それにしても、イギリスもドイツも平気で事務的なことができるんだな。
まさか隣国の
俺は複雑な気持ちになる。
・・・
・・
俺はしばらくそこで考えていた。
悔しいが、クソウの言う通りだろう。
俺がこちらに帰ってきた時なんて、世界なんてどうでもいいと考えていたくらいだ。
それに俺に近い人たちの安全が確保されればそれでいい。
俺は取りあえずそう結論を出した。
神崎がスッと近寄ってくる。
「どう? 答えは出た?」
神崎が言う。
「うん・・答えというよりは、クソウさんの言う通りだと思うよ」
「難しい問題よね。 誰でも彼でも助けれるわけじゃない。 手を差し伸べても感謝されるとは限らない。 恨まれることすらある。 だからね・・私は単純に考えることにしたのよ。 仕方ないという言葉は嫌いだけど、そうなるわね」
神崎が微笑むような悲しそうな顔をして言う。
「うん・・俺も難しいことはわからないし、できないことは多々あると思う。 正直、俺も助けたくない奴なんていっぱいいるし、助けたい人もいる・・・とにかく、日本以外には結界は張らないよ」
俺がそう言うと神崎が微笑みながらうなずいた。
「あ、それはそうと、あの子・・フローラさん、どこにいるの? いつも一緒だったから・・」
神崎が聞いてくる。
「あ、あぁ・・実は・・」
俺は今朝帰ったことを伝える。
クララを頼ってきていたが、どうやら自立していくことを選んだと伝える。
クララが手続きを全部してくれたとも付け加えた。
・・・
・・
神崎が、町の外に出るときはわかるシステムがあるから気づくはずだが・・とブツブツ言っている。
俺は焦ったが、超加速で移動したので映るはずもない。
「さ、さぁ・・うまく作動してなかったんじゃない?」
俺も苦し紛れに言葉を出す。
「う~ん・・やはりもっときちんと設定しないとダメね・・」
神崎が勝手に自分で答えを見つけてくれそうだ。
俺が席を立ち、事務室を出て行こうとすると神崎が言葉を出す。
「あ、佐藤さん・・あなたの結界に入ってくれば、身体から異物がなくなるのよね? 日本に来日すれば、自然と健康になれるわ。 まぁ、そんな情報は流せはしないけど・・とにかくあまり悩まないでね」
「ありがとう」
俺は神崎の言葉で少し気が楽になった。
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