第168話 帰路につく



「ディアボロスよ・・貴様はやり過ぎたのだ」

魔王の側近たちがつぶやく。

ディアボロスは震えながら、周囲を確認。

魔王の側近が並んでいる。

ディアボロスの身体が反応する。

動けば死ぬ。

そして即座に理解する。

自分が愚かだった。

魔王に届くなどと・・ありえなかったのだ。

人間界に行き、比べられる対象がいない。

自分が凄まじく強くなったように感じていた。

そして、たかだが帰還者の魔素を吸収したからといって、劇的に自分が強くなるわけではなかったのだ。

この魔王の側近たちからすれば、ディアボロスのしたことなど結局は何もしなかったに等しい。

・・・

側近たちの隙間から、玉座に座った魔王が見える。

ディアボロスのことをジッと見つめているようだ。

「・・ま、魔王様・・」

ディアボロスが思わず言葉を出す。

ビシ!

またしてもムチが振るわれ、ディアボロスの顔を跳ね上げる。

「だから、口を開くな!」


ディアボロスを覆っているグレイプニルの鎖が解けることはない。

「ディアボロスよ・・」

魔王の声が通る。

側近たちが一歩下がった。

「もはや是非もない・・我が一族の汚点・・貴様を我らが始末できることがせめてもの救いか・・」

魔王はそう言葉を紡ぐと席を立つ。

少しだけディアボロスを見つめると、バッと翻り背中を向けてその場から去って行く。

魔王を見送ると、側近たちが改めてディアボロスを囲む。

「ん?」

側近の一人がディアボロスの腰の辺りを見た。

「これは・・魔剣、ティルフィングではないか・・愚か者が」

「なるほど・・」

側近たちはうなずく。

「貴様は既に命数が尽きていたのだな」

側近の言葉にディアボロスが不思議そうな顔で見上げていた。

「持ち主の望みを叶える魔剣。 だが、代償として持ち主の命を奪う・・伝説だ。 誰も実践したことはない。 そんな愚か者は我が魔族にはいないからな」

「さて、ディアボロス・・さらばだ」

側近の一人がそう言葉を出すと、迷わずにディアボロスの身体を槍で貫いた。

トス!


ディアボロスは槍で貫かれるまで何が起こったかわからなかった。

ゆっくりと自分の胸を見る。

赤い細い棒が見える。

『・・刺されたのか? いったいいつの間に・・それに急速に身体が重くなっていく・・』

ディアボロスはその場で片膝をつく。

そしてそのまま伏せるように倒れ込んだ。

側近たちの声が聞こえる。

「愚かな奴よ・・」

「おぉ・・奴の身体から魂が解放されていく・・」

「うむ」

ディアボロスの身体から黒い煙のような影が天に向かって昇っていった。


側近たちの声はもうディアボロスには届いていない。

「奴の転移は確認できないな」

「うむ・・ロンギヌスの槍で貫かれたのだ。 その場に魂は固定されている」

「それにしても・・恐ろしい宝具だな」

「さて・・ヘル・フレイム」

側近の一人がそう詠唱すると、ディアボロスを黒い炎が包む。

・・・

しばらくすると、ディアボロスのいた場所には1本の槍だけが残されていた。


<テツ>


俺たちはペンタゴンに帰って来ていた。

アリスが建物内の通路を歩いて行く。

勝手知ったる場所なのだろう、とある場所まで来ると立ち止まった。

「ここよ」

アリスがそう言ってドアを開けてくれた。

まぁ自動ドアだが。


アリスに促されながら、俺たちは部屋に入る。

部屋はそれほど大きくはない。

大きな机と横に星条旗が立てかけられている。

机に肘を置き、椅子に座っているがっしりした男が微笑みながら言葉を出す。

国務長官だ。

「ご苦労だった、アリス君」

最初、俺は気づかなかったが、部屋の壁際に神崎がいた。

国務長官は立ち上がりながら俺の方を見る。

「日本のかたも、ご協力感謝する。 そして・・彼は?」

「報告が遅れました。 彼は帰還者でクリストファーといいます。 ビリオネアに属する人物だと言うことです、国務長官」

国務長官は少しの間クリストファーを見つめていたが、シートに座るように手で合図をする。


クリストファーと俺とクララ、そしてアリスが席についた。

神崎は壁際で立ったままだ。

国務長官が俺たちの前にやってくる。

ゆっくりと俺たちの前に座った。

微笑みながら話しかけてくる。

「テツさんでしたかな・・神崎氏からいろいろと伺いました。 これからも我が国と盟友であってほしいものですな。 それからクリストファー君、いく当てはあるのかね? 即答はしなくて良いが、我が国で生活するならば市民権を取得できるようにしよう。 考えておいてくれたまえ」

国務長官はそこまで話すとゆっくりとうなずく。

「本当にご苦労様でした」

そして、そう言葉を残すと席を立つ。


神崎が国務長官の前に行き挨拶をしていた。

「それでは我々は帰国いたします。 これからもよろしくお願いします」

「うむ」

神崎が俺の前まで来る。

「佐藤さん、では行きましょうか」

軽い足取りで神崎が俺を先導する。

アリスも何も言わずに俺に微笑みを向けてくれる。

本当になんかあっけないな。

あれほどの戦闘だったのに・・ま、こんなものか。

クララは相変わらず俺についてくるようだ。


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