第165話 グレイプニルの鎖



ディアボロスが魔剣を振り下ろす。

ケンとリカは左右に分かれる。

ケンはディアボロスに向かっていたが、思わず大きく避けていた。

「フフ・・勘がいいな」

ディアボロスが笑いながら言う。

ケンは決して油断などしていない。

いくらこのオハンの盾があったとしてもそれに頼ることはない。

ケンはディアボロスに向かって小さな魔法を放つ。

見た目はファイアボールだ。

だが、その中身は別物。

遥か上位の魔法が込められている。

3つの赤いテニスボールくらいの火球が飛んで行く。


「あんな小さな魔法では・・」

クリストファーがつぶやく。


ディアボロスがケンから放たれた魔法の弾を斬る。

!!

その斬った瞬間に、火の柱が立ち昇った。

ドォーーーーン!!

クリストファーのところまで音よりも先に空気が震えた。

ディアボロスが斬った火の玉に連動して、残りの火の玉も爆発する。

ドッゴォォォーーーン!!!


クリストファーやアリスたちはその場で放心状態だ。

もしかして一瞬は気絶していたかもしれない。

レオがまるで金魚のように口をパクパクさせながらつぶやく。

「じ、次元が違う・・」


ディアボロスは炎の中、ケンたちの位置を探っていた。

!!

すると目の前にケンがいるではないか!

急いで剣で突き刺そうとする。

ケンはディアボロスの傍に黒い砲丸玉くらいの球体を残してバックステップする。

そしてディアボロスに向けて右手を握りしめた。

ディアボロスの傍にあった黒い塊に向かって吸い込まれるように火が収束する。

黒い塊に向かって渦を作り、ディアボロスの動きを束縛した。


ディアボロスの左指が2本消失していた。

ディアボロスはケンを睨むと軽く息を吐き出す。

「ふぅ・・」

失った2本の指が再生。

「私に無駄な魔素を使わせおって・・殺してやる」

ケンは心臓がグッと掴まれたような感じがした。

これは恐怖だ。

同時に思っていた。

まさかカーブラックホールが効かないとは。


「ケン君! ありがとう」

言葉が飛んで来た。

!!

ケンとリカがテツの方を向く。

ディアボロスも向いた。

俺は両手で球を持つようにしてディアボロスを見る。

両手の間には光る球がある。

「ディアボロス、これで終わりだ!」

俺が両手をグッと握る。

同時に光の球が潰れる。

!!

ディアボロスが自分の右足を見た。

光るものが足に絡みついている。

「な、何?」

!!

即座に理解したようだ。

「こ、これは・・グレイプニルの鎖ではないか! 何故、貴様が・・」

ディアボロスを包んでいた黒い気配は消えていた。


ケンとリカが俺の傍に来る。

「テツさん、大丈夫ですか?」

「ありがとう・・かなりしんどいが、問題ないよ」

俺は答えながらディアボロスを見る。

「ディアボロス・・貴様が神を拘束していた鎖だ・・自分でくらえ!」

俺はゆっくりと背を伸ばして行く。

ディアボロスの動きは完全に封じられているようだ。

ホーリーランスを片手に俺はディアボロスに近づいて行く。

ケンもオハンの盾を前にして一緒に近づく。

ディアボロスの顔は、今までにない表情をしていた。

もがくような、焦るような、とにかく危機を感じているのだろう。

「グググ・・こ、こんなはずでは・・このぉ・・」


俺はディアボロスの一歩前に立つ。

ホーリーランスを構えた。

ここで余計な台詞を吐くと油断ができるかもしれない。

仕留める時に仕留める。

俺は無駄な言葉を出すことなく一気にホーリーランスをディアボロスの顔を目掛けて突き出した。

ガキーーーン!!

ディアボロスの額でホーリーランスの先が触れて止まっている。

「な、なに?」

俺は驚いた。

まさか・・効かないのか?

一瞬で俺の身体を嫌な感覚が覆う。


『テツよ・・とどめは待ってくれないか』

!!

誰かの声が聞こえる。

ケンとリカもキョロキョロしていた。

グレイプニルの鎖が伸びてディアボロスを覆って行く。

どうやら声は鎖から聞こえるらしい。

鎖は伸びるに伴い白く光っているようだ。

『ディアボロス・・よくも我が魔族に恥をかかせてくれたな』

「・・ま、魔王・・様?」

ディアボロスがつぶやく。

明らかに怯えているようだ。

!!

「魔王?」

リカが口ずさむ。


『テツよ・・ディアボロスの処理をわれに譲ってはもらえまいか』

魔王の声が聞こえる。

「魔王様・・」

俺は少し考えていたが、ゆっくりとうなずく。

「魔王様、わかりました。 よろしくお願いします」

『テツよ、無理を言ってすまぬな。 それに若い人族の子たちよ、ご苦労であった。 感謝する』

魔王の声は少し間を置くとディアボロスに話しかける。

『ディアボロスよ・・貴様に逃げ道はない。 魂を浄化し無に戻そう。 囚われた魂も解放してな・・楽に死ねると思うなよ』

「よ、よせ! やめろ~!! 人間・・私を助けろ・・いや、助けてくれ~・・」

ディアボロスの声がだんだんと遠くなる。

グレイプニルの鎖と共にスーッと消えて行った。


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